教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

4/23 テレ東系 ガイアの夜明け「アイリスオーヤマ 強さの秘密を探る!」

コロナ禍でも快進撃のアイリスオーヤマ

 コロナ禍で売り上げが大苦戦する企業が多い中で、快進撃を続けているのがアイリスオーヤマ。番組ではその快進撃の秘密を探っている。

 アイリスオーヤマは今年も651人の過去最高の新入社員を迎えた。現在の社員数は1万5400人で、売り上げは6900億円。コロナ禍でもそれをものともせず、むしろ逆に売り上げを伸ばしている。アイリスオーヤマの強みはその対応の早さ。いろいろと新規事業を次々に手がけるのがアイリスオーヤマだが、その採用は月曜日に社長の大山晃弘氏や役員同席で行われる月曜会議で決定される。社員から提案された事業計画に対し、社長がその場で決断、推進が決定された事業はその場で決裁がされることになる。

 今回のコロナ禍でもマスク不足が囁かれた際、アイリスオーヤマでは直ちに30億円を投資して国内でのマスクの製造が決定された。実際にマスク製造が始まったのは3ヶ月後、月に1億5千万枚が製造されることになった。これは普通の会社ではあり得ないスピードである。そしてここで生産された不織布マスクは既にアイリスオーヤマの看板商品の一つともなっている。さらにはウェットティッシュの国内生産、テレワークに対応した低価格パソコンの生産なども決裁され、コロナの時世を睨んだビジネスが展開されている。

 

アイリスオーヤマの成長のDNA

 アイリスオーヤマをここまで育て上げたのは会長の大山健太郎氏である。現在業績は絶好調であると言う。「ピンチがチャンス」というのが同社の考えで、社会の変化にスピード感を持って対応するのが最大の強みとなっている。父からプラスチックの下請け工場を継いだ彼は、最初に作った養殖用のプラスチックブイが初のオリジナル商品で、そこから植木鉢や衣装ケースなどのオリジナル商品の生産で着実に業績を伸ばす。そして2010年に他社よりも安価なLED電球で名を上げる。最近は家電に力を入れており、必要な機能に絞って安価に提供する製品が強みである。3年前に長男の晃弘氏が社長を継いだのであるが、晃弘氏は既に売り上げを倍増させているという。

 

家電製品に注力する同社

 アイリスが力を入れているのが家電製品である。安くて機能性が高いのが売り。最近は大型家電に注力しているという。大阪に家電開発の総本山があるが、ここのスタッフは大手家電メーカーからの人材が多い。そんなスタッフの一人である52才の山本憲太郎氏が挑んでいるのが洗濯機開発。最近流行のドラム方洗濯機で、アイリスも2年前に他社よりも圧倒的に安い価格で製品を投入しているが、乾燥機能を求める声がかなり多かったという。山本氏の課題は、いかにコストを抑えつつ乾燥機能を追加するかである。

 価格を抑えるために他社のような高性能なものではなく、標準的なファンとヒーターを取り付けることにする。テスト機で実験したところ、大手メーカーのグレードの高い製品が1時間程度で乾燥できるのに対し、3時間の時間を要するが乾燥は出来た。ただここで問題が発生する。綿素材を乾燥させると乾きすぎてシワシワになってしまう。大手のように乾かしながらアイロン機能を持たせるようにすると価格が跳ね上がってしまう。そこで山本氏が他のスタッフとアイディアをぶつけ合いながら考えついたのが、あえて乾燥を80%程度まで抑えて、後はそこで干してもらうという方法。こうすれば衣服にシワが付かずアイロンも必要ない。

 この製品は直ちに月曜会議にかけられた。社長の晃弘氏は「かえって面倒臭くないか」と疑問を持ったのだが、山本氏は「この一手間でアイロン不要なので手間としては省ける」とアピール。晃弘氏は製品のポイントを適切に訴えると言うことを条件に事業化にゴーサインを出す。12万円台のキャンペーン価格で売り出された同製品は、その価格の安さもあってなかなかの好評である。

 

売り上げ1兆円を目指しての新規事業

 晃弘氏の悲願は2022年に売り上げを1兆円に届かせるというものだという。そのための秘策として考えているのが照明を核とした事業所に対してのBtoBビジネスオフィスの照明をコントロールすることで生産性を上げたり、売り場の照明のコントロールで売り上げに影響を与えるのだという。同社の傘下のホームセンターで実際に照明のコントロール実験を行ったところ、照明を暖色系や昼光色に変化させることで、製品の売り上げが変わったり、レジの行列の長さが変わる(客が取る間隔に変化があったらしい)などのデータを取得できたという。同社ではこのデータを用いての新たなビジネス展開も検討している。

 

 最近富にその名を聞くことが多くなったアイリスオーヤマです。実際のところ私も同社の製品で使用しているのがサーキュレーター。いわゆる大手メーカーの製品に比べると価格が圧倒的に安かったのが一番のポイントになっている。大手メーカーの製品になると首振りが複雑になっていたり、風量に1/f揺らぎを入れたりなどの「余計な」機能がついて非常に割高になっているが、同社の製品はとにかく首を振りながら風を出すだけという基本に忠実でシンプルなのが特徴。サーキュレーターなんかはどうせ我が家のようなほぼ24時間つけっぱなしというまるで耐久テストのような過酷な条件下では、寿命が限定されて使い捨てに近い状態になるので、ランニングコストを考えて同社の製品を採用している。

   
我が家ではこのタイプを2台使用してます

 アイリスの商品開発室に大手家電メーカーからの人材が多いいっていたが、大手メーカーはここ数年は業績の低迷と共に、主に技術者を中心に大幅に人材をカットしたという現実がある。四半期の営業成績しか考えない無能経営者がはびこった結果なのだが、これらの人材が技術と共に韓国や中国に流れ、それが今日の日本の家電製品の全敗状況につながっている。そのような流れの中でアイリスにも流れていたということになるが、韓国や中国に流れるよりはマシというものである。

 とにかく大手メーカーの最近の製品は完全に迷走しているのが明らかである。必要のない余計な機能だけはやたらに付いているが、製品の基本的な製造などはコスト重視で中国などで行うようになった結果、基本的な信頼性はかつてのメイドインジャパンとは違って非常にレベルが低くなっている。結局は昔の看板しか残っていないという状態で、それでは売れなくなるの当たり前である(私自身、大型家電などこの20年程度の日本製品は、あからさまに性能・耐久性が大幅に低下しているのを実感している)。アイリスオーヤマはその間隙を突いたというわけで、今の時代の消費者のニーズにマッチしていたというわけである。

 

忙しい方のための今回の要点

・コロナ禍で苦戦する企業が多い中、快進撃を続けているのがアイリスオーヤマ。今年も過去最高の651人の新入社員を採用した。
・同社の強みはスピード感のある経営。各事業の企画は社長以下役員が同席する月曜会議で吟味され、社員からの提案に対して社長がその場で決定をして事業化が決まったものは直ちに決裁する。昨年のマスク不足の際にも30億を投資してマスク製造ラインを作ることが直ちに決定され、3ヶ月後には月に1億5千万枚のマスクの製造が始まるという普通の会社ではあり得ないスピードでの対応がなされた。このマスクは今ではアイリスの看板商品の一つとなっている。
・同社はこのような環境の変化への迅速な対応が売りで「ピンチがチャンス」というのが同社の考えてあるという。
・同社が最近力を入れているのが大型家電。シンプルな機能で圧倒的な安い価格というのが売りである。最近でも圧倒的に安いドラム型洗濯機を投入した。
・2022年に売り上げ1兆円を目指す同社は、照明を利用した事業を計画しており、そこでは照明を変更することでオフィスの生産性を向上させたり、売り場の売り上げに影響を与えると言うことが目論まれている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・なんか日本の大手家電メーカーが失って久しい活力のようなものを同社に感じましたね。かつての日本の家電メーカーはどこもこういう活力をもっていたように思います。それが大企業病というか、技術軽視で短期利益だけしか眼中にない無能経営者の蔓延で一気にダメになりました。私は各社が利益重視で技術者を切り始めた時に、これは早晩日本の家電メーカーは失墜すると予想していたのですが、その失墜は私の予想よりもさらに早かったです。実際にほんの20年ぐらい前は、韓国製品なんて質が悪すぎて購入時には完全に考慮外でしたから。

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