教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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5/23 サイエンスZERO「豪雨激甚災害時代の新たなる脅威 "津波洪水"に迫れ!」

津波洪水という新たな脅威

 温暖化の影響に見られる環境変化によって、近年は大規模水害が頻発している。今回は昨年の熊本南部の球磨川流域の洪水について迫る。この洪水は今までの洪水メカニズムを覆すタイプの洪水であることが分かってきた。

 この時は今までの観測記録を覆す降雨があった。原因は線状降水帯積乱雲が次々と発生しては停滞、球磨川流域に大量の雨を長時間にわたって降らせた。この災害で流域内6100棟の家屋が浸水、50人もの命が奪われた。強烈な水の流れは「津波のようであった」と言われている。

 特に被害が大きかったのが球磨村渡地区の茶屋集落である。15棟の家屋が流された。増水は極めて早く、家財を持ち出す時間さえなかったという。この集落は4メートルの堤防で守られていたのだが、大量の水はその堤防を易々と乗り越え、最終的な水位は6.2メートルにも及んだという。これは従来の洪水の、堤防が切れて水が浸入して徐々に水位が上がっていくというイメージとは根本的に違うという。大量の水が川と集落を一体化して流れており、まさに集落が川の中に存在する状態になってしまったのだという。川の流れの速度で水が流れて行くから、水が圧倒的な破壊力を持ったのだという。これは津波による家屋の破壊と共通するという。このような洪水を「津波洪水」と呼ぶ。

 全く今までと異なる洪水が発生したことで、従来のハザードマップは見直しを余儀なくされた。100年に1度の洪水で今まで1~2メートル浸水するとされていた地域が、1000年に1度のもっと大きな規模の洪水を想定することで、最大20メートルの水深があり得るなど、浸水が見直されることになった。

 

川の形による被害や都市型の被害

 また流れの速度が被害を拡大するメカニズムも存在する。川が湾曲する部分では遠心力によってカーブの外側の方が水位が上がる。その差は3.4メートルにも及んだという。この水がそのまま流れ落ちる形で集落を直撃して住宅を破壊したという。

 さらにカーブが連続する地域では別のメカニズムも発生した。水が堤防を越えることによってカーブをショートカットした真っ直ぐな早い流れが発生し、これが結果として集落の被害を大きくすることにつながったという。

 また都市部においても思わぬ洪水のリスクがあることも分かった。人吉の市街地でも洪水が発生し20人が犠牲になった。しかしその中には水深が浅い場所でも犠牲者が出ていることである。80才の男性が亡くなった場所を調べたところ、周囲から水が流れ込んできたという話が向かいに住んでいる住人から得られた。川から離れていても、その前に水路や支流などから水が溢れ、それが市街地のわずかな起伏に沿って特定の地域に流れ込むということが発生するのだという。また男性が亡くなった時のこの辺りの水深は50センチほどだったらしいが、男性の家の前には深さ1.5メートルの水路があり、その部分は流速が早くなっていたのだという。それで家から出て来た男性はこの流れに足を取られて流されたのだという。都市洪水ではどこから水が来るか分からないと言うことが起こるという。

 ではこのような洪水を防ぐにはどうするか。現在流域治水という概念が導入されようとしているという。流域全体で例えば田んぼを貯水池的に使用して川の水位を減らすとか、さらには田んぼの間の農道の高さを高くすることで堤防的に働かせて集落の浸水を防ぐなどの方策が検討されているという。

 

 以上、とんでもない洪水の話であったが、津波洪水は私にも衝撃的であった。やはり私も、洪水と言えば水位が堤防を越えて、切れた堤防から徐々に水が溢れて周囲が水没していくというイメージしかなかった。それが水の塊が一気に押し寄せて、住宅地も川も一緒くたになって流れて行くとなれば、その破壊力は桁違いである。

 早急に水害への備えが必要であるが、根本的には地球温暖化の対策が必要となるので、それには国際的取り組みが重要である。以前はアホのトランプが対策を全力で妨害していたが、幸いにしてアメリカの政権が変更されたので、地球規模での取り組みを進める必要があるだろう。後は日本にまともな政権が就くことがポイント。

 

忙しい方のための今回の要点

・昨年の球磨川流域の洪水は今までに無いメカニズムの洪水が発生していた。
・被害の大きかった茶屋集落は、高さ4メートルの堤防を越える大量の水が一気に押し寄せており、最終的には集落が川と一体化して水が流れすぎていく状態となり、家屋に壊滅的な被害を与えた。このような洪水の破壊力は津波と同じであり、津波洪水と呼ぶ。
・また河川の湾曲部では外側の方が遠心力で水位が上がるので、その水が流れ落ちていく形で集落を直撃するということも発生している。
・またカーブが続くところでは水がカーブをショートカットする形で集落の上を速い流れで流れて行く現象も起きた。
・さらに都市の中では、支流や水路が氾濫することで思いがけない方向から水が押し寄せる場合があることも分かった。
・現在流域治水の考え方に沿って、田んぼを貯水池として使用したり、農道を高くして堤防の働きを持たせるなどが考えられている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・とにかく最近の洪水災害を見ていると、今までの常識が全く通用しない規模になってきているのを感じます。さらには台風などの規模も巨大化しているし。最早温暖化に対する対策は待ったなしでしょう。

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