世界遺産になるやんばるの豊かな森
沖縄諸島のやんばるの森が世界自然遺産に登録されようとしている。その中でも沖縄本島の北部は非常に貴重で多彩な生態系が存在している。またここには5年前に米軍から変換された場所もあり、そういう場所は人間の手が入っておらずその生態系も詳しくは知られていない。そこで今回、番組は専門家と同行して調査している。
番組が同行したのは沖縄県立博物館の元副館長の千木良芳範氏。カエルの研究者として40年以上研究してきたらしいが、彼でもこの地域には入ったことがないという。中の水たまりにイモリなど多様な生物が。沢にはホルストガエルがいるのではとのことで、夜に再び調査してホルストガエルを見つけている。ホルストガエルのオタマジャクシは2~3年かけて成体になるという。この地域はハブも多く、カエルを餌にしているという。またハブをも食べる最強のヘビ・アカマタなども発見。また水辺で暮らす新種のリュウジンオオムカデという全長20センチの巨大なムカデなんかも棲息している。生態はまだ不明だという。
やんばるの森は面積は日本全体の0.2%程度なのに、日本の生物種の3割が棲息しているという。どうしてこんなに多様な生態系となったのか。この地域は200年前には大陸と切り離され、独自の生態系を進化させたという。しかしこの地域は1970年頃には林業のためにほぼはげ山となっており、その後に生えた木ばかりなので樹齢は若く、そんな中でどうやってこのような生態系が誕生したかも謎であると言う。
豊かな森の秘密
この森を養っているのが全長40センチもあるヤンバルオオフトミミズ。彼らが落ち葉を食べて糞を出すことで、これが森にとっての栄養源になるのだという。やんばるの森は常緑広葉樹が多いので、これを食べて分解出来るのはこのミミズぐらいだとか。ちなみにこの下り、突然にヒゲ爺が登場するのだが、どうやらこのミミズの生態はかつて「ダーウィンが来た」でも紹介したようだ。
さらに琉球大学の松本一穂氏によると、台風などによる倒木も森を養うことになるという。これらの倒木は菌類やバクテリア分解されて土壌化し、これが栄養となるのであるという。
また千木良氏によるとやんばるの生き物は雑食性であるのがポイントだという。雑食性であるために餌を確保するのに広大ななわばりを必要とせず、その結果として森が養える生き物の数が増えるという。さらには食物連鎖がビラミッド型でなく、AがBの子供を食べるが、BもAの子供を食べるなどの複雑な関係があり、食物連鎖が長方形型になっているという。
ただしこの地域は米軍から返還された地域と言うこともあり、米軍の廃棄した銃弾などの廃棄物も見つかるという。この辺りをどうしていくかと言うことも課題であると言う(毒ガスとか化学兵器とかが出てこなければ良いが)。
以上、やんばるの森の生態系について。ミミズが森を養っているという話があったが、これはやんばるに限らず本土でも同じである。ミミズが活発なところは良い土壌が出来て森が豊かになる。畑などでもミミズが活発だと良い土になって作物も良く育つのだが、農薬はこのミミズも殺してしまうということがあり、農薬を使えば使うほどドンドンと土地が痩せていくということになりやすい。
そう言えば、以前に野生化したマングースのせいでヤンバルクイナが絶滅寸前に追い込まれており、今でも北の方の森の一地域にまで追いやられていると聞いたことがあったが、それについてはその後どうなったんだろうか。
忙しい方のための今回の要点
・沖縄諸島のやんばるの森が世界自然遺産にまもなく登録される。
・特に本島北部の森には実に多様な生物が棲息している。この地域は5年前に米軍から返還されたために手つかずの地域もあり、現在調査が進んでいる。
・この地域は1970年頃にはほとんどはげ山となって若い木が多いのに、それにも関わらず生態系が豊かであるのは謎である。
・森を養っているのはまずヤンバルオオフトミミズ。全長40センチのこのミミズは、常緑広葉樹の分厚くて固い葉を食べて糞を排出するので、それが森の栄養となる。
・また倒木が分解することで森の栄養分となっていると言う。さらには雑食性の生物が多いために縄張りが狭く、それが多くの生物の共存を可能にもしているとのこと。
・ただしこの地域は米軍の廃棄物なども多く見つかり、それが環境に対しての今後の課題である。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・人間の手が入らなければ自然は自ずと豊かになっていくと言うところもあるのでしょうね。特にこの辺りは亜熱帯で環境的には恵まれているようなので。
・にしてもハブがゾロゾロと出てくるところに夜に取材に行くのは命がけだと思うのだが、よくもそこまでやったもんだ。私も沖縄に行ったことがあるが、さすがにハブが恐いので昼間でも藪に分け入るのはやめました。本土だったら城跡探して普通に藪漕ぎしたりするんですが。
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