教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/23 テレ東系 ガイアの夜明け「検証!ニッポンの水際対策」

成田空港での検疫の現状

 コロナの感染拡大防止で大きな役割を果たすのが水際対策であるが、日本の水際対策の現状はどうなっているか、また一番厳しいとも言われている中国の事例はどうなのかを紹介するという。

 成田空港では防護服を着たスタッフが荷物を運んだりバスを運転したりしている姿が見られるが、そのバスはムンバイからやって来た乗客を乗せるバス。そのバスは成田市内の大型ホテルに入り、乗客はこれから10日間の強制隔離を受けることになる。帰国した鈴木氏はインドでアストラゼネカのワクチンを1度摂取し、PCR検査も受けているとのこと。さらにスマホで抜き打ち的に居場所をチェックされることになっていると言う。

 インドからの入国者に3日間の強制隔離が始まったのは5/1から、5/10にはインドと周辺国に拡大して期間も6日間に拡大、5/28には10日に拡大して今日に及んでいるという。

 番組では成田空港での検疫所を取材しているが、1日1000人の入国があるのでてんやわんやのようだ。まず問診で異常の有無や陰性証明書を確認する。強制隔離はやって来た国によって判断している。ここを抜けると次は抗原検査を行うことになっている。検査精度はPCR検査と同レベルと番組では言っているが、これはやや疑問。とにかく30分で結果が出るので早さを優先した検査である。

 

しかし課題も多い

 ちなみに去年の8月にアメリカから帰国した人に聞いたら、当時は強制隔離もなくゆるゆるだったという。昨年は入国制限と解除の繰り返しで、年末になってイギリス型変異ウイルスが国内で確認されて、慌てて入国制限に強制隔離が始まったという。検疫所のトップに聞くと新型コロナは「検疫所泣かせ」だという。無症状なのに感染力がある患者が多いので、従来のサーモ検疫では発見が出来ないという。さらには一回の検査では判断出来ない場合があるとのこと。キャパの限界などでしんどい部分もあるようだ。

 空港からは専用バスで移動、さらに京成電鉄ではスマートアクセスという入国者専用車両を用意しているという。上野駅まで途中下車不可、そこからは自家用車の迎えかハイヤーでの移動でないと乗車出来ないという。

 しかし日本の水際対策を取材している日経メディカルの三和護氏によると、日本の水際対策は中途半端だという。それは対象国などをリスクが高まってから拡大するという方法を取っているので、どうしても後手後手の対応になっていると言う。結果としては強制的に一律規制した方が状況は大きく変わっただろうという分析である。

 さらに新型コロナの感染追跡システムを開発した東京大学理化学研究所の井元清哉教授によると、国内に流入したデルタ株の感染経路を見ると、流入元はインド、スイス、カナダ、イギリス、カナダなどであり、この時インド以外は強制隔離の対象となっていなかった。結局は他国経由で侵入してしまっているという。

 

世界で最も厳しいとされる中国の水際対策

 番組では北京に赴任するテレ東スタッフの中村智信カメラマンに中国の水際対策の現状を取材してもらっている。まず入国は北京でなく大連になる。現在は北京への直行便が廃止されており、完全防護服のスタッフが対応している。荷物等は入念に消毒され、完全隔離したバスでホテルに連れて行かれる。ホテルスタッフも当然のように全身防護服。そして廊下一面にビニルが敷かれる中を個室に向かい、この個室で21日間の隔離を受けるという。食事はスタッフとの接触なしで部屋の前に置かれ、ゴミなどは部屋の前に出しておくのだという。部屋には21日分の水やトイレットペーパーなどが置かれており、1日3食はすべて弁当になるという。そして検査は21日間で3回のPCR検査と一回の抗体検査を受けるという。寝具やタオルの交換は1週間に1回とのこと。部屋に閉じ込められた鈴木氏も段々とストレスが溜まってきたという。途中でオンラインで取材すると、とにかく「寂しい」というのが鈴木氏の感想。ちなみに強制隔離費用は20万円ですべて自腹だという。

 

規制の緩和でクラスターが発生した台湾

 5月には台湾がクラスター発生で大騒ぎとなり、緊急事態宣言が発令されることとなった。台湾は徹底した水際対策で感染を防止してきており、一時は皆マスクを外して町に出ていたのだが、今では再びロックダウン状態だという。

 最初に感染爆発が起こったのは国際空港に隣接したホテル。航空会社のスタッフが隔離用施設として使っていたのだが、ここで貨物便のパイロットが発症、そこから次々と従業員ら35人に感染が広がったのだという。さらにそのパイロットが歓楽街に出かけていたことから、そこから大規模クラスターが発生したという。狭い換気の悪い部屋で女性と酒や茶を飲むので、店のママが感染してホステスにうつったらしい。そしてそこから客に広がったのだという。

 台湾では罰則付きで14日間の隔離を義務づけていたが、今年4月にパイロットなどは特例として3日間に緩和したという。その矢先の感染爆発に番組ではそれとの関係を対策責任者などに取材しているが、やはり明確な返答は得られず。ただし台湾の前の副総統で疫学者の陳建仁氏によると、パイロットの隔離期間を短くしたのが原因だと断言している。台湾でお好み焼きやを経営している男性によると、前回の取材時は売り上げ絶好調だったが、現在は店は客が全くいない状態とのこと。台湾の水際対策は徹底しており、日本から戻ったりしたらGPSで行動が監視されるとのこと。

 

そして日本の水際対策に大穴を開けているオリンピック

 一方の日本では水際対策に大穴を開けているのがオリンピック。オリンピック関係者は隔離が免除される「特例」がある。4~5月に入国した関係者2000人中、1700人が「特例」で隔離免除だという。ということであるが、さすがにこの番組ではそれ以上に突っ込まず(突っ込んだら直ちに官邸から脅しが来るんだろう)、「流石に緩すぎではという声もある」というお茶の濁し方である。

 で、最後はアパホテルで隔離を体験している女性の映像を流して、しっかりとアパの宣伝をして終わりである。まあこの辺りは経団連の広報番組であるこの番組らしいところ。


 さすがにこの番組としては「オリンピックのせいで水際対策がガタガタ」と言えないものだから、そこのところは露骨にお茶を濁しているので、その辺りは行間を読まざるを得ない。中国の厳しい検疫の状況を伝え、台湾ではちょっと緩和しただけで大問題が発生した現状を伝え、その後にサラッとオリンピックでのゆるゆるぶりを紹介しているので、そこに秘められたスタッフの本音を汲み取ってやることが視聴者に求められよう。恫喝と圧力でメディアを露骨に支配している菅政権の元ではこの辺りが限界と言うことだろう。

 

忙しい方のための今回の要点

・日本では現在、帰国者などに対して国ごとにランクをつけて強制隔離に踏み切っている。しかし実際にはあらゆるルートから感染は広がることから、対応が後手になりがちで、初期の段階で一律に厳しく規制するべきだったとの声もある。
・世界で水際対策が一番厳しいと言われている中国では、北京への入国は大連で止められてそこで21日間の強制隔離が義務づけられる。なおその費用は自己負担で20万円ほどとのこと。
・台湾では徹底した水際対策で感染拡大を抑止していたが、航空会社のスタッフの隔離を緩和したところ、そこからクラスターが発生してしまった。現在もかなり厳しい水際対策を続行しており、町中も人流などは完全になくなっているという。
・一方の日本ではオリンピック特例で、スタッフは管理を免除されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・これだけ「政府に配慮した」番組でも、明らかに滅茶苦茶であることが丸見えになる日本のオリンピック関係。今は必死でオリンピック関係の感染について隠蔽しているようだが、恐らく本当の地獄が来るのはこれからだろう。

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