教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

8/19 BSプレミアム ヒューマニエンス「"脂肪"人類を導くパートナー」

ヒトにとって脂肪はどういう意味を持っているか

 脂肪と言えば現代人には困りものというイメージ。実際に私もこれに苦しめられている口である。しかし人類と脂肪との関わり合いには進化が絡む深いドラマがあるというお話。

 

 

人間は脂肪を溜められるように進化した

 そもそも人類は特異的に脂肪を蓄える能力があるのだという。脂肪と言えば霜降り和牛が連想されるが、配合飼料で太らせている霜降り和牛は体脂肪率は30%以上。これはちょっとぽっちゃりした女性ぐらいである。実際に動物園の猿は大して運動していないにもかかわらず体脂肪率は8.4%だった。他の猿もオランウータンで16.4%、ゴリラで15.2%といずれも人間よりもかなり低い。そして豚ですら16%に過ぎないという。人よりも脂肪が多いというと極北のホッキョクグマ(50%)やアザラシ(45%)など防寒のために大量の脂肪が必要な動物ぐらいであるという。さらに人間の脂肪の溜方には特徴があり、皮下脂肪だけでなく内臓脂肪が多い。しかし健康に悪いとも言われる内臓脂肪をなぜ人は蓄積するのか。

 遺伝子の観点からこの謎に迫っている東京大学の中山一大准教授によると、人は大量にエネルギーを消費する巨大な脳のためのエネルギーを賄うために、脂肪をたくさんつけるように進化したのだという。ヒトとチンパンジーを共に体重55キロとした場合、ヒトが必要とするのは1日2500キロカロリーに対してチンパンジーは2100キロカロリーと400キロカロリーも差がある。これはチンパンジーの400グラムに対して、ヒトは3倍以上の1350グラムの脳を持つためであると言う。そのエネルギーを賄うためにエネルギーの放出が行いやすい内臓脂肪を蓄積するようになったのだという。これに対して皮下脂肪は健康に害がないがすぐにエネルギーには変換しにくいのだという。

 

 

脂肪は持ち歩ける食料

 実際に脂肪を蓄積することにどのようなメリットがあるのか。それを示しているのがゲストであるサバイバル登山家の服部文祥氏。彼のサバイバル登山とは、食料はわずかな米と調味料以外はほとんど持参せず、身軽な状態で食料を現地調達しながら行うのだという。その場合、常に食料が十分に確保できるとは限らないので、脂肪は身体に付けていく食料という感覚であるという。実際にこれが人類の祖先が体験したことであろうという。

 ホモサピエンスが全世界に広がっていったグレートジャーニーにおいて、最も過酷だったのがサモア島やハワイ島などの孤島に渡っていった旅であるという。実際にサモアでは肥満率90%と太りやすい体質の人が多いことが分かっており、これは絶海の孤島にたどり着くためには多くの脂肪を溜め込む必要があったからだという。恐らく脂肪を十分に溜め込めなかった者は途中で息絶えたのではという。ちなみに日本人は縄文人と弥生人が混ざったもので、それが日本人の脂肪に関する遺伝子にかかわっているのではないかとのことだが、実は農耕が始まってからの方が頻繁に飢餓があったのではないかと考える研究者もいるとのこと(人口が増加したところに気候変動などが起これば一気に飢餓になる)。

 

 

重要な働きを脂肪が担う

 さらに脂肪は人類の存亡にかかわる欠かせないものであるという。体内には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種があり、褐色脂肪細胞は脂を燃焼して体温を上げる作用を持つ。これはアフリカ生まれの人類が極地に進出ために重要であったという。また白色脂肪細胞にはホルモンを生成する能力があるという。また脂肪細胞は女性の性成熟に重要な働きを持っており、女性は脂肪が一定の量に到達することで分泌されたレプチンが視床下部に作用して、初潮を促すのだという。体脂肪率が17%で初潮となり、22%で妊娠可能となるという。よく女性が無着なダイエットをしたら月経が止まるというが、それはこういうメカニズムがあるようである。となると若い女性にダイエットをさせている現代社会は、当然のようにまともに妊娠する能力が無い女性を大量に出すことになる。もしかしたらこれが最近になって不妊で悩む女性が増えている原因ではなどと私は妄想する。

 ちなみに褐色脂肪細胞は筋肉が未発達で体温を保てない子供の方が多く、大人になると筋肉で熱を発生できるようになるので褐色脂肪細胞は減少するという。

 

 

ただし役割の不明な脂肪もある

 しかしヒトの脂肪の中には役割のよくわからないものがある。それがいわゆる女性の胸だという。そもそも女性の乳房は思春期に膨れ始めるが、実は母乳を出すのは乳腺なのでこんなに脂肪を溜め込む必要はないのだという。では女性の乳房はなぜ膨らむのか。それはセックスアピールのためだという。ヒトはチンパンジーのように性器が直接見える状態ではないので、胸の発育度合いで相手が性成熟しているかを判断したのではないかとのこと。ということは巨乳好きの男は自分の遺伝子を残すことに熱心な奴ってことか?

 ここで織田裕二氏がではなぜ女性の乳房は出産後に最も大きくなるのかと疑問を呈し、それに対してゲストの専門家が「子供を養うために男性を引き留めるためでは」と言っていたが、さすがにここまで来ると「ホンマかいな?」という疑問が湧く。まあまだ言ったもん勝ちの状態なんだろう。

 

 

 以上、現代人にとっては悩み多きところの脂肪についてだったが、ヒトは意図的に脂肪を蓄えられるように進化したというのは驚きの視点であった。何となく感じてはいたが、やはり人類の歴史から行けば身体に脂肪を溜めやすい性質は生存に有利だったと言うことである。まあ生物的に考えて「飽食」なんて状態の方が異常であって、そんな状態に対応しろと言うことの方が土台無理なんだろう。もっともその飽食がいつまで続くかは地球の持続性の問題からかなり怪しくなってきているが。今でも実は飽食人口よりも飢餓人口の方が多いと言われているのだから。

 ところでゲストの服部氏のサバイバル登山というのが面白かったが、結局は登山の世界も以前と違って未踏峰がほとんどなくなった今日となっては、無酸素とか単独とか、そういうところで新規性を主張せざるを得なくなっているんだろう。サバイバル登山なんてのもその一環のような気がする。ただ彼のスタイルは、登山云々抜きにして、野外でのサバイバルという点で興味深い。単に登山という観点だけで見れば、食料が現地調達である以上、氷で閉ざされた冬山登山や植物も動物もほとんどいない高山の登山とかは困難と思われるので、自ずと対象にする山は限られると思うが。登山家と言うよりは探検家に近いか。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・配合飼料で育てた霜降りの和牛で実は体脂肪率30%ぐらい。ヒトは一般的な動物の中では非常に大量の脂肪を蓄積できるようになっている。
・ヒトがこのような大量の脂肪を蓄積するようになったのは、脳を維持するためにエネルギーが必要であるからだと推測されている。またそのために皮下脂肪よりもエネルギーにすぐに変換できる内臓脂肪を大量に溜め込むようになっている。
・ヒトにとって脂肪とは持ち運べる食料であった。実際に人類の祖先が世界中に広がったグレートジャーニーにおいて、一番過酷であったと考えられるのは離島への移住であるが、サモアなどは肥満率が90%と肥満しやすい遺伝子を持つ人が非常に多い。これは長い船旅に耐えるには大量の脂肪を保持する必要があったためと推測されている。
・脂肪には褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞がある。褐色脂肪細胞は脂を燃やして体温を上昇させ、白色脂肪細胞はレプチンというホルモンを分泌する。女性は脂肪の量が一定の割合に達するとレプチンが視床下部に働いて性成熟を促し、初潮を迎えることになる。
・ヒトの脂肪の中には女性の胸のように機能的には意味のない脂肪も存在する。女性が胸に脂肪を蓄えるのは、そのことによって性的成熟度合いを示すセックスアピールのためだという推測をなしている専門家がいる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・うーん、おっぱい星人の方が自分の子孫を残すことに熱心と言うことか(笑)。だとするとガリガリ好きの奴はいずれ滅ぶ? 私はいわゆる普通に中肉中背のバランスの取れた女性が好きで、あまり極端な巨乳は苦手です。なんてことを言ったところで、もう私の遺伝子は後世には残らないことはほぼ確定しているが。

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