教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/29 サイエンスZERO「富士山 噴火の歴史を読み解け」

富士の宝永噴火を調査することで、将来の噴火を予測する

 富士は過去5600年間に180回の噴火を繰り返してきた活火山である。今年、富士山噴火のハザードマップが17年ぶりに改定され、噴火の影響がより広がる可能性が示された。これらは過去の噴火の分析がなされた成果に基づいている。特に宝永噴火の時には火山灰は江戸にまで飛んだという。この巨大噴火の謎に迫る調査に密着した。

 1707年の宝永噴火では富士山の土手っ腹に火口が開き、16日間にわたって噴火が続いたと言うが、その被害の大きさが分かる痕跡が最近見つかったという。それは静岡県小山町の須走地区。ここで地面から深さ2メートルのところから焼け焦げた柱が見つかったのだという。古文書では37棟が焼失し、残る39棟も火山灰の重みで倒壊したとされている。その証拠が初めて見つかったのである。この時には火口から100キロ離れた江戸でも数センチの火山灰が降り積もったという。

 

宝永山を作った大量の火山噴出物

 富士山科学研究所の馬場章氏は5年前から宝永噴火の調査を続けている。調査に同行したところ、火口から800メートル離れた位置に直径60センチで150~200キロぐらいの火山弾が転がっているのが見つかった。こんなものが火口から吹っ飛んだのである。宝永火口はスコリアと呼ばれる黒っぽい多孔質の火山噴出物で覆われている。

 宝永火口で起こった現象のポイントとなると馬場氏が考えているのは、火口の手前にある宝永山である。これはこの噴火の際に出来た山で、従来は地下からの隆起で生成したと考えられていた。しかし馬場氏の現地調査の結果、宝永山は堆積物で出来たと推測されることが分かったのである。そしてこの仮説は岩石の地磁気による分析で証明された。さらに上空からのドローンでの撮影によると、降り積もったと見られる地層が撮影されたという。これで宝永噴火の噴出物の多さが証明されたことになる。また現地では1.5メートルもの噴出物の層も観測されている。

 これからから推測された宝永噴火の経緯は、まず噴火が始まったのは午前10時頃、最初は白っぽい噴煙が偏西風に流されて東側に降り積もった。昼過ぎから噴煙は黒くなり、夜になると火山弾が飛ぶなど噴火が激しくなり、これらは火口近くに積もった。こうして宝永山が出来たと推測できる。最初には白い軽石が飛び散り、その後で玄武岩質の黒い石が飛んだという。なお白い軽石で火が出たとされていることから、飛び散った時には300度以上の温度があったはずだとしている。

 

大規模な火砕流跡も見つかった

 次の富士山噴火にどう備えるかを調査中に自衛隊の演習地で富士山の火砕流堆積も発見されたという。ここでは火砕流堆積物が15メートルも積もっており、かなり大規模のものであるという。なお噴火の時期を含まれていた木片のから調べたところ西暦600年代の噴火によるものと推測されたという。調査の結果、火砕流堆積物は長さ3.6キロ、幅700メートルの範囲に広がっていることが判明したという。推定堆積物量は東京ドーム10杯分の1240万立方メートル、これまでの想定の最大とされていた値の5倍になるという。これらのデータを元に富士山の噴火ハザードマップが見直されることとなったのである。噴火の際には首都圏でも2センチの降灰が想定され、その際には鉄道の運行が不可能になったり、水道水が環境基準を超えてしまうことがあり得るという。


 以上、来たるべき富士山の噴火についての調査結果である。なお今度富士山の噴火が起こるとしたら、山頂の火口は長年使用されていないので、宝永の噴火と同様にどこかの土手っ腹に穴が開くと推測される。なお東京で火山灰2センチというのは大したことがないように思ってしまうが、実際にはかなり影響が出る量である。交通インフラのみならず、通信インフラなどにも影響が出る可能性がある。回路内に火山灰が入り込むと機器の誤動作なども起こる可能性が高く、首都機能の麻痺も想定される。そのような危機に対する対処も考えておく必要があるのだが、「仮定の質問には答えられない」と言うような政権のことだから、まず何も考えていないだろう。

 

忙しい方のための今回の要点

・富士山は今まで何度も噴火を繰り返した活火山であり、将来的に必ず噴火すると考えられている。
・今回、富士山噴火時のハザードマップ作成のために宝永の噴火の様子を調査することになった。
・火口の調査の結果、火口手前の宝永山は今までの通説の隆起によるものでなく、堆積物の蓄積で生成したことが確認され、宝永噴火でかなり大量の噴出物があったことが判明した。
・また飛鳥時代の大規模な火砕流の跡も発見され、その規模は今まで想定されていたものの5倍以上であることが判明した。
・富士山で大規模な噴火が発生した場合、首都圏にも2センチの降灰が予想され、そうなると鉄道が運行不能になったり、水道水に影響が出る可能性が考えられている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・備えあれば憂いなしって言いますが、日本は天災が多い割には、政府による備えは薄いんですよね。とにかく災害対策に突っ込む予算があれば、それを電通やパソナに中抜きさせてしまうから。本来はオリンピックなんかでなく、こういう分野にしっかり予算をつける必要があるのに。

次回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work