コロナ禍で苦戦するところも少なくない外食業界で、生き残りを賭けて果敢に挑む二人の女性経営者を紹介。
ドムドムを黒字展開した注目の女性社長
一人目はドムドムを急回復軌道に乗せている社長の藤崎忍氏。ドムドムは1970年、ダイエー傘下としてオープンした。一時は全国400店舗も展開したが、ダイエーの衰退と共に20店舗台にまで減少した。しかしそのドムドムがここに来て店舗拡大に動いている。
ドムドムでは厚焼き卵を挟んだバーガーなどの変わり種で人気を呼んでいる。これらを開発したのが社長の藤崎氏だという。外食業界でも注目されている女性経営者である。彼女は39才まで専業主婦だった。ドムドムに入社したのは51歳の時、そして9ヶ月で社長になっていて現在55才。異色なのはそこまでの経歴である。
ドムドムではアパレルや雑貨も展開している。ロフトなどでもTシャツやグッズなどが販売されている。藤崎氏が社長に就任してからの新事業展開だという。実は彼女は39歳の時に夫の病気などがきっかけで初めて渋谷109で10代の社員と共に働いていたのだという。その時に若者たちから固定概念に捕らわれないという大切なことを学んだという。
ドムドムではカレイを挟んだバーガーなど様々なメニューにチャレンジしているが、その商品開発を手がけるのが、藤崎氏が絶大な信頼を置く浅田裕介氏。彼はダイエー系列の飲食店からドムドムを眺めていた人物であるという。競争が激化するするバーガー業界で藤崎氏は固定概念に捕らわれない商品開発で黒字転換を果たした。
新たな店舗で攻めに出る
新橋には彼女が経営していた居酒屋がある。彼女は44才で居酒屋を開業し、これを新橋での繁盛店にしたのだという。その店の常連がドムドムの親会社の役員であり、商品開発に協力を求められて51才でドムドムに入社、そして次々と実績を上げたことから9ヶ月で社長に就任したのだという。
この新橋で藤崎氏は新たなチャレンジを始めていた。駅に近いところに新店舗を出そうという挑戦。店舗名はドムドムでなく、TREE&TREEというもの。朝・昼・夜で客層の変わる新橋に合わせて、朝・昼・夜で出すメニューを変えようという考えである。メニューの開発は浅田氏が手がけ、厚揚げを用いたバーガーや、黒毛和牛を用いた高級バーガー、さらに夜向けのお酒に合うすじ肉のデミグラス煮込み(この牛すじは和牛バーガーの残りからでる)などの新メニューを提案する。これらのメニューに藤崎氏はOKを出す。
そして開店、朝はカレーなどもあってお客にも好評である。テイクアウトもイートインの回転率もまずまず。昼はランチ用の和牛バーガー(価格は1250円)が好評。しかし夜は緊急事態宣言でお酒を出せないことから苦戦。牛すじ煮込みも出番なしで8時には閉店。
藤崎氏はここで新たな手を打つ。銀座で閉店した高級和食店の店舗をコロナ期間限定で借りて、昼食用にすじ肉のカレーを出すことを計画している(夜用でさっぱり売れていない牛すじ煮込みの代わりだろう)。
夫の急死の跡を継いだ妻
名古屋発祥の居酒屋チェーンの「世界の山ちゃん」。一躍大企業に押し上げたのは創業者の山本重雄氏。しかし彼は5年前に59才で突然病死する。跡を継いだのは妻の久美氏(54才)。現在3児の母で、大学卒業後は小学校の先生をしており、32才で結婚後は主婦として家庭を守ってきたという。いろいろと葛藤はあったらしいが、夫が築いた会社をどこかに売り渡して別物にされるのは嫌だったということで、急遽代表に就任したのだという。
2019年には過去最高の年商81億円を上げたが、その後にコロナ禍が直撃、関東を中心に休業を余儀なくされ、年商は54億円にまで減少したという。この1年半で10店舗以上を閉鎖したという。
しかしここで彼女は攻めに出ている。新たにフレンチトーストの専門店や飲茶の店を開業するなど、若い女性という今までと違う客層の取り込みを図っている。山ちゃん以外に8業態を展開して生き残りを図っているというが、これが本当に夫の意志に沿っているかの葛藤はあるという。
そして彼女が今新たに力を入れているのが干物の専門店。この店を担当しているのが入社3年の若手社員だが、売り上げが思うように伸びないことに苦戦していたという。戦略会議で彼は先輩からのアドバイスを求めるが、彼女は「自分で考える」ことを促す。若手社員の姿勢を尊重したいのだという。彼は早速、新たなメニューとして手作りわらび餅を提案、これが評判を呼ぶ。さらには久美氏は新たにキッチンカービジネスをフランチャイズ展開することも進めている。
ドムドムの藤崎氏に関しては、女性云々でなく、普通にアイディア豊富で優秀な経営者と言うことである。それにしてもアイディアマンである上に大胆である。確かに固定概念に捕らわれないメニューを提案しており、それは今の時代向きである。もっともそれらのメニューがどれだけ定番になるのかは疑問はあるが。
なお私はドムドムは知っているが、とにかく不味いバーガーという記憶だけが残っているので、現在ドムドムの看板を見ても入ろうという気はしない。ましてやドムドムのグッズなど問題外という感覚なのだが、藤崎氏はそんな私のようなジジイに訴求するメニューも提案するのだろうか。それとも元々顧客層とは別と割り切ってバッサリ捨てるか。
世界の山ちゃんの久美氏については、まあ必死で頑張っているという印象。どうも前社長がカリスマでワンマンのようだったから、果たして経営層にブレーンがいるかどうかが気になるところではある。役員クラスに頼りになる人材がいなければ、彼女一人が奮闘しても会社が長期衰退軌道に乗ってしまう恐れはある。また業態拡大は上手く行けば良いが、これは両刃の剣であるところもある。本業が強いブランド力を保っている間に、出来れば2本目、3本目の柱が欲しいところだろう。
忙しい方のための今回の要点
・ドムドムが黒字転換して拡大路線を摂っているが、その背後には女性社長藤崎忍氏の存在がある。
・彼女は39才まで専業主婦だったが、その後に109で働いたり、新橋で人気居酒屋店を開くなどの経歴を積んでいる。そして51才でドムドムに商品開発のために採用され、9ヶ月で社長に就任した。
・彼女は固定概念に捕らわれない新規メニューの採用を行っており、さらにはアパレルやグッズへの異業種参入も果たしている。
・バーガー業界の競争が激化する中で、彼女は新しい店舗形式への挑戦も進めている。
・名古屋から全国展開した「世界の山ちゃん」は社長の山本重雄氏が5年前に59才の若さで急死、妻の久美氏が代表を継ぐこととなった。
・昨年は過去最高の年商84億を上げたが、その後にコロナが直撃、関東の店の閉店を余儀なくされるなどで今年は年商54億まで低下してしまった。
・そこでフレンチトーストの店など、新たに8業態に乗り出している。さらにはキッチンカーへの進出なども実行中。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・とにかく女性だから云々でなく、経営者として優秀かどうかに尽きます。現在外食業界は動きの速い時代となっていますから、とにかく決断が早くないと付いていけません。従来型の内部調整ばかりするタイプの経営者は今はダメですね。
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