教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/29 NHK 歴史探偵「写楽 大江戸ミステリー」

写楽の正体は・・・という話だが、実は既出

 今回のテーマは写楽。大首絵と言われる衝撃的な役者絵で一世を風靡するが、活躍期間はわずか10ヶ月と短く、その正体にも諸説あるとされる謎の絵師である。その正体に迫る・・・としているのだが、実のところつい最近に「にっぽん!歴史鑑定」で放送されたネタのまんまだったりする。

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かなり金をかけて大々的に売り込んだ

 まず写楽のデビューであるが、仕掛けたのは版元の蔦屋重三郎である。既に歌麿を起用しての美人画で成功していた彼は、次は役者絵で天下を取ることを考える。そこで写楽を起用して大々的に勝負に出る。

 通常は新人の絵師の場合は最初は2~3枚程度の絵を出すのが普通なのだが、蔦屋は写楽の作品を大量に一気に販売する。しかも雲母の結晶であるきらという高価な素材をふんだんに使用した上に、和紙を調査したところ実に高級なものを使用していることが分かる。つまりはかなり高価な素材を使用した高級作品なのである。そしてこれは蔦屋の狙い通りに大ヒットする。

 

 

写楽は能役者だった

 さてそこで写楽の正体なのだが、まず北斎や歌麿という説があったが、これは近年にギリシアで写楽の肉筆画が見つかったところ、線の特徴が彼等と全く異なることからこの説は消えたという。そして現在最有力なのが、50年後に刊行された「浮世絵類考」に記されている写楽は斎藤十郎兵衛という阿波藩お抱えの能役者だったという説。これまで斎藤十郎兵衛の実在が疑われていたのであるが、近年になってその実在が確認されたことから一躍最有力説となっている。なお東洲斎というのは斎藤十のアナグラムだという説は先の番組でも紹介済み。

 では写楽がなぜすぐに消えたかだが、これは他の版元が勝川春英や歌川豊国を起用した同様の役者絵をぶつけてきて、写楽はこれに負けてしまったのだという。写楽の敗北の原因は、写楽は役者の個性をとらえてかなり誇張して描いているので、それが役者からのみならず、ファンからも不評を買ったとしている。サラ・ベルナールを美しく描いたミュシャのポスターは好評を博したが、誇張の入ったロートレックのポスターは嫌われたのと同じメカニズムである。結局写楽は個性を押さえることを余儀なくされ、そうこうする内に作家性が揺らぎだしたのではという話。

 

 

 以上、写楽についてなんだが、ものの見事に「にっぽん!歴史鑑定」を見ていたらまんまのネタだったな。まさかフジテレビじゃないから、あの番組からネタを発掘してきたってことはないだろうけど、ここまでネタ被りでは新鮮味がない。顔のパーツの角度の分析をしたり、似顔絵画家を出したりという辺りに新味を求めたのかもしれないが、それらはことごとく無意味。そんなもの写楽の絵が個性を強調しているのは数学的分析をするまでもなく明らかだし、似顔絵画家が個性を強調するのなんて言われなくても当たり前。以前からこの番組に見られる「無駄な付け足しで尺を稼ぐ」という悪弊がもろに出たとしか思えない。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・写楽は既に美人画で歌麿で成功した蔦屋が、役者絵でも成功することを狙って、新人を起用して大々的に売り出して評判となった。
・写楽の作品には雲母(きら)を用いて、上質の和紙に刷るなどかなりコストをかけている。
・写楽の正体については阿波藩のお抱え能役者の斎藤十郎兵衛という説が現在は最有力である。
・しかし他の版元が勝川春英や歌川豊国を起用した役者絵をぶつけてきて、役者の個性を強調した写楽の画風は役者のみならずファンからも批判を呼んだことから、やがて写楽は消え去ったという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・写楽については、最初の大首絵に比べると後半の作品は急激に輝きをなくします。だから前半と後半で別の絵師が手がけてという説まであったぐらいです。実際に大首絵は面白いんですが、後半の作品は私の目から見ても凡庸に見えるんですよね。確かにああなると豊国などには及ばないだろうと思う。

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