教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/21 BSプレミアム ヒューマニエンス「"イヌ"ヒトの心を照らす存在」

太古から続くヒトとイヌの関わり

 人体の神秘について紹介してきたこの番組だが、今回は突然に人間を離れて犬がテーマ。やけに唐突な気がするんだが、イヌと人間はそれだけ深い関わりがあるという話。もっとも実はこの内容の大半は以前にサイエンスZEROでも放送されたものの焼き直しだったりする。例によっての「放送素材の有効活用」である。

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 人間とイヌの関わり合い歴史的にも極めて深く、1万2千年前に老婆と共に埋葬されたイヌが発見されたのが、最古の関わり合いの証拠であるという。恐らく老婆が亡くなった時に大事にしていたイヌを一緒に埋葬したのではという。狩猟時代から人間はイヌを狩りのパートナーにしていたのではという。

 

 

イヌは人間の言葉が分かっている

 昔から「イヌは人間の言葉が分かっているのでは」という話があるが、それが本当かどうかを言葉を聞いた時のイヌの脳の変化をfMRIで調査した研究が2016年にハンガリーで行われたという。イヌに飼い主が「素晴らしい」という意味の言葉をフラットな感情で話した時と、意味のない言葉に肯定的なニュアンスを含む声色で話した時の音声を聞かせたという。

 この時、前者では言葉の意味を理解する左脳の部分が反応し、後者では右脳を働かせて感情を読み取ろうとしていたという。さらに「素晴らしい」に肯定的ニュアンスを含ませたものを聞かせると脳の両側が反応したという。さらにはこの時だけ、脳の報酬系が反応しており、イヌが喜びの感情を抱いているという。これらの結果から、イヌは言葉と感情の両方を汲み取っているのではないかという。なおこのような機能は人間だけではないかと思われていたので、非常に興味深い結果だという。となると類人猿はと気になるところなのだが、残念ながら彼等はイヌのようにfMRIの中でじっとしているように訓練することが不可能だという(知能の高い動物ほど言うことを聞かなくなるからな)。

 なおイヌは少なくとも400の言葉を理解すると言われているという。ドイツの実験ではイヌに「新聞」と命令したら、隣の部屋に置いてある10種のものの中から新聞を選んで持ってきたという。さらには部屋の中に名前を教えてあるものを9個置き、もう一つは初めてのものを置いた時、イヌは今まで聞いたことのないものの名を言われると、それを推測して持ってきたという。どうも鈍くさい三流芸能人よりもアドリブの効く頭脳があるらしい。なおイヌの聴力は人間レベルだが変化に対し敏感であるので、飼い主の足音に気づいたりするそうな。

 

 

ヒトとイヌの深い関わり

 さらに人とイヌが見つめ合うことで癒やしホルモンのオキシトシンが分泌されたという実験結果について報告しているが、これは先のサイエンスZEROで放送していた通り。

 なおホモ・サピエンスはイヌと共生していたのに対し、同じ時代に共存していたネアンデルタール人はイヌとの共生は見られないという。これがネアンデルタール人が絶滅した原因と唱えるアメリカの人類学者がいるという。

 これについて名古屋学院大学の今村薫教授は、そもそもネアンデルタール人とホモ・サピエンスの狩りは形態が違うという。マッチョで屈強なネアンデルタール人は力で巨大な獲物をねじ伏せるという狩りが中心(コナン・ザ・グレートのような世界である)であるのに対し、ホモサピエンスの狩りは獲物に合わせて道具を使ったり罠を駆使するもので、動物の心を読むということが行われており、だからイヌの心も分かり、共生することが出来たのではという。

 

 

イヌとヒトに共通するネオテニー(幼形成熟)にヒト化するイヌ

 もっとも人間がイヌの心が分かっても、イヌの方がヒトに歩み寄ることをしなければ共生は不可能である。これについてはサイエンスZEROでも紹介されていたロシアの研究所での野生のギンギツネを使った実験がある。要は野生のどう猛なギンギツネも、ヒトに対して攻撃性が低いキツネを交配すると共に、段々と従順になり形態もイヌそっくりに変化してきたという。この形態変化はネオテニー(幼形成熟)だという。大人になっても子供の形質を残しているのだという。子供特有の好奇心の強さなどが効いているとのこと。なおこのネオテニーを有している動物はヒトもそうであるという。

 なおイヌは非常に犬種が多く、800種ぐらいはあるという。この中には人工授精などによるものもあり、人間の都合が入り込んでいるという。そのために本来は自然界では淘汰されるような遺伝的病気を有する犬種も、人間の保護下においてのみ生存しているものも少なくないという。織田裕二氏が「実はこれはイヌの生存戦略では」という指摘をしていたが、確かにそういう考え方も出来そうだ。

 さらにヒトとイヌの特徴として、白目が多いことで視線が読めることだという。野生の動物は注意の方向を悟らせぬために視線が分かりにくいものが多いのだが、ヒトとイヌはその逆だという。だからイヌはヒトの視線を読むことによってもヒトの感情を読んでいるのだという。オオカミの目にはこれはなく、どうもヒトと共に暮らす内に習得した形態であるという。ヒトとイヌには共進化が見られるという。ゲストの山田五郎氏が、その内に犬の顔が人に似てくるのではと言っていたが、既にファンタジーの世界では獣人が普通に登場するようになっている。

 

 

 以上、ヒトとイヌについて。どうもヒトとイヌには普通とは異なる特殊な関係があるようである。昔から猟犬のみならず、牧羊犬などイヌはヒトのそばで難易度の高いミッションをこなしてきている(介護犬や盲導犬となると難易度S級である)。ヒトとの関係が深いという点でも馬も結構長い気がするが、馬は単に走るだけなのに対し、イヌのミッションは極めて難易度が高い。この辺りは馬とイヌの知能の差も影響してるのだろうか。ただこういう話を聞いていたら「ではネコは?」と聞きたくなるのであるが、どうもネコは勝手に愛玩されているだけで、ネコが何か仕事をするという話を聞いたことはない(昔はねずみ取りという重要な仕事があったようだが)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・イヌは少なくとも1万2千年前にはヒトと共生していたという証拠が存在する。
・実験によるとイヌは人間の言葉についてある程度理解しているという。だがそれ以上にその言葉に込められたニュアンスを読み取るのだという。
・ホモ・サピエンスは獲物の行動を読む狩りなどから動物の心を読み取る能力を獲得しており、それがイヌの心が分かることにつながっているという。
・一方、本来の野生のオオカミはヒトに歩み寄らないが、ヒトに対して比較的従順な個体同士を掛け合わせることを繰り返すことによってヒトに対して従順なイヌに進化するという。
・この時にネオテニー(幼形成熟)の遺伝子が深く関わっており、幼児特有の好奇心などがヒトと共生できる理由であるという。一方のヒト自身もネオテニーの動物であり、その辺りがヒトとイヌの関係に反映しているのではと言う。
・野生の動物の多くが視線を読まれないようにしているのに隊し、ヒトとイヌは白目が多く視線を読みやすい。イヌのこの変化はヒトと関わり合う内に生じたものであるという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・どうやら現在のイヌは「ヒトが生み出した動物」というニュアンスがかなり強いようです。それが彼等にとって幸福なことか不幸なことかは分かりませんが、ヒトと関わり合うことでここまで繁栄したという側面は確かにあります。
・ヒトが生み出した動物という意味では、豚や馬などの家畜もまさしくそうです。その中にはヒトの環境に順応しすぎてもう野生では生きる能力がないものもいます。それらは人類絶滅という環境変化が起これば、人類と共に滅ぶことになるんでしょうね。
・こういうことを考えていたら、突然に「人類は自然を破壊しており滅ぶべき」「いや、人類も自然の一部であり、それを滅ぼすなど愚の骨頂」という東方不敗とドモン・カッシュのやりとりを連想してしまった。

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