教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/4 BSプレミアム ヒューマニエンス「"潜在能力"やわらかさという"脳力"」

人間の脳の柔軟性

 人間の脳というのは想像以上に可塑性があり、状況に応じて柔軟に対応するということが近年になって分かってきたという。それが典型的に現れているのがパラアスリートだという。

 パリンピックで走り幅跳び三連覇をなした絶対王者、マルクス・レーム。彼は義足の選手である。記録を出すための重要ポイントは踏切の瞬間におけるひざの制御だという。いかに体重を義足に真っ直ぐに乗せられるかであるという。レームがいかにひざの制御を行っているかを見るために、義足の右膝を動かしてもらった時の脳のMRIを見たところ、通常は右膝を動かす時には左脳しか活動しないのに、レームは脳の両側が働いていることが分かったという。これは正常な足を制御している脳で、シミュレートしているのではと推測している。このように状況に合わせて働きを変更するぐらい、脳は柔軟性を有しているのである。

 

 

音で周囲を認識するエコーロケーション能力

 颯爽と自転車に乗るダニエル・キッシュ氏。しかし彼は実は1歳の時に視力を失ったのだという。どうやって彼は周囲の状況を捉えているのか。彼は口からクリック音という舌打ち音を出し、その反響で周囲の状況を捉えるエコーロケーションという方法を取っている。彼は幼い頃にこの感覚を身につけ、数メートル先の障害物の輪郭まで把握できるようになったのだという。いわゆるこうもりの能力である。

 これは彼に固有の能力かと言えば、実は人間誰もが持っている能力だという。しかし反響音を拾うと相手の言葉を聞き取りにくくなるから、反響音を自然に切り捨てるように調整されているのだという。キッシュ氏はそれを切り替えることで生活しているのだという。

 エコーロケーション能力は本当に誰でも持っているのかのテストもある。四角柱と円柱のエコー音を聞き比べて判断するテストを行っているが、音の大きさなどに違いがあり被験者は94%の正解率で分かったという。

 さらに健常者を暗闇の中に置いた時の反応をテストすると、段々と回りの状況を音やら足の感触などで感じるようになるという。若くして視力を失った盲人は足の感触などで地形なども把握するという。視覚が欠けているというよりも、そもそも視覚が最初からない世界が成立しているという。実際に彼らに点字を読んでもらった時の脳の働きを見ると、視覚野が機能していたという。指からの情報で彼らは映像を見ているわけである。

 

 

成長と共に能力を刈り込んでいく

 ではこのような潜在能力がなぜ成長と共に隠れていくか。脳の成長を見ると、脳の重さは成長と共に急激に増加するが、シナプスの数は8ヶ月ぐらいをピークに減少していくという。これは実は脳の戦略であり、不要な回路を刈り込んでいって環境に適応しているのだという。

 生後4ヶ月の赤ん坊と8ヶ月の赤ん坊の視覚を比較した時、縞模様が動く映像を見せて、小さいサイズの模様と大きいサイズの模様を見せた時、4ヶ月の赤ん坊は大きい動きで捉えるのに対し、8ヶ月では小さい動きで認識しているという。これは周辺抑制といい、視野の中央に意識を集中する効果だという。番組でもテストをしてるが、やはり大人は小さい方が判断しやすいという結果になっている。

 脳の潜在能力に対する面白い実験がある。画面に人工の尻尾を映し、脳波を捉えるブレイン・マシーン・インターフェイス(BMI)という装置を装着、これを使って尻尾を制御できるようになるかをテストしたという。被験者は尻尾を動かすことを念じる。それを繰り返して試行錯誤するうちにイメージの仕方が分かるようになり、最後は尻尾を自在に動かせるようになるのだという。この装置は医療への活用を考えて開発されたという。脳卒中で左半身が麻痺した患者の左手にBMIを装着、手を開くイメージを念じてもらい、その時の脳波を解析してその脳波が現れた時にはモーターで手を開くようにしたのだという。これで脳のバックアップ回路を鍛えて、脳に指令が伝わるようになったという。70%の人がこれで動きが改善したという。

 

 

 なかなか衝撃的な研究である。ふと考えたのは、これを使うと3本目の手を機械で装着し、それを意志で動かすなんてことも可能になるのではということである。もしかしたらリアルアシュラマンが登場するのではなんてことが頭に浮かんだ。装置を制御すると言うよりも、感覚で機械をコントロールするという話である。そう言えばマクロスで脳波を接続することで機体全体を自分の身体のように制御する新型ヴァルキリーが登場した話があったっけ。「マクロスプラス」だったかな。何かそういう話までリアリティを帯びてくる。現実にガンダムみたいなロボットを操縦しようとすると操縦桿では不可能だと思うので、最終的にはそういうインターフェイスになるかも。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・人間の脳は想像以上に柔軟性を持つことが分かってきた。
・パラアスリートのマルクス・レーム氏は義足の右ひざを制御する時に、左脳だけでなく右脳も機能していることが分かった。これは正常な足のある右脳が左足の動きをシミュレーションしているのではなどと推測されている。
・また1才で視力を無くしたダニエル・キッシュ氏はクリック音という舌打ち音の反響から周囲の状況を判断するエコーロケーション能力を有しており、これで周囲の状況を読み取って自転車の運転まで出来る。
・このエコーロケーション能力は実は誰でも持っているものだという。しかし通常は反響音が聞こえると言語を聞き取るのが困難になるため、反響音をカットするように人の脳はなっているという。
・赤ん坊の脳の発達を調べたところ、脳の重量は増加し続けるのに対して、シナプスの数は8ヶ月をピークにして減少していくという。この間に人は環境に合わせて不要な回路を切り捨てているのだという。そのようなものの一つとして、視覚における注意を中心部に集中する周辺抑制などもあるという。
・また人間には存在しないはずの尾をコンピューターで再現し、脳波でそれを制御する訓練をしたところ、数日でかなり自由にそれを動かせるようになったという。成人の脳でもこのような柔軟性を有しているのだという。
・この装置は医療に適用されており、左半身が麻痺した人に腕を開くイメージを持ってもらってその脳波を感知した時にモーターで腕を開くようにしたところ、機能損傷した脳にバックアップ回路が出来、運動機能が回復したという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・分かれば分かるほど神秘的なのが人間の脳です。まだまだ知られていない潜在能力はいくらでもありそう。しかし下手すると、脳を都合の良いようにコントロールするなんていう悪魔の研究も出てくるかも。既に洗脳の手法などはかなり開発されているし。

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