教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

11/11 BSプレミアム ザ・プロファイラー「ヒトラーの広告塔 ゲッペルス」

コンプレックスを抱えた文学青年ゲッペルス

 ナチスはいわゆるプロパガンダに力を入れたことで知られており、今でも日本の「ナチスに倣え」を掲げている政党の模範とされているところであるが、そのプロパガンダ工作を指揮したのが宣伝大臣のゲッペルスである。ゲッペルスは単にヒトラーの宣伝工作を行ったというだけでなく、最終的に幹部の中では唯一ヒトラーに殉死しており、どうもヒトラーに心服していた節がある。ゲッペルスがいかにしてそのようなことになっていったかを追う。

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ゲッペルス

 ゲッペルスであるが、実は非常なコンプレックスを持っていたという。彼は4歳の時に患った小児麻痺のせいで、左右の足の長さが異なっており、整形用の靴を履いて足を引きずって歩いていたという。そのために他の子供たちと走り回って遊ぶことは出来ず、回りから哀れみの目で見られることを非常に嫌っていたという。つまりは友達もいない孤独な少年時代を送っている。

 やがて第一次世界大戦が始まり、彼の同級生達は次々と軍隊に志願していく。彼も志願したのであるが足の障害のせいで兵役に就くことは出来なかった。そこで彼は勉学に励んで優秀な成績で高校を卒業して、ジャーナリストか小説家になる夢を抱く。大学では文学を専攻して博士号を取得する。卒業後には新聞に記事を投稿するなどをしていたのだが、掲載されることはなくまた彼が心血を注いで書いた小説も全く評価されず、ライターとして生きていく道は閉ざされていた。

 

 

戦後の不況の中でナチスに出会ってヒトラーに心酔

 第一次世界大戦で敗北したドイツは巨額の賠償金を課せられて貧困化しており、その不満はワイマール共和制の政府に向かう。若者の多くが反政府勢力に身を投じる中でゲッペルスはナチ党のことを知る。強いドイツを訴えるヒトラーに心酔したゲッペルスは彼をキリストの使いだと感じたのだという。そしてナチ党に加入して宣伝工作に従事する。この時に彼の文学での才能が開花する。彼は演説の名手として名を上げ、それがヒトラーの目にとまる。ヒトラーと面会したゲッペルスはさらに心酔を深めていく。

 ゲッペルスは宣伝工作に関しては天才的だったらしい。ベルリンでは共産党が強いベルリンで勢力を増すために、意図的に共産党を挑発して乱闘騒ぎを起こしては話題を作るという「炎上商法」を駆使したという。結果として悪名にもかかわらずナチ党の入党志願者が殺到したのだという。あまりの乱闘騒ぎのために警察に集会や演説を禁止されると、新聞を発行して事実を捏造してベルリン市政府を批判するということを行ったという。ゲッペルスがベルリンに来て2年後にナチ党は国会で12議席を獲得する。

 

 

プロパガンダの天才としてナチスの勢力拡大に貢献する

 世界恐慌が発生すると失業者が溢れるドイツで、ナチ党は農村部に目をつけて農民を持ち上げることで力を強める。一方で都市の労働者の間では共産党が力を増していた。こうして両者は仇敵となる。そんな中、ナチ党員が共産党員に射殺されるという事件が発生する。この事件は実は女性問題という政治とは全く無関係な事件だったのだが、ゲッペルスはこれを意図的に政治事件として共産党に対する敵意を煽った。これでナチ党の支持がさらに広がる。ゲッペルスはプロパガンダの手法として「人々にプロパガンダと気付かれてはならない。相手の知らない間にたっぷりと思想を染み込ませるのだ。」とそのコツについて後に語っているという。

 そして次の総選挙ではナチ党は107議席を獲得して大躍進する。次の目標は政権となる。大統領選に出馬したヒトラーを飛行機で移動させ全国で遊説すると共に大量のビラまきを行う。さらに大量のポスターに映画まで動員する。しかしヒトラーは大統領選挙に負ける。だが翌年に大統領のヒンデンブルクがヒトラーを首相に任命する。ワイマール共和制に反発のあるヒンデンブルクはそれを破壊する劇薬としてヒトラーを取り込もうとしたのだという。

 

 

自らを理想の家庭の父親として宣伝する裏で

 ゲッペルスはヒトラーと自分の将来の処遇について話し合ったという。ヒトラーはゲッペルスに将来的には教育機関などを統轄させるつもりだと言ったという。そして1933年に国民啓蒙・宣伝省というかつてなかった機関が設置され、ゲッペルスがそのトップに就任する。ドイツではナチ党を支持する学生がユダヤ人の書いた本を焚書するという事件が発生、アインシュタインやフロイトなどの本も焼かれたという。典型的な反知性主義である。そしてユダヤ人を敵と見るように国民を煽った。ゲッペルスはプロパガンダに巧みにラジオを使用したという。また映画などもプロパガンダに使用している。

 またゲッペルスは自らの家庭をドイツの理想的家庭として映画で全土に公開したという。しかし実はその一方で彼は女優を物色しては次々と関係を結んだという。そんな中でゲッペルスはチェコ出身のリダ・バーロヴァという女優にぞっこんになる。どうやらゲッペルスは本気で家族を置き去りにしたようだが、そのことに対してヒトラーが激怒する。ドイツの理想的家庭の模範であるゲッペルスの不倫などは到底許せないのだという。バーロヴァとの別れを迫られたゲッペルスは抵抗するが、最終的には認めざるを得なくなる。この時のことについてゲッペルスは「青春は今終わった」といかにも文学者崩れ的なイタイ台詞を残しているらしい。

 

 

ナチスと共に歩んだゲッペルスだが、ついに終焉を迎える

 ここでゲッペルスは失敗を取り戻すべく、ユダヤ人青年によるドイツ大使館員射殺事件を利用してユダヤ人敵視をさらに煽る。これでドイツの若者がユダヤ人教会や商店を焼き討ちにする事件を引き起こす。ゲッペルスは点数稼ぎとしてナチスの反ユダヤ人政策を加速させていくことになる。

 第二次大戦が始まると日本との同盟を図るために、日本の国民に対するイメージアップのプロパガンダだとして「侍の娘」という日独合作映画を大々的に公開する。ちなみにこれが原節子の初主演映画だという。

 しかし最初は破竹の進撃をしていたドイツ軍だが、スターリングラートでの敗北を期に戦局は悪化していく。表に出なくなってきたヒトラーの代わりにゲッペルスは演説を行い国民を鼓舞する。総力戦を謳ったものであったが、残念ながら精神論の空疎なものだったという。

 ゲッペルスの演説の甲斐無くドイツは敗北を重ね、ソ連軍のベルリン攻撃の中でヒトラーは最後の時を迎える。この時にヒトラーに付き従っていた高官は最早ゲッペルスしかいなかったという。ヒトラーはゲッペルスに新内閣の首相になることを命じて、自らはエヴァ・ブラウンと共に自ら命を絶つ。後を託されたゲッペルスだが、家族を道連れにして自殺する。ゲッペルスにとっては初めてのヒトラーに対する命令違反だったとか。

 

 

 ゲッペルスに対しては「こじらせ男子」なんていう言葉まで番組中に登場していたが、まさにその通りだと私も思う。典型的なイタイ大人である。つまりは中途半端なロマンティストで、その夢をヒトラーに見てしまったのだろう。

 その一方で冷徹に大衆をコントロールする天才的な策士でもあった。彼の取った手法は大衆扇動の典型的な手法で、未だに「ナチスに倣おう」としている某政党が実践しているのは明らかである。吉本を取り込んで親しみやすいイメージを捏造するなんてのは典型的と言える。また一方的に敵を作り上げて「ああいう人たちに負けるわけにいかない」というやり方である。さらにはフェイクニュースによる反対陣営に対する攻撃。それをプロパガンダと気付かせないようにDAPPIなどを利用して広げる。まんまナチスが行ったことで、ゲッペルスが用いた手法と言えよう。

 結局のところ、ゲッペルスとしてはヒトラーをひたすら崇拝して追従していくことが自身の人生の目標になっていたんだろう。自分がトップになって仕切っていける力量がなかったのは明らかであり、その辺りの限界も分かっていたはず。だからヒトラーを失うと自身も後を追わずにはいられなかったんだろう。さらにそこで家族を道連れにしているのは明らかに彼の弱さ。まあこの手のタイプは本質的にチキンであるのは昔から常識。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・文学青年だったゲッペルスはジャーナリストや小説家を目指したが、ともに相手にされずに成功しなかった。そんな時にナチスに出会ってヒトラーに心酔する。
・皮肉なことに彼の文学の才能はナチスのプロパガンダで開花する。彼の宣伝の巧みさもあってナチスは勢力を拡大していく。
・ゲッペルスの取った手法には炎上商法、フェイクニュースの流布など今日にも多用されている手法が含まれていた。
・ゲッペルスは自らの家庭を「理想的なドイツ家庭」として宣伝するが、当の本人は女優との情事に明け暮れており、その挙げ句にバーロヴァという女優に入れあげて家庭を放棄しようとするが、これがヒトラーの逆鱗に触れることとなる。
・結局はバーロヴァと別れたゲッペルスは、点数稼ぎとしてユダヤ人排斥をさらに煽ることとなる。
・しかしやがて戦局は劣勢に陥る。表に出なくなったヒトラーの代わりにゲッペルスは総力戦を訴える演説で国民を鼓舞するが、ドイツは敗北を重ね、ついにベルリンが攻撃を受ける事態となる。
・ヒトラーは後のことを唯一残った高官であるゲッペルスに託して自殺するが、ゲッペルスは家族を道連れに自殺する。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・宣伝工作の天才でもあったゲッペルスです。彼が今の時代だったらどこかの芸能プロで敏腕プロデューサーとして活躍している可能性があるでしょう。しかし選りに選ってその才能をもっとも邪悪な方向で開花させてしまった。そういう点では真面目にユダヤ人虐殺に取り組んだプリューファーなんとかと被る部分もある。

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