教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/2 BSプレミアム ヒューマニエンス「"顔"ヒトをつなぐ心の窓」

人の内面を現す微表情

 ヒトは表情でコミュニケーションするが、この表情を司る表情筋は30もあるのだという。これが人類の進化の結果だとか。

 顔は心の窓などとも言うが、感情が表情に表れる。一瞬の表情からどれだけ感情を読み取れるかというテストを行っているが、これは一般人に嘘の情報を喋ってもらうという実験。すると嘘をつく直前に微妙に眉間を寄せるような表情が瞬間的に出ている。これは本人も意識していない微表情というものだという。これは「これから嘘をつく」と言う時に、集中しようと無意識に出てしまう表情だとか。だからプロのスパイなどは全く表情が変化しないように訓練するし、嘘を見破るのが上手い人はこの表情を読むのだという。なお番組では言っていないが、根っからの嘘つきでサイコパスの人間も、自らが嘘を言っているという自覚がないので微表情は出ないのではという気がする。

 

 

人類の進化と共に進化した表情筋

 この表情を操るのが表情筋。番組にはエスティシャンで表情に興味を持って解剖学を学んだという女性が作った笑顔の模型があるが、実に精巧に出来ているのに驚くところだ。で、このモデルを見ると非常に細かい筋肉が顔面に多いことが分かる。これらの細かい筋肉は進化の過程で淘汰によって分化したものだという。最初の顔面筋は口の周りの筋肉であり、これは母乳を飲むためのものだったという。そして霊長類になるとさらに表情は進化する。ニホンザルでは威嚇と服従の表情が使われるようになり、それがチンパンジーやゴリラになるともっと表情が進化したという。だから彼らは非常に顔を近づけてコミュニケーションをとるという。一方のヒトは50センチから1メートルほど離れるのが普通。これはヒトが白目を持つために視線から表情を読み取ることが出来、それを見るために距離をとるのだという。ヒトは複雑な表情で高度なコミュニケーションをとるようになったのだという。

 人の表情とは実に複雑であるという。AIにヒトの表情を読み取らせることで感情を判断する研究が行われているが、どうやっても顔の動きだけだと感情を正確に読み取ることが出来ないのだという(全くネガティブな感情がないのに怒りや嫌悪を読み取ってしまったりする)。だからより深く相手を観察し、さらには状況を判断する必要があるのだという。全く同じ表情だったとしても、状況が違うと全く違う感情の表現の場合があるという。

 

 

表情を認知する人の脳のメカニズム

 さてこの複雑な表情をいかに我々が認知しているかだが、ヒトがどれだけ顔に注意を払っているのかが分かるのが、何でも顔に見える現象。車の正面が顔に見えたり、天井のシミが顔に見えるというあれである。人間は逆三角形に図形が並ぶトップヘビーという配置を見ると、顔として読み取ろうとするようになっているのだという。この習性によって多くの顔を覚えられるようになっており、この時に脳内の顔領域と呼ばれる部分が働くようになっているという。赤ちゃんでテストしたところ、通常の顔写真を見せると顔領域が強く反応したが、上下逆さまにした顔写真を見せると反応しなかったという。なお現在はコロナ禍で顔が隠れているが、日本人は主に眼で表情を読み取るのに対し、欧米人は口で読み取る違いがあるので、欧米人の方がマスクに抵抗があるようである。

 ヒトが覚える顔の数であるが、どうやら1000人ぐらいは覚えているという。この膨大な数の顔を覚える方法なのだが、どうも平均的な標準顔を基準として、そこからのズレを強調した形で覚えているのだという。ちなみに番組では織田裕二氏の顔の特徴をさらに強調した映像を出していたが、いわゆるサルっぽさがさらに増していた(笑)。これがあるから特徴を強調した似顔絵がいかにも本人っぽく見えるのだという。そう言えば一般的に平均顔に近い顔がいわゆる美人だというが、よく「典型的な美人は印象が残らない」と言われるのもこの辺りが原因のような気がする。だから本当の美人は芸能人などには向かないなどと言う。


 以上、人間の進化と顔について。人間は高度なコミュニティを形成する社会的動物なので、相手の感情を読むという能力が必要とされたのであろう。もっとも表情というのは文化の違いも反映するので、その背景が違うと相手の感情が読みにくいということになる。そう言う意味ではとりあわけ「察する」ということが必要とされる日本人が、外国人に対して閉鎖的になる理由の一因がそこにあるような気もする。よく日本人は外国人に対して「あいつらは何を考えているか分からない」なんてことを言ったりするが、まさにこの文化ギャップの反映だろう。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・人間の表情を司る表情筋は30もあるが、進化の過程で細かい筋肉が分化していったという。
・顔の筋肉で最初に進化したのは口の周りの筋肉で、これは母乳を飲むためだった、しかし霊長類になるとコミュニケーションのために表情が現れ、ヒトはそれがさらに高度化した。
・ヒトの脳には顔を見るための顔領域というものがあり、図形が3つ逆三角形に並ぶトップヘビーという構造を見ると、顔として読み取ろうとする回路が出来ているという。これが車の正面や壁のシミが顔に見える原因だという。
・ヒトは1000人ぐらいの顔を覚えると言うが、その時に標準顔を基準として、そこからのズレを強調した形で、個々の顔を記憶しているという。だから特徴を誇張した似顔絵がよりその人らしく見えるのだという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・感情が顔にすぐに現れる人と、全く出ない人というのもいますね。また特に起こっているわけでもないのに、常に不機嫌に見える人とか。あの辺りのメカニズムはどうなってるんでしょうね。感情がまともに顔に出るので、家族からは「考えていることが丸見えだ」と言われている私としては気になるところ。

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