教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

1/27 BSプレミアム ヒューマニエンス「"サイボーグ"遺伝子進化との決別か?」

進歩を続けるサイボーグ技術

 今回のテーマは石ノ森章太郎・・・でなくてサイボーグである。サイボーグとは009で有名なように、人体の一部を機械で置き換えたり強化するという発想であり、これは極限まで行けば進化の概念をも覆すことになる。

 現在サイボーグ技術はどこまで進化しているのか。番組ゲストの筑波大学大学院の山海嘉之教授が開発したのは、装着型サイボーグというものである。いわゆるパワードスーツの一種だが、これは神経の情報を読み取って動作し、さらにはそれを脳にフィードバックするようになっている。このように神経を介して自分の肉体の一部としてやりとりできるのがサイボーグなのだという。

 さらに最先端のサイボーグ技術を適用した人物がいる。全盲の人物に人工網膜を移植することで、カメラの映像を視神経を通じて脳に伝えることが出来るのだという。視野にして20度くらいを確保できるという(もっともどの程度精彩に見えているのかの言及はなし)。

 

 

自らのサイボーグ化を進めているALSのロボット学者

 さらに自らの肉体のかなりの部分をサイボーグ化した人物もいる。イギリスのロボット工学博士のビーター・スコット・モーガン氏はALSによって動かなくなっていく自らの体の代わりに、自らのロボット技術を用いてそれを機械に置き換えると言うことを行ってきた。彼は今、生命維持に必要な様々な機能を機械に置き換えて生活している。アメリカの半導体メーカーや中国のパソコンメーカーのサポートを受け、彼は体が動かなくなっていくのに先んじて、まずは食事と排泄をサイボーグ化して、背中のタンクを胃と腸につなげた。さらに呼吸も機械化してこれらはポンプでコントロールされている。またコミュニケーションのために自身の表情に基づいた3Dアバターを作成し、音声も自らの音声をデータ化して合成音声を作れるようにし、目線で入力できるコンピュータを使用して文章を語る。彼はいずれすべての体の機能を機械に置き換えることを考えているという。ここに番組ゲストの山海氏は新しい人類の進化の可能性を見ており、弱者として社会の枠組みからはずされていた人たちが社会参加できる未来を見定めている。

 体の機能を補うという点では人工内耳はかなり前に実用化されている。蝸牛の機能に障害が発生して聴覚を失った聴覚障害者に対し、蝸牛内に電極を挿入して、外部のマイクで取り込んだ信号を聴神経に伝えることで聴覚を取り戻すのだという。実際に番組ではこれで聴覚を取り戻した女性が登場している。これらは一度取り付ければ100年は動き続けるようになっており、最初の手術は40年前で、今では1才から手術できるようになっているという。また人工内耳は技術の進歩で進化しており、スマホからコントロールできるようなっており、bluetooth機能なども有しているという(補聴器と同じだな)今や常人の機能を越えているのだという。なお織田裕二氏はこれに翻訳機能を追加するという妄想を掲げていたが、確かにそれってかなり実用性がありそうだ。

 

 

サイボーグ化が人類の未来を変える

 さらにサイボーグ技術が病をも越えようとしている。現在、心臓疾患で亡くなる人物が多いが、人工心臓の進歩によって今までの「心臓移植のドナーが見つかるまでのつなぎとしての心臓」から「機能が低下した心臓の機能を恒久的に補う」ための埋込型人工心臓が登場しているという。これで将来的には心臓疾患で亡くなる人はなくなるのではないかとまで言われている。また人工心臓を使用して心臓を休ませることで、心臓の機能が回復する例まで登場しているという。ただこうなってくるといよいよもって死の定義が難しくなるのではと番組では話が出ていたが、それはまさにその通りである。

 またサイボーグが心をも左右するのでという話もある。脊髄損傷をした人物の脊髄を機械による人工神経接続につなげることで足を動かせるのだという。しかもこの人工神経接続は同じ人である必要はなく、別の人につなげるとその人の体を動かすということも出来るという。さらには人工神経接続で精神をもコントロールすることが可能になるという。うつ病状態になったサルに、ボタンを操作したときに意欲や報酬を司る側坐核に刺激が加わるようにしたところ、サルがボタンを押す回数が増加したという。これを使用したら、例えば朝からどうもダルいと言うようなときに、意図的に気分を上げるなどということも可能となるのであるが、果たしてこれは大丈夫なのかという問題がある。

 

 

 以上サイボーグ技術についてだが、サイボーグ009たちがブラックゴースト団が兵器として開発したものだったように、実際に軍事に利用しようという動きもあるので要注意だという(愚かな人間は、最先端技術をなんでも破壊や殺人に利用しようとする)。また神経をコントロールするとなると、依存性が問題となろう。開発者も褒賞系をあまりに強くしすぎると、それがなくなった時に何もしなくなるという危険はあると言っていたが、頭に電極を埋め込んで、いつも快感中枢を刺激し続けるというSFに登場するサイバージャンキーがすぐにでも現れそうである。効果が麻薬などよりも直接的で麻薬のように体の方がボロボロになることによる制約などがかからないだけに、はまり込んだら抜けられなくなる可能性が非常に高いと私は感じる。機械で快楽中枢を刺激されてヘラヘラしながら、排泄と食事も機械につながって単に生きているだけというジャンキーがゴロゴロしているディストピアが私などは目に浮かんでしまうのだが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・人間の身体機能の一部を機械に置き換えるサイボーグ技術は進歩を続けている。
・筑波大学大学院の山海嘉之教授は神経信号を読み取って動作し、その結果を感覚神経にフィードバックするパワードスーツを開発した。これもサイボーグの一種である。
・イギリスのロボット工学博士のビーター・スコット・モーガン氏はALSで麻痺する自らの身体機能を次々と機械に置き換えるということを実践している。将来的にはすべての身体機能を機械に置き換えることを目指しており、それが出来れば今まで弱者とされてきた重病患者の社会参加も可能となるのではとされている。
・人工内耳はもっとも初期に開発されたサイボーグ機能と言えるが、これは能力を強化することで常人以上の能力を得ることも可能であるという。
・また人工心臓も進歩しており、今までの「心臓移植を待つ間を凌ぐ装置」から「恒久的に埋め込んで心機能を補完する装置」に進化しつつあり、いずれは心臓疾患で死亡する患者がいなくなる可能性さえあるという。
・さらには損傷した神経を機械的に接続する技術もあるが、これは他人の神経に接続してコントロールすることも可能であるという。また接続先を脳の褒賞系にすれば、特定の動作をすることで精神を上げるなんてことも可能であるが、様々な問題も案じられる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・どうもこのテーマも最終的には生命倫理の問題に行き着きそう。さらには全く異なる方向として、脳だけ取り出してしまって身体は不要という考えなんかも登場する可能性はある。何にせよ、目に浮かぶのはSF的ディストピアばかり。かつては空想の世界で済んでいたのだが、それが現実化する可能性が出て来たら恐怖もある。

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