南アフリカの固有種の楽園
今日の世界遺産は南アフリカのケープ植物区保護地域群。奇岩の台地にここにしかない固有の植物が多数存在し、その数は6000にも及ぶという。
寒流と暖流がぶつかり、アフリカ唯一のペンギンであるケープペンギンが沿岸で暮らすケープ岬。植物区はここから始まる。ケープタウン背後にそびえる標高1000メートルのテーブルマウンテンの上も13ある保護地域の一つである。ここは地中海性気候であり、これはアフリカ南部ではケープ植物区だけの特徴である。この山は植物には厳しい環境だが、ここだけで1470種の固有種が存在しており、これはイギリス全体の固有種の数よりも多いという。
世界の植物を共通の特徴から6分類した場合に、一番小さい固有の区画がケープ植物区であると言う。面積はアフリカ全体の0.3%に満たない。しかしここには6000種の固有種が存在している。
ここには様々な形をした独特の植物が存在し、それらがユニークな花を咲かせる。ケープ植物区は砂岩の浸食による奇岩が並ぶ。
奇岩の大地の幻の花園
ケープタウンから北へ200キロのセダーバーグ原生地域も13の保護地域の一つ。標高1000メートルの砂岩の大地でそれが隆起する時に亀裂が入り、浸食によってそれが広がった。ここでは砂岩のアーチなどの奇岩が並び、その麓にここでしか見られない固有の植物が花を咲かせる。そこここの環境に合わせて様々な固有種が存在する。そのために非常に狭い範囲にしか見られない植物が1800種も存在するという。
この地には25メートルの岩の塔が直立する。これも浸食によって形成されたものである。一面の砂岩の大地が削られて岩の塔だけが残ったのである。奇岩によって様々な環境の地形が作られたので、そこに応じた植物が進化し、脅威の植物区が生成した。
標高2000メートルの山地が続くスワートバーグには地殻変動によるくねった地層が見られる。さらには直立した地層まで存在する。
8月の終わり、南半球の春に突然に現れる幻の花園が存在する。春を迎えて一斉に開花が起こるのだという。花が咲くのはほんの数週間だという。春の前に雨が降ると、地面に落ちた種や球根が一斉に開花するのだという。花に溢れるのがケープ植物区の特徴でもある。また植物はほとんど雨の降らない乾燥エリアでも、水分を保持して乾燥に強い多肉植物が棲息する。
独得の生存戦略
また特定の虫などと共に進化した植物も存在する。紫の花を咲かせるラパルジア。ロングタンフライというアブの仲間は6センチもの長い嘴を持つが、これはラパルジアの空洞の軸の長さと同じで、この中に溜まっている蜜を吸うために進化したものだという。そしてラパルジアはその時にアブの頭に花粉を付け、遠くに運んでもらうのである。
ケープ半島は山火事が多いが、山火事が起こった後の焼け野原に咲く花もある。ここに存在する固有種の花は、受粉すると固い殻を閉じて種を包んでしまう。そして山火事が起こると熱に刺激されて種が出て芽吹くのだという。落雷などで山火事が起こるまで数年待つのだとのこと。山火事の後は日当たりが良くなるし、灰が肥料になるので植物の生育に適した環境になるのだという。
忙しい方のための今回の要点
・南アフリカのケープ植物区には、6000もの固有種の植物が存在する。
・ここは砂岩が隆起の後に浸食された奇岩の台地であり、その変化に富んだ複雑な地形のために様々な環境が存在する。そしてその環境に合わせた植物の固有種が狭い範囲に棲息している。
・また植物と虫が共に進化した例もある。ラパルジアの蜜を吸うために長い嘴を持つように進化したロングタンフライ。彼らはその嘴でラパルジアから蜜をもらう代わりに花粉を運ぶ。
・さらにケープ半島には固い殻の中に種を保持して、山火事が起こるのを待つ植物までいる。山火事後の環境は植物の生育に適しているので、それを待っているのだという。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・様々な植物がいるのが驚きではありますが、山火事が起こるのを待っている植物というのが一番驚いた。競争相手となる他の植物が一掃された時に一気に繁殖しようという戦略か。まさに自然の驚異。
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