教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/24 サイエンスZERO「サルもコアラもカメムシも!アニマル腸内細菌"超"能力SP」

カメムシに見る腸内細菌の働き

 腸を持つ多くの動物が必ず持っているというのが腸内細菌。長い進化の過程でかなり早期から共生のメカニズムが成立してきたという。腸内細菌は臓器の一つだとまで言い切る人もいるぐらい生命活動に大きな影響を与えている腸内細菌に注目する。

 まず登場するのはカメムシの一種のホソヘリカメムシ。植物から養分を吸い取って生きているカメムシだが、実は大豆の害虫として知られている。このカメムシの腸内にはバークホルデリアという腸内細菌が共生しており、これらが老廃物から有用な栄養素を生み出しているという。だから腸内にこのバークホルデリアが存在しない個体では身体の重さや産卵数が半減するということが発生するという。

 さらにこのカメムシの駆除のためにフェニトロチオンを主成分とした農薬が使用されるが、時に耐性を持ったカメムシが増殖してしまうという問題が発生する。今まではこの薬剤耐性はたまたまそれに耐えることができたカメムシが子孫を残して増殖すると考えられていたが、腸内細菌の研究結果から、実は細菌の中に薬剤を分解する能力を持つものが土壌中などに現れ、カメムシはそれを土を食べることなどから体内に取り込むということが分かってきたという。だから土壌中の細菌に薬剤分解性などを持たせないことか鍵と言うことが分かってきたという。

 

 

食生活と密接な関わりのある腸内細菌

 腸内細菌が生存に重要な役割を果たしていることで知られている動物にコアラがいる。コアラはユーカリを主食とするが本来ユーカリの葉は有害である。毒物のシアノ化合物や消化吸収を妨げるタンニンなどの成分を有している。これらを分解するのもコアラの腸内細菌であるという。腸内細菌は腸内に寄生することで餌を得ることができる環境であると同時に、腸内細菌が宿主に良い効果を与えることで共生関係が成立している。

 しかしこの関係から、宿主の摂る食物が偏ると特定の腸内細菌が繁殖して、腸内の環境が変化するということが起こる。これを利用しての研究をしているのが、神戸大学の清野未恵子准教授。彼女は野生の猿の糞から腸内細菌を取ってその研究をしている。というのは野生の猿は畑への食害などが問題となっていて、有害なサルは駆除されることになるが、その時にたまたまそこにいたというだけで駆除されてしまう可能性があるのだという。そこで彼女は腸内細菌に目をつけ、高カロリーの作物を摂取していると腸内細菌の分布が変わることから、農作物を食べているサルを見極める方法を研究していると言う。

 

 

絶滅危惧種の保護にも鍵となる腸内細菌

 さらに腸内細菌を絶滅危惧動物の繁殖に活用した例も。高山で暮らすニホンライチョウは絶滅が危惧されている生物で、人工繁殖なども行われているのだが、飼育されてる雛が衰弱して死亡するケースが多くあったという。そこでライチョウの糞を調べたところ、雛は親の糞を食べることで腸内細菌を引き継いでいたということが分かったという。ただし食糞だと寄生虫の類いに感染する危険もあることから、糞に含まれる細菌を調査して、その中から成長に不可欠と思われる細菌を同定、培養することに成功したという。そしてそれらの菌を餌に加えて雛に与えたところ、死亡する雛がいなくなったという(簡単に説明しているが、非常に血道で大変な作業である)。

 

 

 以上、腸内細菌の話。大昔には腸内細菌は身体に寄生して養分を横取りしているだけの不要物のように言われていた時代まであったのだが、最近は腸内細菌のバランスの重要性が言われるようになってきた。これも研究の進化に伴う時代の変化である。こういうことがあるから、常にあまり極端なことはしないに限るのである(実際に大昔には抗生物質などで体内の菌を一掃した方が病気にかかりにくくなるという極端な主張まであった)

 また慢性的な腸の不調を抱えている患者は、腸内細菌のバランスがおかしくなっているという研究報告もあり、健康な人の腸内細菌を大腸内に噴射する(端的に言うと便を薄めた液を噴射するのだが)という方法が効果を上げているという。どういう理由で腸内細菌のバランスがおかしくなるのかはまだ定かではないのだが、どうも過度な衛生で消毒剤まみれになったジャンクな食生活が影響しているように私は感じている。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・カメムシの研究結果から、薬剤耐性種の登場はカメムシの個体によるものでなく、土壌中に生まれた薬剤分解性細菌をカメムシが土壌を摂取することで体内に取り込むことが原因であるということが分かってきた。
・腸内細菌は宿主に重要な働きをしているものも多く、コアラが有害なユーカリの葉を主食にできるのも、腸内細菌が毒成分を分解するからである。
・食べ物が偏ると腸内細菌の構成も変わる。これを利用して野生の猿の腸内細菌から、高カロリーの畑の作物を食べている有害な個体を見つけ出す研究もなされている。
・さらにニホンライチョウの繁殖において、雛は親鳥の糞を食べることで腸内細菌を獲得していることが分かった。そこで糞に含まれる成長に必須な細菌を同定して繁殖させ、餌に加えたところ、雛が衰弱して死ぬという問題がほぼなくなった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・腸内細菌。そう言えば私も最近はお腹の調子のためにヨーグルトを摂るようにしています。実際にこれを摂ると摂らないとで覿面に腹の具合が変わります。やっぱり腸内細菌って重要なんだなと痛感し始めた今日この頃。
・ところで番組中に登場した清野未恵子准教授だが、「みえこ」という名には「美恵子」という「美しさに恵まれた子」とか「美栄子」「美しく栄える子」なんていう字はよく見るのだが「未恵子」「未だ恵まれぬ子」というのは初めて見た。親はどういう意図の元でこの漢字を選んだんだろうという余計なお世話な疑問が浮かんだ次第。
・今回からMCに井上咲楽氏が就任したようだが、いきなり「うんちに興味があります」とグイグイと食いついてきたのに浅井理アナが「あなたそこに噛みついて良いの?」といささか戸惑っていたのが見えた。アイドルはトイレに行かないなどと言われていた時代から随分変わったものである。

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