教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/10 BSプレミアム ヒューマニエンス「"家畜"それは遺伝子の共進化」

家畜と人の共進化

 最近はネタがしんどいのかかなり突飛なテーマも増えてきたが、今回は家畜。もうヒューマニエンスじゃないやんというツッコミをしたくなるところだが、一応家畜の存在が人間の進化にも影響を与えたのではと言う観点。

 人類の進化を見た場合に大きな発明の一つが家畜の存在だという。実際に家畜を飼うようになって食糧確保が安定し、人口爆発が発生したという。

 最も古く家畜化された動物の一つがヤギだが、攻撃のためにある角が小さくなって家畜のヤギとなったのが1万年前だという。西アジアで狩猟採集していた人々が家畜の飼育を始め、それと共に人口が爆発したという。肉などを得て食糧が安定したと考えられるのだが、実はそれだけではないという。鍵を握っているのがミルクで、これが肉よりも安定的な新たな食糧となったという。そしてこれが人の遺伝子進化にも影響しているという。

 現代日本人で乳糖耐性のある人は3割に過ぎないそうだが、実は乳糖を分解できる酵素は本来は乳幼児しか持たないので、本来はもっと少なかったのだという。それが人間の進化の過程でミルクを食品として吸収する大人が登場したのだという。だからミルクを通常に食糧とする欧米では乳糖耐性は9割の人が有するという。

 

 

家畜化のメカニズム

 なお人が家畜化を進めた方法だが、これは個体の中から人への警戒心が低くて攻撃性も低く従順である個体を選び、その交配を続けていった結果だという。これを遺伝学の知識もなくにやり遂げたわけである。この遺伝子改変は今日でも続いている家畜の基本である。

 また家畜化された動物にとって共通の変化が発生するという。その最大の特徴は白色化することだという。本来は自然界において白い個体は目立ちやすいので生存に不利だという。しかし家畜化した動物は白くなる。これを家畜化症候群と呼ぶという。なおこの効果を説明するのに神経堤細胞仮説というものがあるという。神経堤細胞とは受精卵の初期に発生して、その後に体の各細胞を作っていくものだという。これが家畜では減少しているのではという。神経堤細胞が作るものの一つがメラニンを作る色素細胞であり、さらには歯や顎の骨などの頭蓋骨も神経堤細胞が多いほど太くて丈夫になる。だから家畜化することで牙や角は小さくなる。さらに副腎も神経堤細胞で作られる副腎はストレスに対抗するためにコルチゾールを合成するが、家畜はそのようなストレスが少なく(餌の確保に追われる必要がないし)、コルチゾールを作る副腎が大きくなくて良いから、結果として神経堤細胞が減っているのではないかという。実際にコシジロキンパラを家畜化したのがジュウシマツであり、コルチゾールの分泌量はジュウシマツの方が少なく、それだけ攻撃性も低いという。さらに警戒心を調べる実験でも、ジュウシマツは天敵に対する警戒心が低いことが分かったという。これらも神経堤細胞仮説で説明できるという。

 家畜化の特徴は、白色化する、攻撃性が低くなる、高い密度で飼ってもストレスを感じなくなるということだという。これには関わるのが神経堤細胞なのだという。また家畜化すると遺伝子がゆるんで突然変異しやすくなるというようなことも指摘されている。

 

 

家畜の人とのコミュニケーション能力

 さらに家畜は人とコミュニケーションを取ることも知られている。人の言葉を理解しているように思われる動物がいるが、それがまさに人とのコミュニケーションである。実際に馬で行った実験では、笑い顔に怒ったような声の組み合わせという「違和感」のあるものを見せた時にだけ疑問を感じたのか馬が反応したという。馬は飼育員の表情まで読んでいたのだという。

 なお犬とチンパンジーの認知能力を比較した実験がある。2つのカップの一方に餌を入れ、その餌の入っている方を人が指し示したのだという。すると犬では人が指した方を素直に選んだのに対し、チンパンジーは指さしを無視して出鱈目に選ぶという。知能が高いチンパンジーよりも家畜化されている犬の方が人の感情を察するのだという。さらにヤギで蓋を被せて食べられないようにした餌を与えた時、人間に対して「助けて」というようなコンタクトを取ってくるという実験もいる。

 

 

人間の自己家畜化

 また人間自身も自己家畜化していると言えるという。人間が集団で生活できるのはまさに家畜化しているからだという。この説はドイツの人類学者のヨハン・フリードリヒ・ブルーメンバッハが最初に唱えたとされる。これが文化や文明を発展させた要素なのではと言う。では攻撃性も低下しているのかだが、20万年前の人の頭蓋骨はテストステロンが多い時に現れる眉の部分の出っ張りが今よりも大きいことが分かっており、攻撃性が低下しているのは間違いないという。さらに顎の骨も低下している。人にも家畜化の特徴が現れているのだという。

 ストレスレベルが上がると神経細胞の増殖が抑えられるということが起こるので、逆にストレスレベルが減ると神経細胞が増殖し、知能が向上するのではという。実際に野生のコシジロキンパラよりもジュウシマツの方が複雑な鳴き声をしてるのだという。言語能力も家畜化と関係するのではと言う。

 しかし自己家畜化には落とし穴もあるという。自己家畜化を影で支えたのではないかと考えられるのが、別名幸せホルモンのオキシトシンであるが、オキシトシンは身内に対して仲良くやさしくなれるのだが、身内でない者に対しては攻撃性を上げるという作用があると言う。自己家畜化で攻撃性が低下したはずにもかかわらず、人間が激しい戦争を行うのはそこに理由があるという。

 

 

 以上、家畜について。昔から日本人は政府に従順な家畜と言われるが、こうして見ていると「やっぱり正真正銘の家畜だったんだ」と妙な納得ができる。確かにウサギ小屋で集団生活を強いられていてもストレスレベルが低いし(欧米人はあんな家ではとても暮らせないと言う)、察しろの文化で同調圧力が異様に強いし、外国人などに対する排他性も異様に高い。そう言えば政府に飼い慣らされた家畜度のさらに高いヤツほど、とにかく隣国に対してやたらに噛みつくが、そういうことかと妙に納得。

 白い動物は家畜だったというのは目からウロコだが、言われてみたら家畜には白いのが多い。もっとも体色は環境と関係するから、雪原で暮らす生き物が白いのはまた話が別だが(白熊は家畜ではない)。ってことは人間も家畜度が高いほど白いのかと思ったが、どう考えても白人は歴史的に見て一番攻撃性が高く、家畜度が高いとは思いにくい。ただよくよく考えると、その彼らの攻撃性って特に異教徒とか肌の色が違う相手とかに発揮されていた。やはり身内でないと感じた相手に対しては容赦ないってことか。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・人類の進化における最大の発明の一つが家畜の飼育だという。家畜を飼うようになってから人口が爆発的に増加しており、食糧供給の安定かがもたらされている。
・またこの時に「ミルクを食糧とするようになった」というのが大きな変化であり、そのことは人類に、大人になっても乳糖を消化できるようにするという進化を促したという。
・人類は動物の家畜化において、遺伝学もなかった時代から攻撃性が低くて従順な個体を掛け合わせるということを長年に渡って行ってきている。
・家畜化された動物は白くなるという家畜化症候群が知られており、これは神経堤細胞仮説で説明できるという。ストレスが少ないために抗ストレスホルモンのコルチゾールを生成する副腎が小さく済み、そのことから副腎生成に関係する神経堤細胞が少なくなるとされている。
・さらに神経堤細胞が少なくなると色素細胞が減少し、さらには頭蓋骨なども弱くなるので牙や角が小さくなるという。
・また家畜化された動物は人とコミュニケーションを取るようになる。
・人間もまた自己家畜化されているという。家畜化の特徴は集団生活にストレスを感じなくなることや攻撃性の低下であり、実際に人類は20万年前に比べるとテストステロンが減少していると考えられる。
・ただし家畜化に影響すると考えられるオキシトシンは、身内以外には攻撃性を強めるという作用もあり、これが人類が未だに戦争を続ける原因ではという考えも。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・つくづく「日本人って家畜化されてるな」と納得するんですよね。以前から感じていたことでしたが。

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