教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/7 BSプレミアム ヒューマニエンス「"骨"硬くてしなやかな仕事人」

生存に不可欠なカルシウムの貯蔵庫・骨

 骨と言えば骨格というように体を支えるために不可欠なもの。生物は陸上進出を可能とするためにこれを得たと考えられるのだが、その考えは少々違うようである。そもそも骨とはこれが存在しないと生物は生きていけないのだという。これがないと重力でつぶれてしまうから・・・と考えるとこだが、そういう意味ではなくもっと直接的に重要であるという。

 そもそも骨は不変ではない。破骨細胞と骨芽細胞が骨を溶かしては再生を繰り返して、すべての骨が3年で新陳代謝するという。破骨細胞は強力な酸で骨を溶かし、骨芽細胞がその穴に入り込んで修復するのだが、実はこの両者の細胞が接触して情報を交換している様子が観察できたという。つまりは両者は想像以上に密接な連携を行っているのだという。ちなみにこの連携がうまくいかなくなると骨粗しょう症などが発生する。

 ではなぜ骨を溶かすのか。実はこれが生命にとって重要なのである。骨から溶けだしたカルシウムが供給されることでカルシウムイオンが心筋を動かす原動力となるのである。心臓だけでなく全身の筋肉の動きがカルシウムイオンで制御されているので、カルシウムの欠乏はすなわち生命活動の停止を意味するのである。だから骨はカルシウムのATMと言えるという。骨が蓄積しているカルシウムの量は1キロほど。これは1000日分の生命活動の維持に必要な量にあたるという。

 

 

上陸のために硬くなったのではなく、硬くなったから上陸できた

 またカルシウムは骨格を固くする機能も持っている。骨にはコラーゲンが中心で柔らかい軟骨とカルシウムを含有して堅い硬骨が存在する。海中で暮らすエイなどはほぼ軟骨でできているが、淡水中で暮らすメダカなどはほぼ硬骨でできている。これは海水中には豊富なイオンが存在し、カルシウムイオンを取り込むことに苦労しないが、淡水中にはほとんどカルシウムが存在しないために骨に蓄積する必要があるのだという。こういう魚が硬骨魚類であり、我々はここから進化したのだという。3億8千万年前に我々の祖先が上陸する前には淡水中で暮らしいていた。そこで生存のためにカルシウムを骨中に蓄積し、そのことによって骨が硬化し、それが上陸につながったのだという。つまりは上陸するために骨が固くなったのではなく、生きていくために骨が硬くなった結果として上陸に都合よくなったのだという。

 ちなみに現在は海中の魚はほぼ硬骨魚類なのであるが、それは淡水中に移動していた魚類が再び海に戻ったのだという。これは硬骨を持つことで運動能力が高まるなどのメリットがあったことから、再び海に戻ってから生存に有利になったという結果であったろうという。

 

 

環境で変化する骨

 骨のもう一つの重要な働きに血液を作るというものがある。人間では体の中央の骨格の骨髄で血液を製造するが、これは哺乳類の特徴だという。強固な骨の中で血液を作るということにメリットがあったのだろうという。ネズミの胎児などでは肝臓で血を作っており、出生後に血液の中で血液を作るようになる。実際には血液を作る場所は変化しているのだという。鳥は逆にひなの時には骨髄で造血しているが、成長すると骨髄で造血しなくなるという(骨髄がスカスカになって軽量化する)。

 骨が環境で変化するのは宇宙飛行士が帰還時には骨がかなり弱くなっていることなどに示されている。また赤ん坊の頭蓋骨は大きく5つに分かれているが、それが成長と共に引っ付いて強固な頭蓋骨となる。全身の骨は300本から200本ほどに減少するという。骨は変化するのである。

 骨とはそもそもコラーゲンが土台を作り、そこにオステオポンチンというホルモンが分泌される。これはコラーゲンとカルシウムを接着する作用があるという。次にオステオカルシンというホルモンが分泌され、これがカルシウムを招き寄せて石灰化するのだという。しかし環境が変わると、変化するのだという。マウスの骨を使って引っ張り力をかける試験をしたところ、先の二つのホルモンの分泌順序が入れ替わったという。カルシウムを急いで誘導しようとしたのだという。

 

 

 骨の進化と役割について紹介。今回目からウロコだったのは「順序が逆」。今まで生物は陸上に進出するために強固な骨格を獲得したと考えていたのだが、そうではなくて淡水環境で生きていくためにカルシウムを骨の中に蓄積したら強固な骨格が出来、結果として陸上進出が可能となったという話であった。人類の進化の歴史を見ても、決してそこに戦略のようなものがあったわけでなく、行き当たりばったりの間に合わせの集大成という感覚が強いのであるが、まさにその線に沿った考え方であり非常に興味深かった。

 それに骨をカルシウムの貯蔵庫と考えると、破骨細胞があれほど激しく骨を分解することも納得できる。本来は単に体を支える屋台骨としての骨格なら、そもそも日常的に分解する必要はほとんどなく、老朽化によって損傷した部分を修復するだけで十分なはずである。今回は今までいろいろと合点がいかなかった部分について説明しているという意味で非常に興味深かった。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・骨とは体を支える骨格であるが、そもそも一番の役割は生きていくために不可欠のカルシウムを貯蔵することにある。だから骨では破骨細胞と骨芽細胞が活発な骨の分解と再形成を行っている。
・骨から溶け出したカルシウムは筋肉などの制御に用いられている。もしカルシウムが存在しなかったら心臓は直ちに停止してしまう。
・骨にはコラーゲンからなる軟骨と、そこにカルシウムが加わった硬骨が存在し、元々海中の生物はカルシウムが周囲に豊富にあるために体内に蓄積の必要がなく、その体は軟骨からなっていた。
・しかし生物が淡水中で長く生きるためにはカルシウムの備蓄が不可欠であり、骨にカルシウムを蓄えたことから硬骨が中心の生物が誕生した。
・そして硬骨を備えた生物の中から陸上進出するものが登場し、さらに一部の生物は再び海中に戻って今日の魚類のほとんどの硬骨魚類の祖となった。
・骨のもう一つの重要な働きは血を作ることだが、体の中央部の骨格の骨髄で血を作っているのは哺乳類の特徴である。そもそも胎児の時には肝臓で血を作っているのが、誕生後に骨髄に移動する。
・また骨は環境に合わせて随時作り替えられており、誕生時は300ある骨が合体して、成人では200にまで減少する。また外からの刺激で骨の形成の順序が変わることも分かったという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・非常に興味深い内容でしたが、一つだけ疑問だったのは生物がなぜ淡水中に進出する必要があったかですね。海中の生存競争から逃れるためでしょうか。しかしそれだと多くの生物が大挙して淡水中を目指したのが今ひとつ不明。考えられるとしたから、最初は淡水中に一部の弱い生物が移動したのだが、彼らがそこで硬骨を獲得することで強靱となり、再び海に戻ると元にいた生物を駆逐したというところだろうか。

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