教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

6/15 NHK 歴史探偵「北条政子」

北条政子は悪女ではない?

 またも大河関連企画です。この番組って大河の宣伝のためにあるのか? いろいろと言われている北条政子の真の姿を紹介すると言ってるんだが・・・。

 北条政子と言えば、夫頼朝亡き後の鎌倉幕府を尼将軍として支えた功労者なのだが、烈女のイメージから歴史的には評判はあまり良くはなく、江戸時代などには日野富子、淀君などと共に三代悪女にまで挙げられていて、「嫉妬深く魂情悪き」とまで書いてあるとか。かなりボロクソな言われようである。

 しかしその政子像は少し違うという。鎌倉でクシが発掘されたというが、その場所が永福寺のお堂の正面の山頂の経塚から見つかったことから、戦いの犠牲者を弔うためのものだと推測できるという。このクシは政子が納めたものだと考えられ、亡くなった誰かの奥さんを弔ったのではと推測されることから、彼女は冷酷な女性ではなくて思いやりのある女性だったのではとされている。

 

 

江戸時代の価値観とは違う鎌倉時代の女性の姿

 政子がこのように言われることになった一因には、政子の出産の時に頼朝が愛人を作り、それに激怒した政子が愛人の家を破壊させたというエピソードがあるかららしい。もっともこれは時代の違いというものであり、これは後妻打ちと言って当時の本妻としてはそれは愛人に対する当然の権利を行使したものだという(本妻が夫の不倫相手に慰謝料請求するみたいなものか?)。

 そもそも江戸時代の儒教社会では政子のような「強い女性」はどしても評価が下がるからだという。しかし鎌倉時代の武士の妻は家を守る役割があり、相当に力を持っていた。だから頼朝亡き後に政子が幕府を引っ張ろうとするのは出しゃばったというよりも当然の行動だったのだという。

 

 

政子の政治手腕が鎌倉幕府を守った

 政子の手腕を物語るエピソードとしては、父の時政が実朝の暗殺を目論んだ際の迅速な対応などが残っている。自身の情報網を保持していたのだろうと考えられるという。特に女性ネットワークを確立していたのだという。しかも弟の義時が亡くなった際には、後継者として政子が支持した泰時に対し、義時の妻の伊賀の方が政村を支持して、御家人の三浦義村を味方につける。伊賀の方にたくらみがあると聞いた政子は、女官を一人だけ引き連れて丸腰で三浦義村の元に乗り込んで説得したという。この胆力ある行動に義村はタジタジで、陰謀は不発となったのだという。政子は武断政治から法治国家への橋渡しも行ったのだという。この後も政村を処分するのではなく、泰時の補佐につけた。その後、政村は7代執権として鎌倉幕府を支える。

 そして政子の行動で一番有名なのは、承久の乱の際の演説だが、その演説について分析したところ、シェークスピアの「ジュリアス・シーザー」に出てくるアントニーがシーザーを擁護して行った名演説に通じると分析している。つまりは最初は本題ではないところから始まり、次に頼朝の恩を訴えることで情に訴え、次にそれに対する現実を見せ、最後に決断を迫っているという・・・のだが、とりわけ特別と言うよりも、普通に上手な演説(というか、アジ演説なんだが)のやり方ってだけなんだが・・・。

 

 

 以上、北条政子の真の姿に迫るとのことなんだが・・・。例によって目新しい事実はないな。とりあえず政子が江戸時代にボロクソ言われているのは、儒教文化では「自立した女性」という存在はあり得ない物だから、当然である。例えば現代の普通の女性なんて、江戸時代の文化基準から見たらあり得ないような悪女ばかりってことになるだろう。

 と言うわけで、目新しい事実皆無でひたすら大河の宣伝だけに勤しんでいたのが今回。しかも大河の宣伝なものだから、佐藤二朗の無駄話が通常以上にさらに増える。例によって見所のない内容だったな・・・。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・北条政子は江戸時代には、嫉妬深い根性悪と希代の悪女のようにあしざまに言われている。
・しかし政子は細やかな気遣いのできる女声であることを示す発掘物も見つかっている。
・また政子が頼朝の浮気相手の家を破壊したと言われているが、あれは当時では普通に行われていた行為だという。
・当時の武家の妻は家を支える役割があったので、政子が頼朝亡き後の鎌倉幕府を支えるのは当たり前であった。
・政子の行動力を示すエピソードとして、父時政の実朝暗殺計画の阻止、弟義時の死亡時の後継者争いの阻止などが残っている。
・また有名な承久の乱の際の演説は、実に巧みな構成になっている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・なんかこの番組、2回に1回ぐらいは大河の宣伝しているような印象があるんだが、そこまで無理矢理に推さないといけないほど大河苦戦してるのか? 

・政子の演説がアントニーの演説に通じるなんて分析していたが、私に言わせればあの見事な煽りっぷりはむしろギレン・サビじゃないかって気がするんだが。「貴方たちが愛した頼朝様は死んだ。何故だ。」「上皇にどれだけの権威があろうとそれは形骸である。あえて言おうカスであると!!」って雰囲気なのだが。「立てよ、御家人!」

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