宇宙開発の脅威となっている宇宙のゴミ
宇宙の利用が進むにつれ、深刻な問題となりつつあるのがスペースデブリ、地球を取り巻く宇宙空間に浮かぶゴミである。地球周囲の軌道上の人工物は年々増加を続け、現在軌道上の10センチ以上の人工物は今や2万5000個以上あり、この中で運用中の人工衛星は6000ほどなので後はゴミだという。運用停止した人工衛星が残存燃料や電池のせいで爆発して破片を散らすこともあり、1ミリ以上のデブリを加えるとその数は1億以上だという。
たかがゴミと侮ることはできない。その内容は寿命の尽きた人工衛星や、打ち上げ時に散らばったゴミ、さらにはこれらが壊れた破片など様々である。しかしこれらのゴミは単にプカプカ浮いているのではなく、人工衛星のように高速で地球の周りを回っているので、もし衝突すると人工衛星などはひとたまりもなく破壊される可能性がある。実験では直径3センチのデブリがライフル並の速度で衝突して、模擬人工衛星を粉々に破壊したという。そうなるとその人工衛星の破片がさらにデブリとなって宇宙に散らばることになり、さらに新たな衝突を起こしかねない。そうなると宇宙空間の利用も人類の宇宙進出も不可能になる可能性がある。実際にアメリカの人工衛星とロシアの運用停止した人工衛星が2009年に衝突し、シミュレーションによるとこれで発生した300万個に及ぶデブリが宇宙空間に広がったという。
実際に国際宇宙ステーションなどでは長期間にわたって小さなデブリの衝突の影響を受けており、そのための穴などがあると野口さんも証言している。このデブリが特に多い軌道が傾斜角50度と98度だという。50度は人口密集地帯の上空を通過するので通信衛星などに、98度は極軌道で太陽光パネルが有効に機能するので、衛星などに使用されることの多い軌道だという。下手をするとこれらの軌道が使用不可能になる恐れもあるという。
デブリ回収に乗り出した各国
対策としては、まず新しいデブリを作らないという取り決めが国際間で進められている。そして具体的に除去するという試みも始まっている。イギリスのサリー大学は民間企業と連携してデブリを捕まえる技術の開発を行っている。宇宙空間で投網を投げてデブリをキャッチしたり、槍を打ち込んでたぐり寄せるなどの技術が開発中である。共に元ネタはグラディエーターの戦闘道具だとか。
ESA(ヨーロッパ宇宙機関)も民間企業と共にデブリ捕獲衛星の開発を進めている。ロブスターをモデルに4本の足でガッチリとターゲットを虎問えるのだとか。ターゲットのデブリは小型ロケットの一部で直径2メートル重さ112キロという大物である。2025年の打ち上げを目指している。
一方日本でも、デブリ回収事業の確立を目指すベンチャー企業アストロスケールが捕獲技術の開発を行っている。3年がかりで開発した衛星は磁石でデブリの金属部分に引っ付けて捕獲するというもの。宇宙空間での技術立証実験も成功したという。将来的には運用する衛星に事前に金属プレートを取り付けて、運用後には回収するというシステムを確立したいという。
なお小さなデブリまでもれなく回収というのは非現実的なので、衝突による破壊などで大量のデブリを撒き散らす恐れのある大きなターゲットをまず回収していくことが重要だという。試算によると新たなデブリが出ない取り組みを実行しつつ、年に5つずつ大きなデブリを回収していけばデブリは増加しないのだとか。
JAXAが目指す回収技術確立
JAXAが民間企業と連携して回収技術を確立しようとしているターゲットは、ロケットの第二段で全長11メートル、直径4メートル、重さ3トンという超巨大デブリ。この取り組みはCRD2(商業デブリ除去実証)というもので、将来的にビジネスとなる技術確立を行うことが目標であると言う。小型衛星からロケットの口に捕獲装置を入れて中で広げて捕獲しようという目論見だという。ただ一番技術的に困難なのは安全に接近することだという。宇宙船のドッキングなどはレーザー反射などの装置を使用するのだが、デブリにはそんなものがないので安全に接近するのが難しいのだという。
そこで接近技術の開発が民間企業で進んでいるが、それを手がけているのが先ほどのアストロスケールらしい。衛星に3種のセンサーを搭載しているという。まず可視光カメラでデブリの位置を捕らえ、接近すると赤外線カメラで安定してデブリを捕らえ、最後はレーザーセンサーで高い精度で位置を把握してドッキングするのだという。また接近の時に機体制御を失ってもデブリと衝突しないように、螺旋軌道で接近するのだという。
デブリの影響は確かに洒落にならない状況になってきているようである。ちょうどこのデブリを回収する仕事を行っている連中を主人公にしたアニメが、現在NHKで放送されている「プラネテス」です。確かこの作品の中に、意図的に宇宙空間に大量のデブリを撒き散らすことで人類の宇宙進出を不可能にすることを目論むテロリストの陰謀なども登場します。確かにそういうアホなことを考える狂信者が出てくる余地もある(何しろ人間よりもクジラの方を上に置くおかしな連中まで世界には存在するんだから)。
とりあえず大きなデブリの回収から取り組むとのことだが、1つ気になったのは小さなデブリだったらそのまま大気圏に突き落とせば処分できるが、今回登場した数メートル級のデブリは最終的にどう処分するんだろうかというところ。大気圏に突き落としても燃え尽きずにどこかに落下して大惨事を起こしかねないし、地上に安全に着陸させようとしたらとんでもないコストが必要だし、結局はなるべく害の少なそうな軌道にまで引っ張っていって放置ってところになるんだろうか?
忙しい方のための今回の要点
・地球を取り巻く軌道に存在する宇宙のゴミ、スペースデブリが宇宙開発における深刻な問題になってきている。
・これらのデブリは運用停止した人工衛星や、打ち上げ時の部品など様々なものがあるが、地球の軌道上を高速で移動しているため、人工衛星などと衝突するとそれを破壊してさらに多数のデブリを撒き散らすことになりかねない。
・宇宙には1ミリ以上のゴミは1億以上存在するという。国際宇宙ステーションも微少デブリの衝突による穴が多数あるという。
・このデブリを回収するシステムが世界中で開発されつつある。
・日本でもデブリ回収をビジネスにするための実証研究が実施されている。鍵となるのは安全に衛星に接近してドッキングする技術で、複数のセンサーを利用したシステムの開発が進んでいる。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・宇宙開発当初にはこんなゴミの問題なんて考えもしていなかったから、非常に雑なものでした。さらには宇宙空間だからよかろうと原子力電池とかの物騒なものも使用していたりで、運用期間が終えた後に問題になるものも多数。結局は後始末のことは考えてなかったということで、これは原子力発電所などにも通じます。
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