教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/5 BSプレミアム ヒューマニエンス「"ホルモン"生命をあやつる超然パワー」

身体に大きな影響力を持つホルモン

 ホルモンと言えばホルモン焼きってのが一般のイメージのようだが、実際のホルモンとは体内をコントロールする重要物質である。ちなみに焼いて食べるホルモンは捨てるという意味の「放るもん」から来ているなど諸説あるが、とにかく今回のホルモンとは無関係である。

 ホルモンとは様々な臓器から出ていて、その働きも様々である。部位によって働きが変わったり、1つのホルモンが他のホルモンに影響を与えたりなどかなり複雑であると言う。250種ぐらいはあるのではという。

 ホルモンが異常を来すと全身に影響が及ぶ。ある女性はむくみやなど身体の不調から集中力の欠如などのトラブルに遭遇したのだが、診断の結果甲状腺ホルモン低下症が原因と判明したという。甲状腺ホルモンは全身の細胞の代謝を上げるので、それが低下することで細胞の代謝が下がってむくみが出、さらに脳の機能も低下したのだという。甲状腺ホルモンの低下はよくうつ病や認知症と誤診されるので注意だという。現在は錠剤服用で半年ほどで症状が改善したという。

 ホルモンの減少での不調と言えば女性ホルモンの減少による更年期障害が有名だが、さまざまある。ちなみに今回は甲状腺ホルモンが減少する例だったが、逆に甲状腺が異常に昂進してホルモンが過剰になる事例がいわゆるバセドー病である。代謝が活発になりすぎることで動悸や息切れなど異様な疲れが出て、放置すると心不全などを起こすこともある。ホルモンは体内のバランスを保つための重要な物質である。

 

 

身体を変化させるホルモン

 さらにホルモンは身体をも変化させる。オタマジャクシがカエルに変態するのも甲状腺ホルモンの働きによると言う。ウーパールーパーに甲状腺ホルモンを与えるとエラが小さくなり、イモリのような姿になって地上で生活できるようになる。これはホルモンが遺伝子に働きかけるからだという。ウーパールーパーの祖先はそもそも陸上で生活していたものが水中に戻ったのだが、甲状腺ホルモンが残された陸上生活の遺伝子を発現させて陸上生活系に変態させるのだという。

 ホルモンが働くにはそれを受け入れる受容体があるのだが、これを利用してある餌を与えることでチョウザメを全部メスに変えるということに成功した研究がある。使用した餌は大豆。大豆イソフラボンが女性ホルモンに似ていることから、これを孵化した直後のチョウザメに与えたところ、すべてがメスになったのだという・・・とのことだが、これって考えたら滅茶苦茶恐いのだが。これってイソフラボンって環境ホルモンってことじゃないのかって思うのだが。で、次に番組では環境ホルモンの話になるのだが、これはまさしくホルモン受容体の勘違いである。先の研究はこれを利用したということになるのだが、では環境中に大量のイソフラボンを流し込めば、魚類の多くはメス化して絶滅の危険が・・・なんてことにまで私の妄想は及ぶ。

 

 

進化の原動力となり、新たな種を生み出す

 次はホルモンが生命進化の原動力だったという話。人類の遠い祖先が陸上に進出した時、身体の乾燥を防ぐために働いた重要なホルモンがバソプレシンであるという。これは脳の下垂体で分泌され、腎臓で働いているという。肺魚においてはバソプレシンと同じ働きをするバソトシンというホルモンを持っており、これによって乾期になって水が減ると泥に潜って生き続けるという。この時に体内に水分を保つのにバソトシンが働いている。さらに半年経つと粘液の膜に包まれるようになり、このまま半年間冬眠のようにして過ごすのだという。そして水が戻ってくると活動を再開する。ホルモンは状況によって機能が変化し、それが遺伝子にも影響を与えるのだという。

 種が違うと同じホルモンが異なる働きをする例も多いという。特徴的なのがプロラクチンで、魚類では海水から淡水に移動する時の浸透圧の調整に使っており、体内の塩分が失われるのを防いでいる。両生類では皮膚の粘膜を分泌するのに使用しており、鳥類では脂肪の蓄積に使用、ヒトでは乳腺の発達に影響しており、母性行動にも結びついているとされている。

 さらにはホルモンが新たなる種を生み出すという話がある。外分泌ホルモンであるフェロモンがこれに影響しているという。酵母が交配する時にはフェロモンが重要であり、M型がフェロモンを分泌してP型がこれを受け取ることで交配が起こるという。ここでフェロモンが異なる新M型を遺伝子操作で登場させるとP型は一切ホルモンを受け取らないようになる。ここで受容体を操作した新P型を登場させるとこの組み合わせだけが交配したという。このような変化が新種の誕生なのではないかという。

 

 

 以上、ホルモンについて。生命活動にかなり影響するものだということは知ってはいたが、思いの外支配力が強いことに驚いた。ウーパールーパーが陸上進化するというのにはさすがに驚いた。ヤマザキマリ氏が「これで人間にエラを付けられないか」と言っていたのに対し、織田裕二氏は「付けられるなら翼が良い」と言ってましたが、人間の進化考えた時に、エラを持っていた御先祖はいましたが、翼持っていた御先祖はいませんので、残念。

 ただ大豆イソフラボンの話はかなり気になった。どの程度の影響があるものなのか? 実際にチョウザメをメス化させられるぐらいの力があるなら、これは環境ホルモン扱いするべきな気がするので、健康食品とみられている大豆が、場合によっては危険と言うことにさえなりかねない。幼児期に男児に大量に大豆を与えると、将来女性化する? まあ人間とチョウザメとは違うだろうが、今回の内容みていたら、当然こういう疑問は浮かぶ。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ホルモンは各種臓器から分泌されて、様々な働きをしている。働きの分からないものもあり、その種類は250ぐらいはあると考えられる。
・ホルモンのバランスが崩れると身体全体が異常を来す。例えば甲状腺ホルモンが減少すると、身体がむくみやすくなって集中力も無くなるなどの症状が出る。
・ホルモンは身体をも変化させる。オタマジャクシがカエルに変態するのは甲状腺ホルモンの働き。ウーパールーパーに甲状腺ホルモンを与えると、陸上進化する。かつて祖先が陸上で生活していた時の遺伝子を活性化したと考えられる。
・また大豆イソフラボンを使用してチョウザメをメス化させた研究がある。ホルモン受容体にイソフラボンが結合することで女性ホルモンとして働いている。このようなホルモンの撹乱は環境ホルモンでも言われている。
・ホルモンが生命進化の原動力ともなった。バソプレシンというホルモンは、肺魚が身体の水分を保つために働き、これによって陸上進化が可能となった。
・またホルモンは生物によって働きが異なる場合がある。プロラクチンは魚では浸透圧の調整、両生類では皮膚の粘膜分泌、鳥類では脂肪蓄積、ヒトでは乳腺の発達及び母性行動に働いている。
・外分泌ホルモンであるフェロモンが新たな種を生み出すことに影響しているのではと言う報告もある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあとにかく謎の多いホルモンですが「人間にはフェロモンはない」とハッキリ明言してましたね。昔からフェロモンで異性を思いのままにって妄想は多いですからね。だけど世間でフェロモンって言われているのって、実際は単に美形だとか、金持ちだとか言うだけの話ですから。

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