教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

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7/19 BSプレミアム ヒューマニエンス「"言葉"それがヒトの思考を生んだ」

言葉が文明を生んだ

 今回のテーマは人間が駆使する言葉。コミュニケーションのツールであるが、一方で脳内で言葉で考えることによって論理的に高度な思考を出来るようなったという側面があるのも事実である。

 言葉こそが文明の生みの親であるという話がある。7万年前の地層から鏃の石器が見つかったことから、人類は7万年前には既に言語を獲得していたと推測できるという。と言うのは、弓矢というのは鏃を矢に接着し、さらにそこに矢羽根を接着するなど複雑な構造をしており、その複雑な構造は人間の言語の階層構造に匹敵するという。言葉の階層構造を既に有していたことから、このような弓矢を作るなどの複雑なことが出来るようになったのだという。

 動物の中で声でコミュニケーションするのは鳥である。例えばジュウシマツの雄は求愛のために歌う。しかしこれは求愛だけであり、人間の言葉のような複雑な内容を含んでいない。さらに他に言葉を使用する鳥もいるがそれはかなり限定的である。と、ここで以前にサイエンスZEROに登場した京都大学の鈴木俊貴助教の研究が登場するのだが、シジュウカラの言語はいくつかの意味を持った鳴き声を合わせてコミュニケーションを行っている。この時に組み合わせの順序が非常に重要なのだという。

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言語感覚は先天的なものがある

 また言語は後天的に身に付けるものと思われているが、どうも先天的な感覚もあるのではないかという研究もある。大人に対して尖った図形とふにゃふにゃした丸い図形を見せて名前を選ばせると、キキという名は尖った方に、ブーバーという名は丸い方につけるという。これは大体の大人の普通の感覚である。そこで3才の子どもにウサギ着ぐるみがノッシノッシと歩く映像を見せて、この動きをチモっているとノスノスしているの二つの言葉で説明、その後に別の映像を見せてどちらがチモっているかを聞くというテストを行ったらしい。するとチモっているだと正答率が50%に対し、ノスノスしているだと80%以上に跳ね上がったという。つまりは3才の子どもでも大人と同様にノスノスしているの方がピンとくるのだという。次にまだ言語を習得していないと思われる11ヶ月の子どもにまるまるした図形を見せて「もま」という音を聞かせた時と、トゲトゲした図形に「もま」という音を聞かせた時とでは脳の反応が違ったという。まるまるした図形と「もま」だと脳が活発に動いたのに、トゲトゲした図形の時はほとんど反応のがなかったという。つまり言語獲得以前から形態と音のリンクがあるのではとしている。

 なお尖った図形に「キキ」がピッタリくるのは、カ行の発音の際にはかなり口元が緊張する必要があるから、そこからのイメージではという説明をゲストが行っていたが、確かにそうだと思う。マ行が柔らかいイメージなのもまさにそれ。さらに言えば巨大ロボットが昔からガ行ダ行なのも、やはりこれらの音は力強く音を発することからだろう。「ガンダム」と「カンタム」では強さが段違いに感じられる。またヒトが言語を獲得する能力については、元々は歌の長い音を切り分けて言葉が登場したのではとしている。

 

 

言葉の働きと脳の関係

 さらに言葉は時代と共に変化するものだが、若者語などは自分達の仲間とそれ以外を分けるという意味もあるのではという。このように言語はコミュニケーション道具としてだけでなく、仲間とそれ以外を分けるという意味もあるという。小さい部族が多い国などでは実際に多数の言語が存在するという。

 また人間が言葉を操るために重要な脳の部位はブローカ野だと言われている。ブローカの研究で失語症の患者はこの部位に障害があることが分かったからだという。しかし単語を発する時の脳の働きは不明だという。脳磁計で脳の活動を観察したところ、単語ごとに脳の働きが異なっているという。言葉を発する直前の脳の働きを比較したところ、単語によって固有のパターンがあることが分かったという。

 

 

 以上、ヒトと言葉の関わりについて。言葉は思考の発達と不可分というが、それは人間は脳内で言葉で考えるからである。だから母国語の能力がしっかりしていないと、しっかりとした考えの出来ないバカになってしまう。実際に私の経験でもTwitterなどで「こいつかなり馬鹿だな」と感じる輩は、まず日本語自体が怪しくて文章がまともでないというのが常である。実際に衝動的な犯罪を犯すような犯人は、語彙が極端に少ないという特徴があり、自分の気持ちを現すのに「むかつく」とかぐらいしか言葉を知らないので、単純に犯行などに至っている場合が多い。

 つまりは論理的な思考をするためには論理的な言葉を駆使できる必要があるし、ヒトの感情に共感したり推測するには感情を表現するボキャブラリーが豊かでないと無理と言うことでもある。まあこの辺りが私が以前から「英語教育を重視するのは結構だが、その前に日本語が確立していることが最重要である」と言い続けている理由なんだが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・人間の思考は言葉によって深まったとしている。
・7万年前の鏃と思われる石器が見つかったが、弓矢を製作するにはかなり複雑な工程を経る必要があり、その構造は言葉の階層構造と類似する。そのことから既にこの頃から言葉は存在したと推測されている。
・ヒト以外にも鳥などは言葉のようなものを使用することが分かってきたが、ヒトのように複雑で多様な言葉を駆使する動物はいない。
・また言葉には先天的な感覚があるのではという。例えばカ行は尖ったイメージで、マ行は丸いイメージなど、擬音的な表現はだ言語を習得してない子どもでも大人の感覚と同じような感覚を示す。
・言葉はコミュニケーションのツールだけでなく、逆に仲間と外部とを隔てる役割も果たしている。若者語など内輪の特有の言葉はまさにそういう事例である。
・言葉を操るには脳のブローカ野が重要な役割を果たすことは以前から知られていたが、脳磁計の観測によると単語ごとに脳の働きが異なって固有のパターンを持っていることが分かった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・ヒトは脳内で思考する時に明らかに言語で考えているので、言語の能力が低いと言うことはそのまま考えが浅いということに結びつきます。ですから多国語を中途半端に詰め込まれて脳内での母国語がハッキリしなかったら、知的衰退につながりかねないという指摘があります。ですから多国語教育をする時はそれが非常に重要です。
・もっともその言語は日本人なら日本語に限られるというわけではないです。ただし脳内言語が英語になると、精神構造も日本人から離れたものになりがちです。言語=思考ですので、ですから征服者は被征服者に自身の言語を強制したりもするのですが。

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