教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

7/21 BSプレミアム ダークサイドミステリー「徹底検証!地震の都市伝説~人工地震・予言・自然異常~」

都市伝説「人工地震」の正体

 今回のテーマは大地震が起こる度に「地震兵器が使用された」という陰謀論が飛び出す地震に関する都市伝説。例によってこの番組らしく完膚なきまでにやっつけてます。

 まず最初に登場するのは人工地震について。今回の福島県沖地震では初期微動が感じられずに、いきなりドッカンとデカイ揺れが来たということから、これは地下核兵器などを用いた人工地震だという噂がネットに流れたそうな。さらに人工地震の犯人として疑われているのが、海底の地質探査を行っている調査船「ちきゅう」だそうな。また実際に昔に人工地震が研究されていたというような記事がその信憑性を増すのに貢献している。

 しかし実際は初期微動が感じられなかったというのは、それだけ震源が近かったというだけの話。実際に地震波を精査してみると、初期微動はないのではなく主要動と被ってしまっているだけ。また探査船ちきゅうが掘る穴は直径20センチほどなので、大地震を起こすに十分な核兵器を埋めるのは不可能。また今まで実際に掘った深さは3キロ程度で、地震の震源である10キロ以上には到底届かない。さらに過去に報道された人工地震は単に爆薬で液状化現象を調べたり地質を調べるための地震で、大規模震災とはエネルギーのスケールが遥かに違いすぎる。実際に人の力で地震を起こそうとしたら、大量の核兵器を使用する必要があり、少なくとも日本では到底不可能である。

 

 

インチキだらけの地震予言

 次は地震予言。大地震が起こる度に「実は私は事前に予言していた」という輩が出るのだが、そのからくりについて。その手口は、まずは「極めてあやふやな言い方をする」というもの。つまりどうでも解釈できるような言い方にして後で無理矢理こじつけるという、ノストラダムスの大予言パターンである。そりゃそうだ。例えば「近いうちに西の方角でよからぬことが起こる」とか言っとけば、その内容は西の町で交通事故が発生するのか、西の国で火山が爆発するのか、西隣の家で激しい夫婦げんかが起こるのか、どうとでもこじつけることが可能である。

 後は「予言を多数する」。つまりは毎日「明日大地震が発生する」と予言を出しておけば、いつかは当たるというもの。当たった予言だけを声高にアピールしておけば、後のはずれた予言は勝手に忘れられるという仕掛け。また日付などをわざとらしくやたらにアピールするものは大抵仕掛けがあるという。例えばSNSなどの場合は、毎日予言を入れて非公開で置いておき、後で当たった予言だけ残して削除したら「予言が当たった」に出来ると言う。予言をブラジルの日本大使館に送って地震の日付前の送付伝票を公開したものもいたらしいが、その伝票がこの予言のものという証拠はなく、地震が起こってからあらかじめ入手していた伝票と発表したというオチ。

 

 

ここで少し個人的体験を

 と言うわけで地震予言なんてのはインチキだらけということ・・・なんだが、実は私自身が地震予知しちゃってるんですよね。阪神大震災をその一日前に。当時の私は大阪に住んでいて、部屋が狭いものだからベッドの横にある大きな本棚が「もし地震が起こってこれが倒れてきたら下敷きになって大怪我するな」と気にはなっていたのだが、何年も放置していたのである。それが地震の前日に親戚の婚約報告で神戸に行って大阪に帰ってくると、かなり疲れていてすぐに部屋に戻りたいのに、なぜか「今日中にあの本箱の転倒対策をする必要がある」という思いに強烈に駆られ、疲れた身体を引きずりながら東急ハンズに立ち寄って転倒防止のための角材を購入して本箱にかました。するとその夜に阪神大震災がやって来て私の部屋も大きく揺れ、転倒対策をしていなかった小型の本箱は見事に転倒したのだが、大型の本棚は転倒対策をしていたおかげで倒れず、私は怪我をせずに済んだという事実がある。

 まあまさに証拠も何もない「言ってるだけ」なので、これを信じるか信じないかは自由。なお私自身の結論は「まあ日頃から気になっていたので単なる偶然」という論理的なものだが、それでも感覚的には奇妙なものを抱いているのは事実。霊感や預言の類いを全く信じていない私なのだが、その割には「奇妙な嫌な予感がして行動を変えたら、結果としては助かった」という事例が数件あるのである。もっともこれにしても科学的に証明しようとしたら、結果的に空振りだった件数などとの統計をとらないと何とも言えないが。

 

 

地震予知の現状について

 で、最後の話はそれとも近しい点のある話だが、地震予知が出来るかというもの。よくナマズが騒ぐとか、動物が異常行動するとか、地震の前に地震雲が出るとかいろいろな説がある。こういうのは「宏観異常現象」といって地震の前兆となる不可解な自然現象だという。実際に中国ではこれらの現象に注目して住民を事前避難させたおかげで大地震での被害を防ぐことが出来たという事例があって一気に注目されたとのこと。

 しかしこれについては科学的に統計をとって調査したところ、圧倒的に空振りが多く地震を予知したとは言えないという結論になった。つまりは単になまずが騒いだだけで何も起こらなかったら、そんなことは何の記憶にも残らないが、その後にもし大地震が発生したら「そう言えばその前になまずが騒いでいたな」と記憶に残って強引に結びつけられるという作用であるということである。

 なおもっと科学的な地震予知としては、綿密な観測によって東海地震の前兆現象を捕らえようという研究はなされており、巨大地震の前には地殻変動や地下水の異変などが起こると言われたのだが、伊豆半島東方沖地震ではこれらの現象は全くなくて空振りに終わったという。そこで90年代には地震のメカニズム解明から予知につなげようという流れに変わったという。綿密な観測網が敷かれている東海地方では前兆すべりが予知の切り札になるのではと期待されたが、東日本大震災ではこれは全く観測できず、目下のところは「東海地震の予知は出来ない」という結論にならざるを得なかったという。

 

 以上、地震予知から予言など様々な事例について。なお予言については、基本的に本当に事前に予言をした例などなく、後から何だかんだとこじつけものばかりである。そもそも自分は予言を出来るなどと言い出す奴は、詐欺師かカルトなので近寄らない方が賢明である。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・地震が起こる度に地震兵器などの都市伝説がネットに飛び交うが、現状では巨大地震を人工的に起こすには膨大な量の核兵器を地下で爆発させるなどの必要があり、技術的には不可能である。
・また多くの地震予言が出るが、それらは「あいまいな言葉でどうにでも解釈できるようしてある」とか「同じような予言を多くしていてたまたま当たった」とか「日付などにトリックがある」などでインチキばかりである。
・動物が地震の前に異常行動するなども言われたことがあるが、調査の結果は統計的に有意な結果は得られなかった。
・科学的な地震予知の研究もなされているが、目下のところは「残念ながら地震の予知は不可能」というのが結論である。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・実は私は学生時分に一渡りの占いの研究をしたことがあるので、占い師や偽予言者の手口や話法なんてのは知ってたりするんですよね。そういう意味ではインチキ予言者の資質ありか(笑)。私が学生の頃は統一教会とかのカルトが無垢な学生を生け贄にしようと牙を剥いていたし、こういうのに対抗する知識は自衛のために不可欠でした。