教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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8/7 サイエンスZERO「"毒"変じて薬となる 生物毒のパワーに迫る」

進化の過程で獲得した毒

 毒蛇やサソリなどのように、自然界には自衛のためや狩りのために毒を所有している危険な生物は多数ある。今回はそのような生物毒を薬に有効活用しようという話。

 生物毒には我々が作り出した毒物よりも強力なものがある。例えば有名な青酸カリは致死量0.2グラムとかなり強力なものだが、フグ毒は実にその1000倍の毒性があると言う。生物によって毒の強弱はあるが、有毒な動物は地球上に20万種以上いるという。

 8000万種の生物の標本を持つというロンドン自然史博物館のロナルド・ジェンナー主任研究員によると、進化の過程において有毒生物がどこで現れたかを見ると100回以上のタイミングが存在するという。そしてここからおよそ20万種にまで数を増やしたのだという。毒を使用すると、動きの遅い生き物でも俊敏な生き物を餌にすることが出来るなど、毒という化学兵器が生存にとって有利であったからだという。

 

 

フグの毒は幼魚を守るためだった

 毒を攻撃に使う種と防衛に使う種があるという。攻撃に使う種では牙や刺などの毒を注入するための器官を持っているが、防衛に使う種では毒を持つカエルのように体表に毒を分泌したりする。

 ただ謎だったのはフグの毒。フグの毒は内臓にあるのは有名である。しかし内臓に毒があっても攻撃には使えないし、守備に使うにも奇妙である。この謎が最近にようやく解明されたという。フグはそもそも自分で毒を作ることは出来ず、有毒のオオツノヒラムシなどを食べて体内に毒を蓄積する。他の生物だとこの時にタンパク質に毒が作用して死んでしまうのだが、フグのタンパク質は毒であるテトロドトキシンが作用しにくい構造になっているのだという。さらに産卵期直前の雌が積極的に毒を摂取することが分かったという。この毒は幼魚の体表に分布して、幼魚を守る役を果たすのだという。つまりはフグは子供を守るために毒を蓄積しているのだという。

 毒液の中には多くの毒素が含まれており、ハブの毒には100種もの毒素が含まれているという。ハブのゲノム解析の結果、哺乳類の遺伝子が4倍に拡大した時に、ハブは唾液腺の遺伝子が変化して毒腺になって、唾液腺が持つペプチドやタンパク質を合成する能力がそのまま毒素を作り出す能力になったのだという。ハブの場合はその上に毒腺の遺伝子が増殖することで作り出せる毒素の種類が増えたのだという。その進化の速度は加速進化といってかなり素早く、獲物が毒素に対して抵抗性を持つ前に、新たな毒素を作り出せるようになっているという。

 

 

毒素から薬を作る

 毒素は特定のターゲットに働くようになっているので、これをうまく利用すれば薬に使用できるとして研究が進んでいる。フランスCEAジョリオ研究所のニコラ・ジル博士は、アフリカのグリーンマンバという猛毒を持つ蛇の毒を使って、多発性嚢胞腎の特効薬を開発しようとしている。通常は腎臓内の受容体にホルモンが引っ付くと情報伝達物質が分泌されて尿の濃縮が行われる。しかし多発性嚢胞腎の患者では、情報伝達物質が細胞分裂を起こして嚢胞を生じてしまうのだという。彼が発見した毒素は、この受容体に結合することで情報伝達物質の分泌を抑えるのだという。マウスの実験では嚢胞の発生が30%減少し、腎機能が良好であることが確認されたという。

 さらに毒素の作用がターゲットの種ごとに異なるという特徴を活かした研究も行われている。京都大学の宮下政弘准教授はサソリの毒を農業に使用する研究を行っている。昆虫を毒で仕留めるサソリは、昆虫の筋肉や神経に作用する毒素を100種類以上有している。それぞれの毒素がターゲットにする昆虫が異なるので、それを解明して環境負荷の少ない農薬を開発する(ターゲット生物以外に作用しない農薬を作る)ということを目指している。

 

 

 昔から毒は使いようで薬になるといわれているが、まさにその研究である。生物の毒はターゲットにしている化学反応がハッキリしており、特定の体内の作用を撹乱することで代謝を乱して相手を仕留めるわけであるが、その働きが解明できればその特定の代謝をコントロール出来るので、代謝機能の暴走による病気を治療することが出来るというわけである。

 それにしてもハブ毒の研究者が、あっさりとハブを捕まえて毒を絞り出していたが、あれも下手をしたら命がけなんだが、ハブは捕まえ方にコツがあると聞いたことはある。だからそれを知っている沖縄の子供なんかはハブを捕まえては小遣い稼ぎしていたなんて話も聞いたことが。なおハブの恐ろしさは攻撃方向が広いこと(コブラなんかはほとんど前しか見えていないという)だが、ジャンプはしないので基本的には体長よりも離れた位置にいたら攻撃してこないと聞いたことがある(多分沖縄のハブの施設を見学した時だ)。

 なお毒を作るということは生物にとっては身体的負担が大きいものなので、毒を使う必要がない強力な生物は毒を有しておらず、弱い生物の武器だと言っていたが、確かにそうなんだろう。確かに弱い三流国ほど変に兵器所有に力を入れたりするが、それに近いものがあるか。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・地球上には毒を持つ生物が20万種以上いる。
・進化の歴史を見ると、有毒生物の登場は100回以上のタイミングがあり、非常に頻度が高いことが分かる。それだけ毒を持つことは生物の生存に有利であることを示している。
・フグはなぜ毒を持つかは謎だったが、フグの毒の量を調べたところ、産卵前の雌が特に毒の蓄積を増やすことが分かった。この毒は幼魚の体表に分布して、幼魚を守るために働くことが分かった。
・ハブは100種以上の毒素を合成できるが、ゲノム解析の結果、唾液腺の遺伝子が毒腺の遺伝子に変化し、さらに加速進化で毒素の種類を増やしたことが分かった。
・生物毒は特定の対象にのみ作用するので、その性質を使った副作用の少ない薬の開発が研究されている。例えば蛇の毒素から多発性嚢胞腎の特効薬の研究が進んでいる。
・またターゲット生物が限定されることを活かして、環境負荷の少ない農薬の開発なども研究されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・弱い生き物が補食や自衛のために毒を装備したという話があったが、そう言えば人間でも弱い奴ほど毒を持っていたりするな。

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