教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/14 サイエンスZERO「生き物のからだが溶ける!?"海洋酸性化"の脅威」

海洋生態系に深刻な影響与える海洋酸性化

 今、世界の海で酸性化が問題となってきている。このまま酸性化すると多くの海洋生物が絶滅しかねないという。そういう海洋酸性化について解説する。なお同テーマで数週間前にNHKスペシャルが放送されており、私のブログでも取り上げるべきだなと思いながらなかなか手が回らなかったのだが、今回この番組に素材の有効活用で流用されたようである。

 まず海洋酸性化が進めば海がどのようになるか。そのモデルとも言える海域が伊豆諸島の式根島にある。ここはある場所だけが海底から噴き出す二酸化炭素のために極端に酸性化している。この海域はpH7.8であり、このまま行けば現在はpH8.1の世界の海洋が今世紀末にはこのレベルになると言われている。pH8.1の海ではサンゴ礁が多様な生き物の住処となっているが、pH7.8の海では珊瑚は存在せず、生物の姿も極端に減る。また生物を採取したところ種が30%も減少して単調なものになっていると言う。

 

 

北極海で進む海洋酸性化の現実

 海洋酸性化の原因は二酸化炭素の増加である。二酸化炭素が海洋に溶け込むことでpHが酸性に傾くことになる。北極海での調査では採取したプランクトン(翼足類のミジンウキマイマイ)を調査したところ、その殻が溶解して薄くなったり穴が開いてしまっていることが確認された。そこで北極海で最も酸性化が進んだpH7.5の海域の海水を採取して翼足類を入れたところ、4日目で殻に穴が開き、5日目に死んでしまった。翼足類は海中から炭酸イオンとカルシウムイオンを吸収して炭酸カルシウムの殻を作るが、水素イオンが増えすぎるとこの働きが阻害されるのである。そしてさらに酸性化が進むと、殻が溶け出すことになる。北極海の翼足類は1立方メートル中に2004年には23.9いたものが、2019年には4.3にまで減少していることも確認されている。生態系を支える小さな生き物が絶滅すると生態系が壊滅することになりかねない。

 北極海が酸性化しやすいのは水温が低いせいで二酸化炭素が溶けやすいこと、さらに川などから流れ込む水は酸性であることが多いためだという。海洋酸性化の進行をアメリカ海洋大気庁がシミュレーションしたところ、2022年にはpH8.1の海洋が2050年には大部分でpH7.9になり、2080年にはpH7.8、2100年には7.7にまでなってしまうと予測している。

 

 

海洋酸性化の水産資源への影響と対策

 既に水産物に被害が出ている例がある。アメリカ西海岸では養殖の牡蠣の幼生が大量に死んでしまった。海洋酸性化で殻が溶けて成長が出来ていないという。日本でも2年前から海の調査が行われているが、1年の内に極端にpHが低下する時期があり、その時にはアメリカで牡蠣の死滅が起こった7.5を下回っていることが判明した。大雨で大量の淡水が流れ込んだの原因だと思われる。幸いにして現在のところは牡蠣の幼生が成長する時期とズレているために今まで被害はなかったが要注意である。

 また比較的影響を受けにくいと言われていた魚にも影響が現れている。シロギスを使った試験では貧酸素の条件になった時、pHが低下すると孵化率が極端に低下することが分かったという。遺伝子の解析によると、酸性化に貧酸素が加わると、ATPが働くための遺伝子の働きが低下してエネルギー不足になることが分かったという。2100年になると漁獲量が20%減少すると推算されている。

 抜本解決には二酸化炭素の削減が必要である。これには海洋生物が取り込むカーボン、ブルーカーボンを生かそうという考えがある。アマモを育てることで二酸化炭素を吸収させようというプロジェクトがある。アマモは成長が早く大量の二酸化炭素を吸収する。枯れるとそれは泥となって海底に蓄積、その状態で5000年以上炭素を貯蔵した例もあるという。ベトナムではマングローブの植林が進められている。マングローブは陸の植物よりも炭素を蓄積する能力が高いという。炭素を蓄えた葉が水中に堆積することで炭素を蓄積するのだという。その能力は40倍の面積の熱帯雨林に匹敵するという。フィリピンでは沖合に海藻の森を作ろうというプロジェクトも行われている。これらの試みで年間24億トンの二酸化炭素が削減できるという。これに対して現在年間187億トンの二酸化炭素が増加しているので、やはり二酸化炭素を減らすには現在目標としている2050年で二酸化炭素排出をゼロにすることの実現が重要だという。

 

 

 以上、先日のNHKスペシャルの内容を効率的にまとめてくれていたので、あの番組の解説をする必要がなくなった(笑)。内容のエッセンスはまさに今回のこの番組の放送の通りです。で、私はその番組をさらに2倍速で視聴しているので、1時間近くのNHKスペシャルの内容を15分ほどで再確認したことになる。実に効率的である(笑)。

 さて海洋酸性化だが、二酸化炭素の増加による地球温暖化なんて嘘だと言っている連中の大きな論拠の1つは海洋による二酸化炭素の吸収だったのだが、今回それ自体が深刻な問題を引き起こすことが判明したわけであり、最早科学に背を背けてオカルトの世界に逃避することは許されないと言うことである。各国が力を合わせて科学を直視した上で対策を練る必要がある。だからこんな時には科学に目を背けて現状の利権に固執するような政治家(その最大の1人がトランプだが)は排除する必要もある。

 アマモが登場していたが、アマモは二酸化炭素吸収だけでなく、水質浄化の点でも注目されている植物である。河口などにアマモ場を作ることで水中のリンや窒素などを吸収して赤潮の発生を抑えるとされている。そのことから現在、試験的にアマモを栽培している地域などもあるようで、今後もそういう試みを拡大していくべきだろう。またマングローブ林は輸出用の海老の養殖のために大規模に伐採されたなどということが各地で起こっているので、それに対する対策も必要である。熱帯雨林の伐採が注目されているが、実はこのマングローブ林の伐採も由々しき問題である。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・二酸化炭素の増加による海洋の酸性化が進行している。
・現在の海洋の平均pHは8.1だが、これがpH7.8に低下した海域では海洋生物が極端に減少することが確認されている。
・北極海の調査では翼足類のプランクトンの殻が溶けるという現象が確認された。北極海は酸性化の進行がもっとも進んでいる海域だが、このまま行けば全世界的に今世紀末にはpH7.7まで酸性化が進むという試算がある。
・既にアメリカ西海岸では牡蠣の幼生が酸性化のために大量に死滅するという被害が発生している。また魚でも酸性化と貧酸素が重なると孵化率が急激に低下するという報告がなされている。
・海洋が吸収する二酸化炭素・ブルーカーボンを増加させるために、アマモ場を作ったり、マングローブを植林するなどが行われている。しかしこのままの二酸化炭素の排出を続けると焼け石に水であり、二酸化炭素の排出削減は不可欠である。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・難しいのはどうやって二酸化炭素の排出を削減するかです。原子力は削減につながらないだけでなく、放射性廃棄物というさらに処理に困るものを排出するので選択肢とはなり得ず、自然エネルギーもまだまだ安定性に欠けるところがある。この面での技術開発とライフスタイルの変更も必要でしょう。

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