教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

9/11 サイエンスZERO「免疫でがんに挑め 最新報告!CAR-T細胞療法」

新しいがん治療法のCAR-T細胞療法

 日本人の死因の第一位であるがん。その治療法は手術、放射線、抗がん剤などがあるが、現在注目されている新しい治療法が免疫療法。免疫を効果的に使ってがんを制圧するCAR-T細胞療法が注目されている。免疫の中心をなすT細胞をパワーアップさせることでがんを攻撃するのだという。

 CAR-T細胞療法は血液のガンについて劇的な効果を上げている。難治性の血液のガンにかかって治療法がなくて余命1ヶ月と言われた患者が寛解に到り、10年経っても再発も転移もなく健康に暮らしているという劇的な事例もある。現在この治療法は日本でも2019年から血液ガンの一部に適用が承認されているという。

 

 

キラーT細胞の能力を上げてがんを攻撃する

 CAR-T細胞とは患者のT細胞を血液から取り出して、遺伝子を組み換えることによって生成するという。ただし副作用も結構強いという。薬価も高い(3千万円)が保険適用になるので上限はあるという(保険制度のありがたみである)。血液ガンの患者の7~9割で効果を示しているという。

 T細胞は表面のアンテナに抗原が嵌まると病原体を認識し、感染した細胞へ攻撃を行うのだという。しかしT細胞のアンテナは100万もあるので、がんと戦えるのはごく一部だという。だからT細胞全体を活性化しても効果がないので、いかにがんを攻撃できるT細胞を活性化するかが課題だったという。転機となったのは本庶先生の免疫チェックポイント阻害剤の登場で、これで免疫療法の有効性が証明されたので、次にCARと呼ばれるがん用の新しいアンテナを装着したCAR-T細胞の登場となったという。

 遺伝子操作を行うことでCARを取り付けて、培養して増やした後に体内に投入するのだという。CARはその先端部でがん細胞を強力に発見し、根元の部分がT細胞を活性化するのだという。しかも再発や転移も予防する効果があることも分かったという。

 

 

固形がんに対応させるための研究

 非常に劇的な効果をしめすCAR-T細胞だが、残念ながら9割以上を占める臓器などに出来る固形がんには効果がないという。固形がんに適用できない理由は、進行した固形がんでは抗原の種類が様々に変異しており、特定の抗原を持つがん細胞だけを攻撃しても効果がないからだという。

 これにどう対処するかの研究も進んでいる。山口大学医学部の玉田耕治教授が開発したPRIME CAR-T細胞は、従来のCAR-T細胞にサイトカインとケモカインを新たに搭載したものだという。サイトカインやケモカインはT細胞を集めたり移動しやすくするための物質である。体内では多くのT細胞がリンパ節に駐屯している。これらのT細胞を固形がんのところに集めることを考えたのだという。するとあらゆるT細胞がそれぞれがん細胞を集団戦で攻撃することでがん組織を消滅させようという考えだという。マウスでの実験では様々ながんを消滅させることが確認され、今後は人での臨床試験を検討中であるという。肺がん、肝臓がん、卵巣がんなどの一部がターゲットだという。同様にT細胞を活性化する様々な方法が世界中で研究されているという。

 

 

 非常に画期的な話が登場したので、将来に希望が持てるような話であるが、実際は一般的な固形がんに対しての適応はまだまだこれからのようである。それでも何やら手がかりが見えたというように思われる。少なくとも、これまで何の打つ手もなかったような患者にとって、可能性が出てくるということは非常に大きいことである。

 ただ免疫療法となると、やはり気になるのは副作用である。実際にこの治療法について副作用による発熱とかは起こるという話も出ていたので、あまりに強い副作用が出ることによって適用が出来ない患者もいるだろう。その辺りの副作用低減の研究も願いたいところである。また現在、様々な免疫に纏わる病気も増加しており、もしかしたらその副作用低減の研究が、これらの免疫疾患に対する治療法に風穴を開ける可能性もなどと妄想するところでもある。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・手術、放射線、抗がん剤に次ぐ、第4の治療法として注目されているのが免疫療法であり、その中でCAR-T細胞療法が特に注目を浴びている。
・CAR-T細胞療法は血液中のT細胞を遺伝子改良してがんへの攻撃力を高めて培養、それを体内に戻すことでがん細胞を攻撃させる療法である。
・他に治療法がなく余命1ヶ月と言われた患者が寛解するなど劇的な効果が上がっており、血液のがんに対しては7~9割の効果があるとされている。
・ただしがんのほとんどを占める臓器などの固形ガンは、抗原のタイプが様々なためにCAR-T細胞の効果があがりにくい。そこでサイトカインを搭載して、多様なT細胞を集めることでがん細胞を集団戦で攻撃する方法が研究開発されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・キラーT細胞のことを知った時に「こいつを強力にすることは出来ないの?」と素人考えに思っていたが、やっぱりそういう方向の研究はずっとあったということですな。もっとも強力にしすぎて暴走されても恐いけど。

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