教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/14 NHK 歴史探偵「桃太郎」

モデルがいた桃太郎の伝説

 何とも唐突な印象を受けるテーマだが、桃太郎には実はモデルがいるとか、地域によってバリエーションがあるとかの話があるので、その辺りの話題。ちなみに桃太郎の鬼が鬼ノ城にいた豪族だとか云々の話は以前ににっぽん!歴史鑑定でも登場している。

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 桃太郎のゆかりの地とされているのが岡山。ここに伝わる桃太郎伝説は、岡山の古代山城である鬼ノ城(100名城)が鬼の住処であり、桃太郎は10キロ南東の盾築遺跡を盾にして弓戦を行い、2本の矢を放って鬼に命中させ、鯉に姿を変えて逃げた鬼を鵜に姿を変えた桃太郎が見事に仕留め、楚々その場所が鯉喰神社になったという。

極めて堅固な古代山城鬼ノ城(2009年撮影)

 なおこの伝説にはモデルがいるという。それは吉備津神社に祀られている吉備津彦命である。要は大和政権から送り込まれた皇子である吉備津彦命がこの地の豪族を征伐したということらしい。家臣には犬・猿・雉に当たる人物もいるという。また桃は古来より邪気を払うとされており、古代大和では大量に栽培されて儀式に使用されていたという。

 ちなみに鬼の住処とされた鬼ノ城だが、近年の発見では7世紀頃に築かれたものと判明している。この城が建造された理由であるが、大和政権が国家プロジェクトとして建造したもので、白村江の戦いでの惨敗での唐からの攻撃を警戒してのものとされている。ただその割には武器などが出土しておらず、実は大和政権が吉備の力を削ぐために巨大な城を建造させたという説も紹介している。実際にこの地の有力者が大和政権に反乱を起こしたという事件もあると言う。

 

 

地域や時代によって様々な特徴や解釈のある桃太郎の物語

 さて昔話としての桃太郎だが、登場したのは室町時代だという。しかし語り継がれるうちに様々なバリエーションが存在するという。で、このバリエーションの研究を行った大家が倉持よつば氏。現在中学生で小学生の時に桃太郎の研究で文部大臣賞を受賞し、現在も研究を続けており2冊の本まで出版したという一流研究者である。

 彼女の研究によると江戸時代の桃太郎の話では、悪さをする鬼を退治に行ったのではなく、桃太郎はそもそも鬼の財宝を奪うことを目的に鬼ヶ島に行ったのだという。また様々なバリエーションがあり、中には桃から生まれたのではなくて、桃を食べて若返ったお婆さんが出産したとか、箱から生まれたとかの話もあるという。どうも各地に伝わる伝承などと融合することでバリエーションが生まれたのだという。

 なお芥川龍之介は、仕事がしたくなかったので平和な鬼たちを殺戮して宝を略奪するという最低の桃太郎を描いているという。芥川がこのような桃太郎を描いたのは、日本の海外侵略に対する反論として描いたのだという。実際に戦争の侵攻と共に桃太郎は戦意高揚に使用されており、それに対する芥川の痛烈な批判である。ちなみに軍によって「桃太郎 海の神兵」という国策宣伝映画が製作されている。この映画の制作目的自体はクソそのものであるが、映画自体は日本アニメ史における秀作とされている。

 

 

 以上、桃太郎についてなんだが、結局番組が何を言いたかったのかが分からん。桃太郎の意外な一面を知らせるという割には浅いし、番組全体を通してのテーマのようなものもサッパリ見えないし。

 まあ目的が中学生歴史研究家の紹介ってことなんなら分からなくもないが。そう言えば以前にガッテンに登場した足の菌構成が蚊の刺されやすさに影響するという画期的研究成果を発表した学生(中学生か、高校生か忘れた)が、今はMITの一流研究者になっているという話を聞いたことがある。彼女もいずれは日本史の研究に大きな影響を与える一流研究者になるかもしれない。ろくに資料も調べずに適当な思いつきを発表する歴史研究家もどきが多いのに対し、彼女の徹底的に資料を調べる姿勢は研究者として実に見事である。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・桃太郎の物語ゆかりの地とされている岡山での桃太郎の物語は、今語られる昔話とはかなり違った内容のものである。
・その物語のモデルは大和政権から送り込まれた皇子の吉備津彦命であり、彼は部下と共にこの地の豪族を征伐したとされている。
・また鬼の本拠とされた鬼ノ城は7世紀に築城された山城で、白村江の戦いでの敗北で唐の侵攻を恐れる大和政権がそれに備えて築城させたとされている。
・ただし内部から武器が見つかっていないことから、実は吉備の力を削ぐために大和政権が築かせたという説もある。
・昔話の桃太郎は地域によって様々なバリエーションがある。
・桃太郎は侵略者であるという観点があり、芥川龍之介は当時の日本の対外侵略に対する反論として、最低の侵略者である桃太郎の物語を描いている。
・戦時下では桃太郎は戦意高揚のための道具としても用いられ、桃太郎を主人公とした国策宣伝アニメ映画「桃太郎 海の神兵」なども製作されている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・「桃太郎 海の神兵」はアニメ史では1つの伝説の映画です。映画の目的自体はクソそのものですが、アニメ作品としてはよくここまで作ったというぐらいよく出来ているとのこと。

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