教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

10/16 サイエンスZERO「極小マシンがあなたを救う!?薬を届けるナノマシン最前線」

抗がん剤を確実にがん細胞に届ける

 薬を使う場合、一番問題となるのはどうやって作用すべき場所に届けるかである。往々にして薬は患部に届く前に他の場所で消費されてしまって、そこで副作用を起こしてしまったりする。それを防ぐために患部に確実に薬を届けるドラッグデリバリーシステムが重要となる。

 がん細胞を狙い撃ちする抗がん剤の開発が進んでいる。ナノ医療イノベーションセンターの片岡一則センター長が40年前から研究を続けているのが、抗がん剤をがん細胞までに確実に届けるナノマシン。元々彼は高分子に抗がん剤をつけてがん細胞まで運ぼうと考えていたという。そこで身体に毒性が低いと考えられるアミノ酸を用いて、そこに抗がん剤をぶら下げた上で、そして先端にはがん細胞に届けるためにがん細胞にくっつく抗体を、反対側には異物と認識されるのを避けるためにポリエチレングルコールを接続した。

 そしてこのデリバリーシステムを用いた場合と用いない場合とでマウスで比較すると、抗がん剤の作用が増すという結果になったのだが、面白いことに抗体がついていなくても同じぐらい効果が増すということが分かったのだという。

 

 

抗がん剤を運ぶナノマシン

 なぜこのようなことが起こるのかと調べたところ、ポリエチレングリコールが親水性なのに対して、薬のついたアミノ酸部分は疎水性であることから、体内で親水性の部分を外にして分子が集まって高分子ミセルという球体(ミセルコロイドというやつか)を作っていることが分かったという。がん細胞の血管壁は栄養を取り込むために通常の血管より隙間が大きくなっており、このミセルがちょうどその隙間を通るようになっていたのだという。

 現在はこのミセルに様々な機能を付加することが研究されているという。例えばこれで抗がん剤を運ぶことが出来るが、いかに取り込ませるかの問題がある。ウイルスと同じぐらいの大きさであることから、ウイルスに習って表面に表面に細胞に取りつくためのトゲをつけたという。さらにウイルスは細胞内に入り込むと環境の変化を察知して遺伝子を放出するが、それと同様に細胞内に入った時の酸性の度合いの変化を察知して抗がん剤を放出する設計にしたという。これによって抗がん剤の効果が上がったという。

 

 

脳細胞に薬を届けるシステム

 またドラッグデリバリーで現在一番の難関は脳細胞に薬を届けることだという。脳の血管は血液脳関門と言ってブドウ糖など限られた物質しか通さないようになっているので、これを大抵の薬は通過することが出来ないのである。

 では脳に薬を届けるにはどうしたら良いか。これにはグルコースを使用するのだという。脳の血管壁にはグルコースが通れる管があるので、ナノマシンの回りにグルコースを付けたのだという。脳は空腹時の方がより多く糖を取り込むことが医学的に分かっているので、空腹時に管が糖を取り込むために血管側に出てきた時にグルコースをつけたナノマシンが管に引っ付き、ここで血中のグルコースを増やすと管はナノマシンを取り込んだまま脳の方に移動するのだという。マウスの実験によると脳への到達量が100倍以上に増加したという。これをアルツハイマー病やパーキンソン病などの治療に使えるのではないかとのことである。

 さらには脳に到達してから、脳内の情報をとって戻ってくる「はやぶさ型ナノマシン」なるものの研究もされているとか。現在は髄液で検査するために危険性があるが、その検査が血液検査で簡単に出来るようになるという。

 

 

 以上、ドラッグデリバリーのためのナノマシンとのことだが、正直なところミセルコロイドだとナノ"マシン"のイメージとはいささか違うという気がしなくもない。

 それはともかくとして、がん細胞狙い撃ちで抗がん剤を使用できるとなると、効果は強いが副作用も強いという薬を安全に使用できることになるので、非常に有効な手法となる。これを用いた薬物療法と、さらに免疫療法などをうまく併用できれば、ガンの根治なんかも可能になるのではと希望を持たせるところであるので、さらなる研究の進展に期待したいところである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ナノマシンを使用したドラッグデリバリーシステムの研究が進んでいる。
・そのシステムはアミノ酸にポリエチレングリコールを接続したもので、親水性のポリエチレングリコール部分が外側になって複数分子でミセルを形成することが分かっており、そのミセルのサイズがちょうどがん細胞の血管を通り抜けられる。
・さらにその表面に細胞に取り付くためのトゲを付け、また細胞内に入ると酸性度の違いを検知して抗がん剤を切り離すメカニズムを導入することで、抗がん剤の効果を大幅に向上させることに成功した。
・また薬を組み込むことが困難な脳細胞に対しても、糖を取り込むメカニズムを利用して、ナノマシンの表面にグルコースを付けることで脳細胞内に薬を取り込む研究も進んでいる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・前回はウイルスを利用した免疫療法によるがん治療でしたが、今回はナノマシン。いろいろと治療法の研究が進んでいるようです。後は汎用性でしょうね。

次回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work

前回のサイエンスZERO

tv.ksagi.work