体内に存在するミクロの毛
今回はかなり画期的な話。実は私たちの細胞にはミクロの毛が存在し、それが様々な機能を制御しているという話。私もこれは初めて聞く話題である。
まずそのミクロの毛だが、髪の毛の太さが0.08mmぐらいなのに対し、0.00025mmの細さで、髪の毛は18種類の構成タンパク質に対して、300種類以上のタンパク質から合成されている(非常に構造が緻密だという)という。
このミクロの毛は生命誕生から関与している。精子に生えている鞭毛は、モータータンパク質というタンパク質で推進することが出来る。そして鞭毛のセンサーが卵子からの誘引物質を感知して、卵子の方に自動で向かうようになっている。さらに受精した卵子は卵管から子宮まで移動するが、それを動かすのも卵管に生えるミクロの繊毛である。この繊毛も鞭毛と同様にモータータンパク質が内蔵されており、1秒間に10回以上という猛烈な速度で動くのだという。
さらに生命の系統図で見ると、鞭毛を持つ動物はオピストコンタという系列が我々動物や真菌の先祖であり、バイコンタという鞭毛が2本あるのが植物の先祖だという。ちなみに植物は生殖に風などを使用するようになったことで鞭毛が退化したのだという。
繊毛は身体のあちこちにあり、気管支で異物を吐き出すし、脳内の脳室にある繊毛は脳脊髄液を循環させて老廃物などを取り除くことで、アルツハイマー認知症を防ぐのではという。
ミクロの毛が心臓の位置を決める
さらにこのミクロの毛が受精卵の分割の際に大きな働きをしているという。マウスの受精卵を見ているとミクロの繊毛が生えているのだが、そのミクロの毛が作り出す流れが心臓の位置を決めているのだという。マウスの胚のミクロの毛が水流を作り、そのことによって身体の左右を決定するのだという。それによって左右非対称の身体が形成される。この流れを止めてみると、途中で胚は細胞分裂を止めてしまったという。なおまれに内臓逆位が起こる事例があったという。発生時の分裂は遺伝子ですべて制御していると思われていたのだが、臓器の定位という部分だけなぜこのようなミクロの毛に頼るのかはまだ謎であると言う。
またミクロの毛には動かないで重要な役割を果たすものまであるという。例えば一次繊毛と呼ばれる毛は動かない毛であるという。しかしこの一次繊毛は細胞の配列や分裂に影響するのだという。例えば歯の成長。マウスの象牙芽細胞には一次繊毛が生えているが、これが働かなくした場合、明らかにマウスの歯の成長が悪くなるという結果が得られたという。歯の土台となる象牙質の形成が不十分になっている。一次繊毛は象牙芽細胞から下向きに生えているが、これがカルシウムをキャッチして歯の成長を促していると推測されている。なおこのような一次繊毛は身体のあちこちの細胞に存在するという。
あらゆる病気に影響する可能性のある一次繊毛
細胞分裂は中心小体が分かれて染色体を引っ張ることから始まるが、この中心小体とは実は一次繊毛の根っこであり、細胞分裂が終わると一次繊毛が生えて分裂が止まるのだという。このメカニズムが働かなくなると細胞がガン化する。これ以外にも一次繊毛は様々な病気を起こすのだという。繊毛の働きが悪くなることによる病気がいろいろと見つかってきているという。
この一次繊毛に異常が起こることがある。突然切れてしまうことがあるのだが、その原因はストレスだという。マウスの実験によると、ストレスを与えると脳の一次繊毛が15%短くなったという。脳の一次繊毛が短くなると脳細胞の結びつきが悪くなり、記憶が衰えたりなどの脳機能の問題が起こるという。なおこの繊毛は休息によって復活はするという。また一次繊毛が長いマウスの方がストレス耐性があるという結果が出ているという。また一次繊毛に注目することで、新たな薬の開発なども期待できるという。
小腸には無数の絨毛が存在するが、そこからさらに微絨毛が生えており、それこそが栄養吸収の働きを持っているという。そこで腸捻転などで小腸を失った短腸症候群に対して、大腸の一部を小腸化することで栄養不足などを防ぐという治療法が研究されている。実際に大腸の上皮細胞を除いて小腸の上皮細胞を移植することで、微絨毛が働いて大腸の一部が小腸として機能することが実験で確認されたという。
細胞に生えている毛の話。私もそろそろ年齢の関係で頭髪のことが気になる年齢にさしかかってきたが、細胞の毛の話は全く知らなかった。どうも今回のことを聞いていたら頭髪のような単純なものではなくて、細胞の器官の一つのようである。精子の鞭毛や気管支の繊毛ぐらいは知っていたが、そんなにあちこちに繊毛があって、さらには細胞分裂にまで関与しているとは驚きである。番組始めに「最新の情報」というようなことを言っていたが、確かに新しい研究成果だろう。
しかもストレスでその毛がなくなるとか、そのことによって細胞の機能に支障を来すとかいうのだから驚き。正直なところストレスなら常に半端ないので、私の毛も頭髪よりも先に細胞の方がズルムケになっているのではと気になるところ。
忙しい方のための今回の要点
・あらゆる細胞にミクロの毛が生えていて、それが重要な役割を果たしていることが分かってきた。
・精子の鞭毛は卵子の誘引物質を探知して、自動的にそちらに向かう能力を持っている。また卵管に生えている繊毛は1秒間に10回という高速な運動で卵子を運搬する。
・このような繊毛は脳内にもあり、脳脊髄液を循環させることで老廃物を排出してアルツハイマー病などを防止していると考えられるという。
・また受精卵の毛が生み出す水流が身体の左右を決定して、内臓の配置を決めているという研究報告もある。マウスでこの毛の働きを抑えたところ、胚の左右が決められずに細胞分裂が停止したり、稀に内臓逆位が発生した。
・また動かない一次繊毛という毛も存在する。これらは細胞の配列や分裂に影響する。マウスの象牙芽細胞の一次繊毛を働かないようにしたら歯の成長が阻害された。
・この一次繊毛はストレスなどで切断されることがあり、脳でそれが発生すると記憶力の低下などにつながり、うつ病の原因にもなるのではと言われている。
・腸捻転などで小腸を失った短腸症候群の患者が栄養不足になることを防ぐために、大腸に小腸の上皮細胞を移植することで、大腸内に微絨毛を生やして小腸化するという治療法が研究されている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・科学の進歩によっていろいろと新しい知見が出てくるものですが、今回のは驚いたな。私にとっては全くの盲点だった。
・それにしても頭髪で悩みを抱えている人は少なくないのだが、これからは体内の毛でも悩みが出てくると言うことか。髪は長い友達ってCMが昔にあったが、まさにそうだな。
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