産業革命のスレート鉱山
今回の世界遺産は、つい昨年に登録されたウェールズの鉱山。湖や山が連なる中に岩肌がむき出しの階段状になっている箇所が多数あるが、これは石材であるスレートを切り出した鉱山の跡である。
スレートは薄く割れる石であり、床を張ったり、瓦にしたりで使用される。ウェールズの北西部の山々が連なる中にその鉱山がある。ウェールズの最高峰は標高1085メートルのスノードン山だが、これは遠い昔の海底火山の噴火で出来たもので起源は5億年以上前とのこと。
鉱山は階段状になっているが、これはスレートを切り出すために作られたもので、世界遺産の周辺には現在まだ切り出されている鉱山もあるという。切り出した石は階段の上の道路を運ばれ、いらない石は脇に次々と捨てられる。運び出された石は工場でのみで薄く削がれて建材となる。ウェールズのスレートは世界最高品質だという。スレートは太古の泥岩に熱と圧力がかかることで剥離しやすくなったものだという。さらに成型もしやすい上に耐久性があって軽いので屋根に最適なのだという。フランスのロワール渓谷のシャンボール城の屋根も、アルバニアのジロカストラのオスマン帝国時代の町の屋根も、イギリスのバッキンガム宮殿の屋根もすべてスレートである。さらウェールズ・ミレニアムセンターの壁はウェールズで採れる様々な色のスレートを使用している。
産業革命時代の最新技術を投入
最盛期は19世紀の後半で世界のスレートの1/3をウェールズで産出していたという。その中心は当時世界最大規模を誇ったペンリン採石場。岩肌を階段状に削る方法はここで始められた。そのような段々をギャラリーと呼ぶのだという。昔はここにロープでぶら下がりながら石を切り出す危険な作業が行われていた。そして良質の石だけを工場に運ぶので、9割の石は捨てられるのだという。これらがウェールズの風景を変えた。
ここには名物となっている小さな汽車が走る。機関車トーマスにも登場したというタリスリン鉄道。18世紀の産業革命が石の運び出しの風景を一変させた。ケーブルカーのレールのようなインクラインを使用して石を山から下ろし、さらに蒸気機関車で港まで運んだのである。かつては馬が引く馬車鉄道や運河が使用されていたが、蒸気機関車が通ったことで大幅にスピードアップした。これは大成功して、世界の山岳鉄道の走りとなったという。今ではこの鉄道路線は観光の目玉となっている。この鉄道も世界遺産である。
船に積まれたスレートは国内だけでなく海外にも輸出された。最盛期にはイギリスだけで1300万軒の屋根でウェールズのスレートが使用された。産業革命で都市部の住宅が増加したので、スレートの需要はうなぎ登りだった。そんな最盛期に作られたのがゴルセーダー採石場だが、ここのスレートは質が悪くてわずか数年で閉鎖されて放置されたので、今でも当時の姿がよく残っているという。水力を使用した3階立ての工場の建物の残骸が今も残っている。ここで鉄道によって運び込んだスレートを加工していた。
未曾有の好景気に沸いたこの地には近くに労働者が住む集落が誕生した。世界遺産のブライナイ・フェスティニオグ町は多い時は1万2千人が住んだという。そしてここにはペンリン・キャッスルというスレートで作られたお城まで建った。これは鉱山のオーナーの住宅だという。寝室にはスレートで作られたベッドまで据えられている。産業革命期の技術を伝えるとしてこの地は世界遺産に認定された。
忙しい方のための今回の要点
・イギリスのウェールズのスレート鉱山が昨年世界遺産認定された。
・スレートは太古の泥岩が熱と圧力で変性したもので、薄く削ぎやすい上に加工がしやすく軽くて耐久性があることから、屋根材に用いられる。
・19世紀後半の最盛期にはウェールズ産のスレートが世界の1/3を占めていた。
・またスレートの運び出しのためにゴンドラや蒸気機関車などの最新の設備が設置された。
・子の地はスレートの生産で繁栄し、近くに出来た町は最盛期には1万2000人の人口があり、鉱山のオーナーはスレートで出来た宮殿を建設した。
・現在は産業革命の技術を伝える遺跡として世界遺産となっている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・削られた岩山がゴロゴロでむしろ環境破壊に思えることから、世界遺産のイメージとはやや異なるんですが、いわゆる産業遺産というやつのようですね。石見銀山などと同じようです(石見はかなり環境調和型ですが)。
次回の世界遺産
前回の世界遺産