教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/4 TBS系 世界遺産「絵のような美しさ!トスカーナの渓谷」

人の手が生み出した美しい田園地帯

 イタリア北部トスカーナのオルチャ渓谷。オルチャ川の流域に田園地帯が広がる丘陵地帯である。今では一面の小麦畑でイタリア一の穀倉地帯であるが、実は人の手が加わるまではこの地は不毛の大地だったという。


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 畑の中に棒のようなものが見えるが、これはイトスギだという。これはオルチャ渓谷を象徴する風景で、根を地中深く伸ばすイトスギは農道の補強や傾斜地の土止めなどに植えられ、畑の境界を示す目印でもあったという。

 人の手が加わる前のこの地の様子を示すのが、渓谷の中に部分的に残っている白い地面である。これは白く細かい粘土の土壌で水はけが悪く、作物が容易に根を伸ばすことが出来ない土壌である。本来のオルチャ渓谷はこのような土地であった。しかし700年以上前に大々的な開墾が始まり、土に家畜の糞を混ぜるなど血道な土壌改良が続けられて今日の風景が出来上がったのだという。大自然の中の農家では民宿を行っているところもあり、アグリツーリズムが人気である。

 

 

都市の発達と共に開梱が始まった

 畑の中には修道院などもあるが、この地は8~10世紀頃は修道院の支配下にあった。それがやがて都市の時代が訪れる。田園の中を抜けるフランチジェナ街道はイギリスとローマを結ぶ重要な道で街道沿いには都市が発達した。丘の上に要塞を設けた城塞都市が修道院を押さえて周囲を支配するようになる。アミアータ山の麓の川には温泉が湧き出している。これは保養地として古代ローマの頃から愛され、旅人の疲れを癒やす役割も果たしていた。

 オルチャ渓谷はワインの名産地でもあり、葡萄畑も絶景の一部となっている。この地で大規模な開墾が始まったのは13世紀で、開墾を主導したのは美しい都市シエナであった。13~14世紀に金融中心として絶大な力を持っていたシエナ共和国が、手つかずだった荒れ地の開墾に乗り出し、オルチャ渓谷を穀倉地帯へと変えたのである。その田園がルネサンス時代に美しさを生み出すことになる。それまで不規則に並べていたオリーブ畑なども整然と植えられるようになり、オルチャの田園に秩序を生み出したという。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・イタリアのトスカーナのオルチャ渓谷は、一面に小麦畑の広がる田園地帯である。
・しかし実はここはかつては耕作に向かない不毛な粘土質の大地だった。それが700年以上前に大規模な開墾が始まり、家畜の糞を土に混ぜるなどの血道な土壌改良によって今日の姿が生み出された。
・この地は8~10世紀は修道院の支配下にあったが、その後にフランチジェナ街道に沿って城塞都市が発展してこれらの都市が支配するようになる。
・そしてこの地を開墾したのは13~14世紀に絶大な力持ったシエナ共和国である。
・さらにルネサンス時代になると、田園地帯が美しく整備されるようになって今日の風景に到っている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・あのとても草木が生えるとは思えない粘土からあのような畑にするのですから、それは並大抵の苦労ではなかったような気がします。しかも土地を耕すだけでも機械はなくて人力かせいぜい家畜なんですから。何か執念のようなものまで感じますね。

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