教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/9 BSプレミアム ザ・プロファイラー「革命に翻弄された夫婦マリー・アントワネットとルイ16世」

立場に振り回された若き夫婦

 今回のテーマはフランス革命に翻弄された王妃マリーアントワネットと国王ルイ16世の夫婦について。何か唐突なテーマ泣きもするが、つい先日に歴史探偵でもこのテーマが扱われており、あからさまに同一ネタの使い回しというNHKでは多いパターン。実際に切り口を少し変えているだけである。もっとも佐藤二朗の無駄話とか、とにかく無駄の多いあっちの番組よりは、こっちの番組の方がまだ中身は濃い。

tv.ksagi.work

 二人の結婚はそもそもあの時代の王家では当たり前の政略結婚であった。ルイ16世は機械いじりが好きな頭脳は明晰だがやや内向的な少年だったという。一方のマリー・アントワネットはオーストリア君主のマリア・テレジアの娘で、名門ハプスブルク家の出身だった。美しくはあったが勉強は嫌いだったという。母は当然ながらこの結婚でフランスを影響下に収めることを考えていた。二人が結婚したのはマリー15才、ルイが16才の時だが、若い二人の結婚はかなりギクシャクしており、初夜などもうまく行かず、その後もしばらく夫婦関係はうまくいってなかったという。

 ただそれでもルイは基本的には優しい男であり、マリーのかなりの自由を許していたという。一方のマリーは何でも公開でプライバシーの全くない王宮の生活にストレスが大きかったという。その結果、連日の夜遊びで憂さを晴らすようになる。そんな中で祖父であるルイ15世が病死して、ルイは20才で国王に即位することになる。若すぎる経験も何もない国王の即位であった。ルイは手探りで国王の仕事をせざるを得なくなる。

 

 

国王改革に乗り出すルイだが、結局は頓挫する

 それでも二人はまずは夫婦の営みの改善を図り、ようやく娘が生まれる。そしてルイは政治改革に乗り出し、王宮にかかる費用を抑制したり、農奴制を廃止し、またギロチンを採用したのはルイだが、これは受刑者に与える苦痛をなるべく減らすという発想からだったという。またマリーの自由を許したルイであるが、政治への介入だけは一切許さなかったという。

 マリーはプチ・トリアノンの庭園造りに力を注ぐようになる。200億円をかけてオーストリアの田園風景を再現したという。そしてこの時にスウェーデン出身のフェルセン伯爵がマリーの愛人となる。なおルイはその件については黙認していたという。マリーは23才、ルイは24才だった。

 しかしマリーの贅沢な生活は国民の怒りを買い、彼女は「赤字夫人」と呼ばれることになる。もっとも国民の貧困の原因は、ルイがアメリカの独立戦争を支援して巨額の費用を使用するなどの政策にもあったという。ルイはネッケルを財務長官据えると、財政改革に乗り出す。この時に国王への報告書を出版し、国の財務の状況を公開した。ルイはこのことによって貴族や聖職者の贅沢を明らかにして、改革への後押しにしようと考えたのだという(ルイは非課税特権のある聖職者や貴族への課税を考えていた)。しかしルイの予想外のこととして、宮廷の支出が公共事業の7倍もあることが明らかになり、そこに批判が集まってしまうことになる。

 

 

フランス革命が勃発、結局は断頭台にかけられることに

 マリーは待望の男子を産み、これで王家の後継者問題も解決して国民も喜ぶと考えたのだが、マリーは国民に既にかなり嫌われていて反応は冷ややかだったという。そしてルイが34才の時にフランスは異常気象で農商業が壊滅、飢餓者が溢れることになる。ルイは事態打開のために聖職者、貴族、平民からなる三部会を設立して国王主導での改革を目指すが、既得権益の死守に動く聖職者や貴族のためにこれもうまく機能しなかった。しかもこの時に長男が急死してしまい、うちひしがれたルイは議会を欠席する。しかしそのことさえ国民の批判につながり、ルイの目指した改革は完全に頓挫する。そしてバスティーユ牢獄襲撃に始まるフランス革命が勃発する。ルイは宮廷に押しかける民衆に対して、兵が発砲することを禁じたという。結局はルイは民衆の要望に従ってヴェルサイユを後にしてパリに移動することになる。

 国王一家はパリのチュイルリー宮殿で過ごすようになる。宮殿は古くて小さかったのだが、その分家族が一緒に過ごすことが増え、息子のシャルルはむしろこの生活を気に入っていたという。しかしパリの外では貴族達の亡命が相次ぎ、マリーは外国に軍隊の派遣を要請するがうまく行かずオーストリアへの逃亡を計画する。計画の詳細はマリーの愛人であるフェルゼンが綿密に立てた。結局はこの計画にルイも乗ることになるが、どうもルイは本気で国外逃亡をする気はなかったのではないかという。結局国王一家は国境近くの村で発見されてパリに連行されることになる。

 結局はこの行為が決定打となる。国王一家はフランスを裏切ったとして国民の怒りを買い、王政廃止の声が沸き上がり、王権は停止されて一家はタンプル塔に幽閉されることになる。しかし皮肉なことに、この生活の中で夫婦はそれまでにない安らぎを感じ、マリーはルイの良さを見直して、ルイはマリーに愛されていることを実感したという。しかしその生活は長くは続かなかった。やがてルイの裁判が始まり、彼は断頭台で処刑される。そして続いてマリーも処刑されることになる。

 

 

 以上、悲劇の国王夫妻の物語。つまりは二人とも根っからの悪人ではなかったわけであるが、悲しいかな王宮育ちのせいで世の中のことを知らなすぎて社会からズレまくった結果、最後まで国民のことを理解できなかったようである。

 ルイ16世はある種の理想家であったようで、アメリカ独立戦争の支援についてもイギリスとの対抗ということもあったが、個人的にアメリカの理念に賛同した部分があったのではという気がする。恐らく国王という特権階級にありながら、民主主義的な理念についてもある程度の共感をするというかなり矛盾した状態の人物だったのではという気もする。と言うのも最後の最後まで「たかが国民風情が、至尊の国王たる自分を害する気か」というような態度が見られなかったからである。

 マリーにしても根っこは「世間知らずのお嬢」だったにすぎない。それが過酷な現実の中で急激に人間的に成長するのだが、残念ながら時代の激動の中で遅すぎたということである。こういう悲劇が起こりえるのも、貴族社会という罪な制度のせいだと私は思っている。やはり特権階級の中で生まれ育てば、どうしても世間知らずの馬鹿ボンに育ってしまうということである。せめて彼らのそばに国民の立場を理解した優秀な側近がいれば良いのだが、それにも恵まれていなかったのも悲劇の元。まあ国丸ごとが世襲の馬鹿ボンで占められていしまっていたのだろう。

 なおルイが国家の収支を完全に公開したことに対し、ゲストから「日本では公開すべきものを黒塗りにしたりする」などという話も出て来た時、岡田准一が「あっ、まずいことを言い出した」と一瞬戸惑った表情になるなんて展開も。今のNHKだとこれが限界だろう。恐らくこれ以上突っ込んだら、会長から怒りを買って番組スタッフが飛ばされるということになるんだろう。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ルイ16世とマリー・アントワネットが結婚したのはルイが16才でマリーが15才の時で、当時の常として政略結婚であった。そのために最初は夫婦生活がうまく行かなかった。
・ルイ16世は20才で統治のことも知らないまま国王に即位することになる。彼は改革に乗り出すがなかなかうまく行かなかった。
・ルイはマリーには自由を許し、日常生活にストレスが多かった彼女は、夜遊びで憂さを晴らして愛人を作るようになる。このことが彼女が浪費家として国民の恨みを買う原因にもなる。
・ルイが34才の時にフランスは大飢饉に見舞われて社会が不穏になる。事態打開のためにルイは三部会を設置するがうまく行かず、結局はフランス革命が勃発、民衆がヴェルサイユに押しかけて国王一家はパリに移動することになる。
・貴族達の国外逃亡が続出する中、マリーもオーストリアへの逃亡を図る。しかしそれが国境手前で発覚、一家はパリに連行される。
・このことが国に対する裏切り行為と民衆の怒りを買い、一家はタンプル塔に幽閉される。しかし皮肉なことにそれが初めての夫婦としての安らげる生活となった。だがやがてルイは断頭台にかけられることになり、マリーも処刑される。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・この夫婦にしても普通に庶民の夫婦だったら、貧しいながらも普通に平和に暮らせた可能性があるのだが、あたら国王なんて立場になったせいでおかしくなったということでもある。まあ生まれながらに特権階級なんて世の中、ろくなことにはならないってことである。