DNAをプログラミングすることで、ガンを発見して治療する
今回はDNAを用いた生体コンピュータ。元々はDNAを使って計算させることを考えていたようだが、結局は体内で動作させることが出来るという点から、DNAをプログラミングして、ガンの検査や治療に使用しようという方向に研究が進んでいるらしい。
実際にどのようなことをするかだが、東京大学の研究チームが昨年10月に発表したのは、ガンの早期診断。がん細胞は固有のマイクロRNAを放出し、それが血液中を循環するのでそれを検出することでガンが発見できるということである。今回は複数のマイクロRNAの濃度を1度に調べられる方法が開発されたという。2種類のマイクロRNAのそれぞれ1種類ずつが入ったものと、両方が入ったもの、そして全く入っていないものの4種を用意し、そこに人工DNAと酵素を加える。するとマイクロRNAが所定の濃度より高いと光るのだという。実際に起きていることは、人工DNAにマイクロRNAが引っ付くと、酵素の働きでそれと対になるDNAが合成される。そこから短いDNAを切り出し、これが一定濃度を超えると2つめの人工DNAに引っ付いて、そこでコピーを生成するのだという(そうなるように人工DNAがプログラミングされている)。そしてこれが3つ目の人工DNAと反応して光るのだという。現在このようなマイクロRNAは13種のガンについて発見されているという。
さらには検査から治療まで一環で行うDNAコンピュータの研究についても発表されている。これには複数のDNAが入っており、これがRNAと反応していくと最後に短いDNAが生成し、これがRNAの特定部位と結合して、がん細胞のタンパク質合成を妨げるのだという。
また人工DNAとタンパク質を組み合わせることで人工的な筋肉とかを作る研究も進行している。人工細胞を製造する研究では、実際の細胞のように分裂をするというものも作成されているという。
以上、人工DNAを使ったDNAコンピュータとのことだが、動作をプログラミングできるという点でコンピュータなのかもしれないが、どうもいわゆる普通のコンピュータのイメージとは異なり、単なる分子製薬の話になっているような気がするのだが・・・。最初は計算用の生体コンピュータを作って、巡回セールスマン問題なんかを解かせようということだったようだが、DNAに作用すると言うことで動作を設計した薬という方向に進展したようである。
そう言えば巡回セールスマン問題については、以前に粘菌を使用した生体コンピュータの時にも出てきた。どうもこういう課題は生体コンピュータ向きということか。
忙しい方のための今回の要点
・DNAをプログラミングして、ガンの発見や治療に利用しようという研究が進んでいる。
・ガンが固有のマイクロRNAを血液中に放出することから、それに人工DNAを作用させることで、一定濃度以上が検出されたら発光するという検査薬が開発されている。
・さらには反応の結果生成した人工DNAがRNAのタンパク質合成に関する部位に結合して阻害することで、ガンを治療しようという研究もなされている。
・また人工DNAにタンパク質を組み合わせることで人工的な筋肉を作ったり、さらには実際の細胞のように細胞分裂する人工細胞の研究などもなされている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・結局最後までDNAコンピュータという呼び方がしっくりこなかったな。どうもネーミングに無理くり感がある。
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