教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

2/28 BSプレミアム ヒューマニエンス「"粘液"ネバネバは魔法のカクテル」

ヒトの地上進出に不可欠だった粘液

 今回はヒトの身体の一部表面にも存在する粘液について。この粘液、単なる物理的バリアではないのだという。

 粘液は人類の地上進出に大きな影響を与えているという。それが鼻水。実は1日1~1.5リットルが作れているという。鼻水の働きは吸気に温度と湿度を与えることで温度37℃、湿度100%にコントロールするのだという。乾燥した空気が肺に入ると粘膜が乾燥してウイルスなどの排出が出来なくなるし、冷たい空気がそのまま入り続けると呼吸困難になってしまう。鼻水は鼻甲介の表面に存在し、ここを空気が通過することで湿度は100%になる。また表面の毛細血管がヒーターになっているのだという。なお鼻水の70%は水蒸気になっているとのこと。ということは、口呼吸ってやっぱりかなり身体に悪いということに・・・。

 

鼻の構造 出典:看護roo!  https://www.kango-roo.com/word/21202

 

 

化学物質のカクテル唾液

 さらに唾液。これは100種類以上の成分を含み、これが持つ働きは実に多様だという。まずはカルシウム、これは歯の補修に使われる。また動物がよく傷口をなめるが、これは唾液の中に傷を治すための上皮成長因子が含まれているからだという。また唾液は血液中に吸収され、骨を再生する骨芽細胞を活発化するのだという。また糖を分解するアミラーゼは人類の進化にも影響しているという。アミラーゼを作り出す遺伝子の数は霊長類の2つに対してヒトは6つもあるという。デンプンを摂取して分解したブドウ糖を吸収することで巨大化した脳を支えることになったという。またヒトの余り物をもらうという生活をしていたイヌは、オオカミに比べてアミラーゼを作る遺伝子の数が平均7.4倍もあるという。

唾液腺は複数あり、唾液の性質も異なる

 

 

粘液の機能の鍵を握るムチン

 粘液がこのような多様性を持つのはその成分が関係するという。それはムチン。ほぼ全ての粘液に含まれる粘り成分である。その粘りは構造から由来しており、タンパク質の幹に枝のように糖類が生えている構造をしている。この糖鎖が大量に水分を取り込むことからネバネバが生じるのだという。さらにはこの糖鎖が部位ごとに変わることで溜め込む物質が変わることで多様な能力を持つことになるのだという。水に溶けない染料でもムチンを加えると溶けるというように、様々な物質を絡め取るのがムチンの働きだという。ヒトのムチンはかなり複雑なのだとのこと。

 さらにこのムチンは表面で広がりやすい性質を持っている。界面活性剤として表面に親水膜を作る働きを持っている。これはヒトの広大な粘膜(テニスコート1.5枚分)を覆うのに効果を果たしているという。また角膜表面に薄い涙の層が作れるのもムチンの働きである。

 しかもこのムチンは分子認識能を持つという。ウイルスなどが入ってきた時、表面の糖鎖を自身の糖鎖と比較することで認識するという。これは腸の表面などで善玉菌にとって積極的に住処を与えることで悪玉菌に対抗するという。さらにこれを積極的にひざ関節症の治療に使おうという研究もされている。ヒアルロン酸にムチンを加えて添加することで軟骨の保護に有効に働くのだという。

 

 

 以上、粘液についての話だが、後半のほとんどはムチンの話に明け暮れていた印象がある。このムチンというのが鍵で、糖鎖の設計で様々な機能を持たせられるが、目下のところは人工合成は不可能とのことである。軟骨の再生にまでムチンが影響するとなったら、ひざ関節症などで苦しんでいる高齢者は多いので朗報である。ところで体内ではどこでどのようにしてムチンを合成しているのかというようなところに興味が湧く。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ヒトが陸上生活を送る上で重要だった粘液が鼻水。1日に1~1.5リットル作られ、鼻から入る空気を温度37℃で湿度100%にすることに働いているという。
・唾液は100種類以上の成分を含む。歯の修復に使うカルシウムや傷を治す上皮成長因子が含まれている。
・また唾液で重要なのは酵素のアミラーゼで、これのおかげでヒトはデンプンを摂ることでブドウ糖を得ることが出来、これが巨大な脳を支えるエネルギーとなっている。
・粘液の多様性に影響している成分がムチン。タンパク質の幹に糖鎖の枝が生えている形で、その糖鎖に水を取り込むことでネバネバになる。
・さらに糖鎖が変化すると取り込む物質が変わるので、それが粘液の多様性につながっている。
・ムチンの糖鎖は分子認識機能を持ち、ウイルスの表面の糖鎖などを検知する。また腸内では善玉菌に住処を与えることで悪玉菌を抑制する働きをしたりする。
・このムチンとヒアルロン酸を加えることでひざ関節症の治療を行う研究が進んでいる。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・たかが粘液、されど粘液。さらさらの液体だったらすぐに乾いてしまうので、粘りのある粘液なんでしょう。粘液が表面に必要なのはヒトが太古の昔に水中で生活していた名残だと思います。ヒトは陸上生活に対応しても、様々な部分に水中を持ち込んでいる。

次回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work

前回のヒューマニエンス

tv.ksagi.work