核融合研究の最前線
未来エネルギーとして期待されている核融合発電であるが、未だに技術的に大きな課題をいくつも抱えている状態である。そんな中、昨年の12月にアメリカで投入したエネルギーを上回るエネルギーを取り出すことに成功したとの報が伝わった。実用化への第一歩として注目されている。
今回の報告はアメリカのローレンス・リバモア研究所によってなされた。ここで研究されているのが、核融合の方式の一つのレーザー核融合である。増幅したレーザーを192本のビームで直径2ミリの燃料カプセルに照射することでX線が発生して燃料が爆縮することで高温のプラズマを発生させて核融合を行うという方式である。今回投入したエネルギー205万ジュールに対して1.5倍の315万ジュールを発生させることに成功したのだという。
レーザー核融合のための素子開発
ただ実用化までの問題点としては、現在のレーザーはガラスを素子として使用しているので冷却に時間が掛かり、1日に1回ぐらいしか反応させられないという。実用化のためには1秒~0.1秒に1回は反応させる必要があると言う。
そのために鍵となるのはレーザーの光学素子の材料であるが、連続運転可能なレーザーとして大阪大学レーザー科学研究所が開発したのがセラミックを使用した光学素子だという。通常のセラミックと違って透明な素材を作ったのがミソで、このセラミックは温まりにくく冷めやすいので、これを冷却器と組み合わせて使用することで、100ジュールのレーザーを1秒間に100回照射できるようになるという。実用化に一歩近づいたことになる。
国際協力で建設中の実験炉ITER
次はレーザー以外の方式の核融合について紹介。フランス南部に国際協力によって建設中の核融合実験炉がITER。2035年に核融合を起こすことを目指して建設が進んでいるという。ここではプラズマを磁場で閉じ込めることで連続して核融合を起こすことを目指している。プラズマを安定して制御するには磁場の保つためのコイルの形が鍵となったという。コイル状の装置内にプラズマを安定して閉じ込めるにはコイルをD型にすることでプラズマを安定して長時間保てることが研究の結果分かったという。
また発電のための問題として中性子に耐える素材が必要だという。そのための素材の研究が六ヶ所村で国際協力によって行われている。ここでは高エネルギーの中性子(高速の1/10)を加速器で生み出して、これを利用して素材の検査を実施するのだという。核融合を今世紀の後半にはエネルギーを支えるシステムにしたいとのこと。
核融合が注目されたのはかなり昔のように思われるのだが、いつまで経っても実用化の話が聞こえてこないのでどうなっているのかと思っていたが、やはりまだ技術的に様々な問題があるようである。ただ核融合は明らかに核分裂よりもクリーンであると思われるので、現在の危険で未来に禍根しか残さない核分裂発電を廃止に追い込むために、核融合の実用化に期待したいところ。
もっとも日本政府が核分裂に固執するのは、あわよくば核兵器につなげたいという意図やら利権やらがあるので、いよいよ核融合の実用化が見えてきたら意図的にブレーキをかける可能性さえなきにしもあらず。そうならないためにも、現在の権力構造までもを変革しておく必要もあるのであるが。
忙しい方のための今回の要点
・昨年12月、レーザー核融合において初めて投入したエネルギー以上のエネルギーを得ることが出来たとの報告がアメリカでなされた。
・しかしレーザー核融合は実用化のためにはレーザーの連続照射の能力を上げる必要があり、そのためには現在のガラス素子では冷却の困難さから無理であった。
・大阪大学が連続照射に適した透明セラミックの素子を開発したことでレーザー核融合は一歩実用化に近づいている。
・一方南フランスでは国際協力による実験核融合炉ITERの建設が進んでいる。
・ITERではコイルで生み出した磁場を用いることでプラズマを大量に浮遊させ、連続的に核融合反応を起こすことを目指している。
・さらには核融合で発電するためには、高エネルギーの中性子に耐える材料が必要であるので、六ヶ所村の施設で国際協力によるテストも開始されている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・核融合って、私のような外野から見ていたらどうも技術が足踏みしている印象しかなかったのですが、とりあえず着実に進んではいるようです。変な政治的横槍で日本が遅れるようなことがないようにだけが注意です。
次回のサイエンスZERO
前回のサイエンスZERO