教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/11 BSプレミアム ヒューマニエンス「"超・変異"次の進化をたくらむDNA」

突然変異を上回る「超変異」

 生物には突然変異があることはよく知られている。これはDNAのAGCTの信号の一部が突然に変化することによって発生する。しかし生物の進化の過程には、この突然変異よりも遥かに大規模な遺伝子の変異が何度か発生していることが明らかになってきている。そのような大変異を経て我々は誕生したのだという。これを「超変異」と呼んで紹介している。

 その超変異であるが、それはDNAのジャンプだという。人とチンパンジーを分ける決め手となった遺伝子がNOTCH2NLで、これは胎児の脳のサイズを大きくするのに影響している遺伝子であるという。その結果、ヒトの脳はチンパンジーよりも遥かに大きい脳を持つようになった。この遺伝子を持つに至ったメカニズムがトランスポゾンというもので、通常はゲノムの中に収まっている遺伝子配列が、ある時に別の場所にジャンプするのだという。細胞核からDNAの一部が飛び出し、それが核の別のところから中に入って、そこにあるゲノムの中に勝手に紛れ込むのだという。遺伝子の配列の一部が変わる突然変異と異なり、丸ごと大きな遺伝子の塊が入り込むので配列が大きく書き換わり、全く遺伝子の働きが変わってしまうことになるのだという。NOTCH2NLもこうしたメカニズムで発生した可能性が高いという。またこのようなジャンプは意外に高頻度で発生しているという。特に多いのが生殖細胞、受精卵、神経細胞だとか。つまりは身体の各細胞で微妙にDNAが異なることになる。

 

 

遺伝子の超変異による進化

 トランスポゾンによって生まれたものの一つがカラフルなトウモロコシである。トウモロコシの粒は普通は黄色いものだが、トランスポゾンによってDNAが変化することで様々な色の粒が生まれる。

     
Amazonでも種が売られていたりするようです

 トウモロコシの粒には黄色くなる遺伝子があるのだが、その遺伝子がトランスポゾンで阻害されると白くなる。またトランスポゾンがさらに飛び出したら遺伝子が組み変わって色が変化することがあるのだという。これによって様々な色の粒が出来るのだという。これは人でもトランスポゾンの入っている位置が人によって違い、それが我々の個性につながっているのではという。なおトランスポゾンの発見はこのトウモロコシの粒の色から始まったという。なお遺伝子の中で70%がジャンクDNAと言われているが、ここの多くがトランスポゾンだという。なお当然のことであるが、トランスポゾンの位置によっては生命機能に致命的な影響を与えることもある。

 

 

全ゲノム重複という劇的変化

 我々の祖先が体験した超進化としては、カンブリア紀に脊椎動物の祖先のピカイアが全ゲノム重複という遺伝子が倍になるという変化が2度も起こったという。その結果、同じ遺伝子を4倍持っているので、どれか1つの遺伝子が機能を失っても他が働くということが可能になっているという。1倍遺伝子しか持っていないショウジョウバエだと、身体を作るHox遺伝子の一つが損傷すると身体を作れなくなるのに対し、ヒトでは4倍に重複しているおかげで一つが損傷しても他が働いて身体を作れるのだという。またそれが進化の過程でその重複遺伝子が変化することでさらに複雑な働きを持つことが出来るのだという。人の場合、ショウジョウバエにはない手足を作るための遺伝子が加わっているという。

 なおこのような全ゲノム重複は異種交配で起こったのではという。水中では精子が拡散するので、偶然に他の種の卵子に精子が付着することがあるのだという。なお全ゲノム重複した生物は成長が遅くなるので、往々にして滅亡するのだが、それが環境が激変した時期だったらたまたまそれに対応して生き延びたという可能性があるという。全ゲノム重複の仮説が登場した時は、まだDNAの二重螺旋構造さえ分かっていなかった時代なので、当時はこの説に確信を持つ者はほとんどいなかったが、最近になってようやくこの仮説が正しいらしいということが分かってきたのだとか。

 

 

DNAを盗む

 さらにDNAを盗むことでも進化は起こる。和歌山沖の泥の中から見つかったアーキアという単細胞生物は、成長すると球体から腕が伸びて回りの生物を絡め取るという。我々の祖先もこのようにしてミトコンドリアを細胞内に取り込んだのではという。このような「他の生物から奪う」というのは進化の常套手段であるという。実際に我々の身体の中ではレトロウイルスから奪ったPEG10が胎盤を作り、RTL1が脳の神経を発達させ、SASPaseが肌のバリア機能を作り出しているという。さらにウイルス由来で哺乳類に共通するSirh3(Rtl6)は、脳を守るための免疫細胞で働く遺伝子であることが分かったという。

 遺伝子が大きい方がいいのかどうか。それの象徴的な生き物がオオサンショウウオだという。ゲノム塩基の数はヒトが30億に対し、サンショウウオは170~1180億もあるという。サンショウウオはこのゲノムの巨大さ故に太古から変わらない姿を保ってきたのではという。それは全ゲノムのコピーが大変なので細胞を増やしにくく成長が遅いのだという。生息環境によって使われなくなった遺伝子は消滅するのが常なのだが、サンショウウオは境界領域で生息していたので、すべての遺伝子が残ったのではという。

 

 

 以上、遺伝子について。最近になってヒトの全ゲノムが解明されたと言われていたが、その時に私は「ゲノムがヒトで同じなんなら、個人の違いはどこから生じるんだ?」という疑問を持っていたのだが、つまりは大まかなところは同じでもヒトによって細かいところがDNAの変異によって異なっており、それが個性そのものだったというわけか。そう言われると何となく納得である。

 ただその変異が個人の中でも起こっており、細胞ごとでDNAが異なるというのはなかなか衝撃だった。これから考えたら、体細胞から作り出したクローンは、自分と異なる個性を持つという可能性もあるということか。またこれだけ変異が多いと言うことは、先天的障害なども進化の可能性を模索した結果のハズレ例だったということで、進化をする限りは必然に生じるということであるということも感じられた。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・DNAは突然変異で一部が書き換わることがあるが、進化の過程ではそれよりもずっと大きい超変異と言うべき変化がある。
・それはひとかたまりのDNAがジャブするトランスポゾンという現象で、コピーされたDNA配列が、他の部分に入り込むことによって大きく遺伝子を書き換えるので、全く新しい機能が発現することがある。
・このトランスポゾンで生じたのが様々な色の粒を持つトウモロコシ。黄色く発色する遺伝子がトランスポゾンで書き換わることで多様な色が付いたという。
・人類の祖先であるピカイアは、カンブリア紀において2回の全ゲノム重複を行っている。これによって一部の遺伝子が働かなくなっても、他で補えるだけでなく、増えた遺伝子がさらに機能を拡張することで進化が起こった。このような全ゲノム重複は異種交配で発生したと考えられている。
・また単細胞生物のアーキアは、腕を伸ばして周囲の生物を取り込もうとするが、ヒトの細胞もかつてこのようにしてミトコンドリアを取り込んだ。さらに人の遺伝子には古代ウイルスから取り込んだDNAが多く存在する。
・ゲノムが大きい方が良いようにも思われるが、ヒトの10倍以上のゲノムを持つサンショウウオは、ゲノムのコピーが大変なために細胞の増殖が困難で、そのことによって太古の姿を保つことになったと考えられている。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・4月になって番組がリニューアルしたのか、冒頭の寸劇がリストラされましたね。まあ本筋にはほとんど関係ないコーナーでしたが。それともまさかギャラの節約?

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