教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

4/12 NHK 歴史探偵「ツタンカーメン 歴史の闇に消えた少年王」

唐突にツタンカーメン登場

 以前に唐突に皇帝ネロなんてあったと思ったら他の番組の素材流用だったので、今回もツタンカーメンの番組が何かあるのかと思ったら、番組中での宣伝はないし、番組表見渡したら目に入る範囲ではないので、この番組用のオリジナルか・・・と思ったんだが、内容自体は全く目新しいものが何一つなく、昨年にやった「英雄たちの選択」の内容と同じで、この番組オリジナルなのは最初に出てきた怪しいエジプトのオッサンと、佐藤二朗の毎度の無駄話だけなんだよな・・・。

ツタンカーメンの黄金マスク

 で、ツタンカーメンはいきなり黄金マスクが発見されたことから、もしかしたら今では一番有名なエジプト王かも知れないが、実はエジプトの歴史から抹殺された王でもあるのである。

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父の起こした大混乱の後始末を押し付けられた少年王

 ツタンカーメンが歴史から抹殺されないといけなかった理由は、そもそも彼の父に起因する。ツタンカーメンの祖父の代がエジプトの最盛期だが、彼の父であるアクエンアテン王が強引な宗教改革を起こして軋轢を生んだのである。元々のエジプトは多神教だったのだが、アクエンアテンは太陽神アテンを唯一神と定め、他の神々を否定してその神殿を破壊したのである。その上に新しい都の建設まで初めて国民を動員したものだから、これらの国民は栄養不足の中で過重労働を強いられることになった。そしてエジプトが大混乱の中でアクエンアテンはこの世を去る。すると人々の恨みは王の墓に向かい、アクエンアテンの柩のマスクは破壊され、墓の壁画もはぎ取られたという。

 このような大混乱の中でツタンカーメンは10才の少年王として即位することになる。明らかに困難な門出なんだが、ツタンカーメンは多神教を復活させて神殿を復興、また都もメンフィスに戻すなど穏当な政策をとったことで国内を治める。また最近ツタンカーメンの鎧から傷が見つかったことから、ツタンカーメンは自ら積極的に戦争で戦ったことも分かっているという。今まで病弱な少年王の姿ではなく、活気ある若き王の姿がここに覗われる。

 そのツタンカーメンを支えたのが妻のアンケセナーメン。彼より3才上の姉に当たるという。王妃は王よりも小さく描かれることが普通だった当時の肖像が、二人が同じ大きさで描かれていることからこの二人は対等な関係で、アンケセナーメンはツタンカーメンを支えて共同統治をしていたと考えられる。しかしツタンカーメンは20才の若さで突然にこの世を去ってしまう。足に深い骨折の跡が見られることから、チャリオット(戦車)から落ちて大怪我をしてから感染症を患ったのではないかと推測されている。

 

 

死後の権力闘争の中で存在を抹殺されることに

 ツタンカーメンの死後、エジプトは混乱する。それはツタンカーメンが子を残していなかったことによる。ツタンカーメンの元には大神官のアイと将軍のホルエムヘブが有力者として存在したのだが、お決まりの権力闘争が発生し、最終的にはホルエムヘブがアイが立てた後継者を排除して権力を握ることになる。新たに王となったホルエムヘブは元々アクエンアテンの宗教改革に反対していた保守派であったことから、自身の簒奪を隠す意味もあってアクエンアテンからツタンカーメンへと続いた王を否定して抹殺したのだという。

 またツタンカーメンの妻のアンケセナーメンのミイラが発見されているが、明らかに破壊された跡がある。それは彼女はツタンカーメンの死後に敵国であったヒッタイトの王子と結婚して王として迎えようとしたことから、裏切り者としてホルエムヘブによって殺害されたのだという。そして彼女の存在も完全に抹殺された。

 しかしツタンカーメンはその存在が抹殺されていたことから、皮肉にも墓荒らしの被害に遭うことがなく、世紀の大発見につながったのだと考えられるという。

 

 

 以上、ツタンカーメンについて。親父が進めた過激すぎる政策の反発を食らって、そこから建て直そうと必死だったが残念ながらその時間が足りず、結局は親父の反対者によって自身の存在が抹殺されてしまったという悲劇の王である。20才の若さで最期を迎えた王の脳裏を過ぎったのはいかなる思いだっただろうか。「ああ、まだまだやらないといけないことはいくらでもあるのに・・・」という無念を残したような気がする。

 それにしても昨年の「英雄たちの選択」と比べたら、見事なほどに新しい知見は全くなく、むしろ佐藤二朗の無駄話のために中身を薄めていた。こういうところがこの番組らしいんだよな・・・。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・エジプト王国はツタンカーメンの父の時代に最盛期を迎える。しかし父のアクエンアテンがエジプトの多神教を強引に太陽神アテンの一神教に改革しようとしたことから、社会的混乱が発生、人々の恨みを買ったアクエンアテンはその死後に墓を荒らされることになる。
・10才で即位した少年王ツタンカーメンは多神教を復活させるなどの穏当な政策をとることで人々の支持を得る。また対外戦争にも積極的に参加するなどの果敢な姿を見せる。
・しかし20才でチャリオットから転落した傷から感染症を患い、若くしてこの世を去ることになる。
・彼の死後は後継を巡っての争いが起こり、最終的には将軍ホルエムヘブがファラオになる。しかしアクエンアテンの宗教改革に対する反対派の筆頭だった彼は、アクエンアテンとツタンカーメンの存在を抹殺する。
・さらにツタンカーメンの后のアンケセナーメンも、敵国であるヒッタイトの王子を王として迎えようとしたことから、裏切り者としてホルエムヘブに殺害され、その存在が抹消される。
・しかしツタンカーメンはその存在が忘れられていたことで墓荒らしに遭うこともなく、最近の世紀の大発見につながるのである。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・それにしても存在が抹殺されていたから墓がそのまま残ってたというのは皮肉なことである。

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