教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

4/23 サイエンスZERO「進化と生命の不思議に迫る!生き物たちの華麗なる"逃げ技"」

天敵の体内から脱出する驚きの逃げ技

 生命が生き残るには「天敵から逃げる」ということが重要である。生命を全うするために多くの生き物が様々な「逃げ技」を身につけている。今回はそのような生き物の逃げ技に注目する。

 2021年、長崎大学でニホンウナギの稚魚の驚きの逃げ技が発見された。稚魚を天敵のドンコと同じ水槽に入れると、稚魚はあえなくドンコに飲み込まれてしまう。しかし少し経つとドンコがいきなりもがき始めたと思ったら、なんと稚魚がドンコのエラから脱出したのだという。実験の結果、54匹中28匹が脱出に成功したという。この脱出にはうなぎの細長い身体が有効に働いていると考えられ、進化に影響していると推測される。このような捕食回避行動は進化に大きく作用するものであるという。

 全長4ミリほどのマメガムシはもっとスゴい逃げ技を使う。カエルに飲み込まれたマメガムシだが、なんとしばらく経つとカエルの肛門から脱出するのである。実に9割が脱出できるという。マメガムシはその硬い羽で消化されるのを防ぐと共に、羽の下に蓄えた空気によって窒息を防ぎ、その間にカエルの消化器官内を必死で泳いで肛門から脱出するのだという。カエルは通常は捕食から排泄まで50時間ほどかかるが、マメガムシは大体1.6時間ぐらいで出て、最短は6分で脱出した例もあるという。

マメガムシの逃げ技(出典:神戸大学HP)

https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2020_08_04_01.html

 

 

すくんでいるのではなく、剣豪のように隙を見定めていたカエル

 逃げるのと対極の行動を取るのがカエル。蛇に睨まれたカエルという言葉があるが、カエルは蛇を見つけると怯えたかのようにじっと動かなくなる。これは逃げるとは対極の行動に思えるが、実はそこに高度な駆け引きがあるのだという。というのは、実はカエルはこの時に蛇との間合いを計りつつ、蛇が攻撃をかけてきた時に合わせて逃走するのだという。というのもカエルが一旦ジャンプすると空中で方向を変更することは出来ないので、下手をすれば軌道を見透かされて捕まる恐れがあるが、蛇が補食のために飛びかかってきたら、蛇の方も急に攻撃の方向を変更することが出来ないので、それを見極めて逃亡しているのだという。また蛇の視覚は動いているものの方が捕らえやすいので、動かないことは難を逃れるのに好都合である(他に動く目標があれば蛇はそちらに行く)。つまりはかなり高度な駆け引きをしているのだという。

実はこういうのではなかったらしい

 

 

死んだふりの効果

 さらに逃亡の1つの方法に「死んだふり」があるという。ただ死んだふりが本当に天敵から逃げるのに有効なのか(下手すりゃそのままガブリといかれると逆効果)はダーウィンも良く分からなかった謎らしいが、これを研究して解明したのが番組にゲストで登場した岡山大学の宮竹貴久教授である。

 竹内氏は穀物の害虫であるコクヌストモドキを使用して交配を繰り返すことで、死んだふりをする頻度と時間が長いロング系統と、死んだふりを全くしないショート系統を作り出したという。そして天敵のハエトリグモを入れた器に両系統を入れてみたところ、ロング系統が死んだふりをしたらハエトリグモはそのまま放置したのに対し、そこにショート系統がやって来たら捕食されたという。テストを繰り返したがロング系統だけが生き残る確率は100%だったという。ただこれだけだとすべてのコクヌストモドキが死んだふりをしても良いはずだが、なぜしない個体があるのか。そこでさらに調べたところ、ロング系統の方が活動的でなく、異性との繁殖の機会もショート系統よりも少ないことが判明したという。またロング系統は暑さや寒さなどのストレスにも弱く、捕食者から回避するには有利だが、その代償も少なくないことが判明したという。さらにアドレナリン・ドーパミンなどの神経伝達物質の量を調べたところ、ロング系統では脳内ドーパミン量がかなり少ないことが分かり、ドーパミン遺伝子群にも多くの変異が見つかったという(つまりロング系統は活動自体が活発でないということか)。つまり死んだふりは生命の根幹に関わっていそうであるという。

 

 

 以上、生物の「天敵から逃げる方法について」。消化器官の中を泳いで肛門から出てくるって生物には驚いたが、要するにクソまみれになって出てくるってことか。思わず「こういうことがあるからよく噛んで食べなさい」って話かと思ったわ(笑)。

 もっとも天敵から逃げられたらそれで有利って話だけでなく、限られた生物資源の中でどの能力にどれだけ資源を割り振るかという選択だと竹内氏が言っていたが、要するに極端すぎるパラメータ割り振りは生存には適さないってことだな。「痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います」なんてのは、通常は自然界では絶滅しちまうってことだな。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・生命の生存のためには「天敵から逃れる」というスキルが必要だが、中には驚きの当槍術を持つ生物がいる。
・ニホンウナギの稚魚は、天敵のドンコに飲まれたとき、半数以上がエラから脱出するという驚きの実験結果がある。これには長い身体も有利に働いていると見られ、進化と関わりがあるのではないかという。
・またマメガムシはカエルに飲まれると、硬い羽で消化を防ぎつつ、羽の中に蓄えた空気で窒息を逃れながらカエルの消化器官の中を泳いで、1.6時間ぐらいで肛門から脱出する。
・一方対極的に蛇と対面すると動かなくなるのがカエルだが、実は蛇の攻撃をギリギリまで見極めて、相手が動いてから瞬時に動くことで難を逃れるのだという。
・また「死んだふり」をする生き物は意外に多いが、実際にそれが生存に有利になることが実験で確認された。ただし「死んだふり」をする個体は活動性が低く、繁殖などで不利であることも分かったことから、進化のバランスも関与しているという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・「蛇に睨まれたカエル」ってのがビビって身体がすくんでいるという意味でなく、「冷静沈着に状況を観察して、行動するタイミングを読んでいる」というのは驚いたな。つまりは剣豪が剣を抜いて睨み合っている状況だったってことか。印象変わるな。

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