食中毒の落とし穴
これからのシーズンに増加する食中毒。しかし食中毒菌が繁殖しても臭いや色などでは判別は困難。そこで今回は食中毒の要注意事例を紹介する。
最初の事例だが、朝食に用意した炒飯を夕食まで常温保存、夕食時に再加熱して食べたら皆が食中毒になったという事例。食中毒の原因はセレウス菌。土の中などに普通にいる菌で、10~50度で発育して熱を加えると多くが死滅するという。しかし炒飯は作る時と食べる前に加熱されている。なぜ食中毒をしたのか。そこでパスタを作ってセレウス菌の実験。和風、クリーム、ナポリタンの3種を作って、作った直後はいずれもセレウス菌は検出されず。しかし常温で12時間保存後はナポリタンはセレウス菌が検出されなかったのに対し、クリームパスタが3200万、和風パスタが4.4万という結果。クリームパスタは栄養が多く菌が繁殖しやすく、ナポリタンは酸が菌を抑えたと推測できるという。このように菌が増殖した原因は、加熱時に芽胞の中に菌が入って生き延びていたからだという。なお再加熱すると菌は死滅するが、菌が出した毒素は熱に強いのでこれで中毒するのだという。冷蔵庫で10度以下での保温が重要だという。
食中毒予防の3原則は「細菌を付けない」「細菌を増やさない」「細菌をやっつける」であるという。大抵の菌は熱で殺せるし、5度以下にすると増殖できないという。
魚のせいでひどい目にあった例
次は釣り上げた魚で大変な目に合った例。友人が釣ったイシガキダイを刺身や寄せ鍋で食べたところ、夜になって激しい吐き気と腹痛に襲われ、病院に運ばれたものの原因は不明で、翌日には吐き気と腹痛は治まったものの、激しいけん怠感に襲われるようになり、3日後には冷たいものを触っただけで激痛を感じるようになったのだという。何と完治には1年かかったという。原因不明とされたのだが、シガテラ毒であったことが判明したという。うずべん毛藻が作るシガトキシンという毒が食物連鎖で生体濃縮したのだという。筋肉にも毒が存在する上に熱にも強い毒だという。本来は南方の毒であったが、海水温の上昇で本土でも発生するようになったという。市場に出る魚は処理済みであるが、釣り上げた魚などが要注意だという。
なお魚関係の食中毒では寄生虫によるものが多く、代表的なものはサバなどに寄生するアニサキスである。なおある程度の時間で死滅するが、それまでは七転八倒することになる(実は私は学生時代に経験している)。対策はしっかり加熱か冷凍すること。この時に私は七転八倒して親に「救急車を呼んでくれ」と頼んだんだが、親に「腹痛ぐらいで救急車なんか呼ぶな」と朝まで放置され、そのことを私は今でも恨みに思っている。ちなみに翌朝になって病院に行ってしばらくした頃にはようやく治まった(その時は原因不明で終了。しかし後で調べてみると典型的なアニサキスの症状。)。
有毒植物の恐怖
最後は家庭菜園での落とし穴。菜園に植えていたニラでニラ玉をしたところ、食べた家族が30分後に食中毒の症状が出たというもの。これの原因は庭に植えていたニラと間違ってスイセンの葉も採ってしまったこと。スイセンの葉にはリコリンという毒が含まれており、食べると30分以内に嘔吐・下痢・頭痛などの症状が出て、ひどい場合には命を落とすという。このような有毒植物による食中毒は、2013年からの9年間で821人も被害者が出ているとのこと。よく見れば区別は出来るが、素人判断は危険なのでニラのそばでは絶対にスイセンを栽培しないようにとのこと。
以上、梅雨時に発生が急増する食中毒について。とにかく要注意なのは「危険な食べ物は臭いや味で分かるという考えを持たないこと」である。腐敗は味や臭いで分かっても、菌の繁殖はそれでは分からないので、見た目は変わっていないけど菌が大量にいるってことは普通にあるので。それと素人がよく勘違いしているのは「菌を熱で殺したら大丈夫」という考え。菌と毒素は別物である。実際にあの大事件となった雪印での大量食中毒は、社員がこの考えを持っていて菌で汚染された牛乳を殺菌して使い回しをしていた結果、蓄積した毒で食中毒が発生したという症例である。
なおシガテラ毒は最近になって温暖化絡みでしばしば話題になっている。本来は毒を持たない魚が有毒化するので恐ろしい事例である。また寄生虫だが、これは特にサバなどには普通にいるので要注意。なおサバ以外ではイカなども有名(そう言えば「ダンジョン飯」でクラーケンは食べられたものではないが、それに付いていた巨大寄生虫を蒲焼きにして食べるという話があったな)。目で細かく観察して除けという話もある。また最初から加熱か冷凍すれば安心。要注意は刺身。実は私の時も青魚の刺身でやられたようである。
忙しい方のための今回の要点
・これからのシーズンは食中毒が増加する。菌が繁殖しても見た目や臭いなどには変化が生じないので要注意。
・セレウス菌などは10~50度繁殖し、加熱して菌が芽胞の中で生き残り、温度が下がってから再繁殖する。繁殖を防ぐには冷蔵庫などで10度以下で保存すること。
・なお再加熱で菌を死滅させても、菌が繁殖時に発生した毒素が残るので食中毒が発生するので注意。
・また釣った魚を食べて激しい食中毒の後に神経症状で苦しめられた例があるが、これはシガテラ毒によるもの。本来は南方系の毒だが、海水温上昇で本州でも見られるようになって来た。
・またニラと間違って有毒のスイセンの葉を食べた例もあり。このような有毒植物による食中毒もこの9年で821人の被害者が出ている。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・菌を付けない、増やさない、やっつけるが3要素と言っていたが、まさにこれに尽きる。人間の周りは菌だらけなので。もっともその一方で、過度な除菌も人間自身の身体を弱くすることは知られている。本来の人間は少々の菌には負けない抵抗力を持っていたはずなんだが。
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