教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

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番組リスト

6/2 サイエンスZERO「磁力が未来を引き寄せる!"磁気技術"が支えるデジタル社会」

デジタル社会の基礎を支える磁気の研究

 デジタル社会の基本となるデータはデータセンターのハードディスクに記録されている。しかしこのデータを支えるのは磁気に関する基礎技術研究。というわけで今回は磁気技術の画期的基礎研究について紹介するという。

ハードディスクは既に容量の限界に達していた

 ハードディスク上のデジタルデータはディスク上に磁気で記録されている。これらの記録はディスク上の微小磁石に磁力の方向として記録されている。そして容量の増加のためには記録密度を上げるべく、1つのデータを記録する微小磁石の数を減らし続けてきた。しかしこの磁石のサイズは現在は8ナノメートルが限界(これ以下になると温度の影響で磁力が消失する)があり、容量は既に上限に達しつつあった。そこでさらに容量をアップするべくこの磁石をより小さくするための基礎研究がなされてきた。

 

 

画期的な新材料を実用化に成功

 NIMSの高橋有紀子氏は2001年より微小磁石の研究を続けてきた。従来のコバルト-クロム-白金では8ナノが限界なので、より熱に強い鉄-白金系に取り組んだが、最初はキチンと揃った磁石が出来なかったという。カギとなるのは各磁石の間の壁の素材であるが、何度も失敗を重ねた挙げ句に炭素を使用した時に挙動が変わることを発見、製法を様々に検討した結果、6ナノメートルという一回り小さい磁石の作成に成功したのだという。なお現在この鉄-白金系の磁石を使用したハードディスクの大量生産は今年にようやく始まるのではとのこと。

 またデータセンターでは大量の電気を使用しており、2026年には世界のデータセンターの消費電力は日本全体での電気消費量に匹敵するようになると試算されている。そこでこの電力消費を減らすという意味でもハードディスクの容量が増大すると、動かす台数が減少するので環境問題の観点からも意義があるという。

 

 

磁気を使用した高速省エネRAMの開発

 さらに磁気を使ってコンピュータの性能を上げる研究もなされている。磁気抵抗ランダムアクセスメモリー(MRAM)を搭載することで電力消費が減り、起動なども高速化するという。そのMRAMの基礎になった研究を行ったのが東北大学の大野英男教授。電子はスピンを持っているが、MTJ素子は絶縁層を挟んでそれぞれ磁性を持たせることでデジタル信号を記録するものである。しかし従来のスピンが横を向いているものでは、このスピン反転に大きなエネルギーが必要のために実用化が困難であった。しかし大野氏はMTJ素子の磁石部分を薄くすることでスピンが垂直に向き、それによって反転のエネルギーが大幅に減少したことで高性能な素子の開発が可能となったという。このMRAMは電気が通っていなくても情報を保持できるので画像解析などに使用した場合、エネルギー消費が半減するという。

 

 

 以上、大きな開発に結びついた基礎研究について。ちなみに日本政府は基礎研究は金にならないので、基礎研究を放棄して実用研究だけを重視するという方向に大学を向かわせようとしているが、これがまさに研究開発現場を知らない馬鹿の考えそのもの。基礎研究を軽視して画期的な新規開発など出来るわけもなく、それがかつての技術立国がここまで低迷するようになった原因となっている。まさに目の前の金だけを追い求めた結果の売国的政策とも言える。自分に入ってくるキックバックだけを最優先する政治家ばかりが国の中枢を占めた結果である。

 さて今回ハードディスクの容量を上げる画期的素材として鉄-白金系が登場したのだが、正直なところ8ナノが6ナノになったというのがどれだけ画期的なことなのかは、素人の私には今ひとつピンとこなかった。ここのところはもっと具体的に今まで最大○テラだったハードディスクが、この技術で○テラまでいけるとかいう具体的な話が欲しかったところ。そうでないと8ナノが6ナノと言われても「そんなにすごいの?」って言うのが正直なところである(面積として約半分になるから、最大容量が大体倍ぐらいになるのかなというイメージはあるが)。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・デジタル社会の基盤を支える磁気に関する基礎技術研究を紹介。
・現在のハードディスクは磁石のサイズが8ナノが限界であり、容量の上限が見えていたが、NIMSの高橋有紀子氏が実用化した鉄-白金系ではそれを6ナノまで微少化できることで、ハードディスクの容量が増やせるメドがたった。
・磁力を使ったMRAMはコンピュータの消費電力低減や高速化に効果があるが、これを実用化するに当たって、東北大学の大野英男教授が開発した電子スピンを垂直にするという方法が画期的なブレイクスルーとなった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあこの番組のスタッフは恐らく基礎研究の重要性を知っているから、あえて「基礎研究」と銘打って、基礎研究が画期的開発につながった例を紹介したんだろうと思う。
・しかしこれに政府批判的なニュアンスを含んだら、直ちにスタッフが左遷喰らいますから、その辺りは「お察しください」なんだろうな・・・。

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