広重の絵の秘密を解明する
今回のテーマは江戸時代には最大の売り上げを誇り、現代でも最も有名な浮世絵作品であり、永谷園で知られる「東海道五十三次」の作者である歌川広重。その人気の秘密に迫るとしている。しかし要は主催してハルカス美術館で広重展が開催されるのでそれの宣伝というのが主な目的。
広重展開催中である
まず番組では実際に東海道を旅して広重の作品と比較すると言うことから行っている。最初は日本橋であるが、橋は当時とは変わっているが、今でもその痕跡のあるリアルな風景であると言う。このリアリティが魅力の一つだという。
次は箱根を訪れているが、有名な箱根湖水図はあからさまにデフォルメが入っているのが現地に行けば分かる(というか、行くまでもなく分かるだろうが)。箱根の山の厳しさの感覚を絵にデフォルメで描いているのだという。
架空の風景なども作り上げた
さらに蒲原についてはしんしんと雪が降る風景を描いているが、実際に現地の人に聞くと温暖な蒲原ではまず雪が降ることなんてないという。あり得ない風景を描くことで作品にしたのだという。
そこから進んで大津に行くと、なぜかびわ湖ではなく山の中の茶店を描いている。広重は茶店の名物の餅を描くことで観光ガイドのような役割も果たしているという。さらに最後の一枚は京の三条大橋だが、そこに本当には見えないはずの比叡山を描いている。これ以外にも京の観光名所の定番を描き込んでいるという。居ながらにして東海道の旅を想像できる仕掛けであるという。
視線誘導のテクニックに巧みな謎かけ
さらに飛ばされた笠を追う人を描いている四日市の絵を元にして、視線の動きを追うという実験を行っているが、同じような風の風景を描いた北斎の絵画では視線は画面を広範囲に見ているのに対し、広重の絵では視線は人物に集中しているという。広重は人間に対する好奇心が強く、人間観察をよくしていたことがそこに反映しているのではとのこと。
最後は最晩年の名所江戸百景について。広重が最後の大仕事として手がけた作品であるが、中には万年橋の作品のように手前に亀を巨大に描くなど、風景を隠しているようなものまである。しかし万年橋の亀は放生会のことをテーマにしているなど「分かる人には分かる謎かけ」をしているのであるという。また描かれた場所をマッピングしていくと、江戸の範囲からはみ出したものが10箇所もあるという。しかしそれらの場所は実際は江戸の人々の生活と密接に関わっている地であるという。
広重がこのような江戸の人に向けた絵を描いたのは、その半年前の安政の地震で江戸は壊滅していた時であり、かつての江戸の風景を描くことで人々を勇気づけたのではという。
以上、広重展の宣伝。なお本展は私も訪問しており、その経緯は私の別ブログの「徒然草枕」の方に記載してある。
私はそこで広重のデフォルメについても触れているが、実際にはそのようなデフォルメを使用するのは広重に限った話でなく、浮世絵の常套手法であり、むしろ広重のデフォルメはおとなしいぐらいの場合もある。私が広重の絵から感じたのは、やはり構図の取り方の上手さである。デフォルメなどもその構図の安定感のために使用してる感が強い。
また番組では広重の人物観察の細かさのようなものを挙げていたが、私から見たら広重の描く人物に関しては、むしろ他の絵師と比べたときに強烈な個性はないように感じる。やはり広重の真骨頂は緻密に構成した風景画だというのが正直な感想。
忙しい方のための今回の要点
・広重の東海道五十三次は大ヒットして、江戸時代の浮世絵では最大の売り上げを記録している。
・広重は日本橋ではかなりリアルに風景を描いたの対し、箱根では風景をデフォルメし、蒲原ではまず降ることのない雪の風景を描くなどの脚色を行っている。
・さらに大津では名物の団子を描き、京では名所を無理矢理に位置関係を無視して持ってくるなど、観光ガイドの要素も含ませている。
・また広重の四日市の作品を見せたとき、鑑賞者の視線は人物を追っていることが分かるが、これは広重が人間観察に長けていたことに関係するという。
・最晩年に広重が描いた名所江戸百景は、実は安政地震で江戸が壊滅した半年後であり、地震前の風景を描くことで江戸の人々を勇気づける意味もあったという。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・広重に関しては私の広重展レポートにも書いたんだが、非常に上手い絵であると感心はするんだが、北斎や国芳などのようなつかまれるところがないというのが本音。やっぱり私にはいささか上品すぎる絵なんだよな。
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