利き手はいつから登場するか
今回のテーマは、生物にとって左右とは何かという話。実はこのテーマ、以前にヒューマニエンスでも扱われており、今回と部分的にネタが被っている。
京都大学の田村大也助教によると、ゴリラにも利き手があるらしい。チンパンジーなどの利き手の起源として道具の使用が原因との説が出たのだが、彼はではもっと以前の道具を使用しないゴリラに利き手があるかを調べたのだという。2年半かけて西ローランドゴリラの行動を観察したところ、アフリカショウガを抜いて食べる行動などの両手協調操作(両手を使っての作業)で、より細かい作業を実施する利き手が明らかに存在したという。その結果、群れの7割が右利きであることが分かったという。田村氏はこの両手協調操作が利き手の起源と考えている。
左右対称でない生物
多くの生物が左右対称の形態を有しているが、中には左右非対称の生物も存在する。それがアフリカの湖に生息するペリソーダスミクロレピス。この魚は他の魚のウロコをかじり取って捕食するので、口が右か左に曲がっており、それによって攻撃方向が定まるのだという。この分化がどの段階で起こるかだが、生まれた時から既に遺伝で定まっているという。しかしこれを幼魚はまだ認識していないようで、散々狩りに失敗してから経験的に利きを学ぶという。
身体の形は左右対称だが、内臓は非対称である。ではこの左右はいつ決まるのか。東京大学の加藤孝信助教によると、マウスの受精卵からの分裂を観察したところ、受精7日後の初期胚に現れるノードで左右が決まるのだという。ノード内の繊毛の流れで決まると言われていたが、その微細な世界を加藤氏は観察に成功したのだという。さらに光ピンセットを使用して繊毛を動かすことでmRNAが活性化することが観察できたという。
以上、左と右についてなんだが、やはり番組の尺が短いこともあって、先のヒューマニエンスに比べるとザッとした紹介で終わってしまって、だから何なのという切り込みがいささか浅い感はあった。まあ何のために左右を分けるかとか、人はなぜ左利きが1割ぐらいの比率で常に存在しているかという辺りは、未だに学会でも解決していない問題らしいので、簡単に結論付けられないことだろうか。
なお私の考えは「社会的に矯正をされなかったら、左利きはもっと5割に近いぐらいの比率で存在する」というものである。実際にアスリートの世界などでは左利きが有利になる競技などがあり、そういう世界では左利きが半分近くいたりするという。なおこの説に私が至ったのは、私自身が「社会的に無理矢理に一部右利きに矯正された左利き」であるからである。私は本来は左利きであるが、文字とはさみに関しては無理矢理に右利きに矯正された。しかし箸については頑として「そちらの方がもちやすいから合理的だ」と右を強制する小学校の教師に最後まで抵抗して(おかげで私の小学校低学年時の評価はボロクソだったが)、未だに左を通している。これ以外でもボール投げは左、弓を引く場合も左である。
なおマウスは一番最初に右で持ったので右で使っていたが、右手が腱鞘炎を起こしたために使えなくなった時に左に切り替えたら、2日間で完全に適応したために腱鞘炎の治療後には両利きになっている(PCが右にある時には右手でマウスを使い、左にある時には左手でマウスを使用している)。これに加えて、私はワープロはカナ漢モードが標準であるため(倍速カナタイプが標準)、私が設定したPCを他人が触ると非常に戸惑うことになるため「トラップ」と呼ばれている。
忙しい方のための今回の要点
・利き手の登場は道具の影響という説があったが、ゴリラの研究から道具を使用しないゴリラにも利き手があることが明らかとなり、両手協調操作が利き手の起源ではないかという説が唱えられている。
・多くの動物が左右対称だが、他の魚の鱗を剥がして食べるペリソーダスミクロレピスは、生まれた時から口が右か左に曲がっている。ただし幼魚は自分がどちら利きかは狩りの中で学んでいくという。
・左右の分化の始まりだが、マウスの受精7日後の初期胚に現れるノードで左右が決まることが確認された。ノード内の繊毛の動きでスイッチが入るのだという。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・利き手を作るのはその方が脳の半分だけを使うから効率的というような説明を番組ゲストの先生がしていたが、これにしても納得できるような出来ないようななんですよね。
・もっとも両利きだと、咄嗟の時にどちらの腕で対応するか一瞬迷うことがあるのは事実ですが。
・なお私はかなりの悪筆なんですが、これはやはり利き手でない右でペンを持つことを強制されたせいだと思います。というのも、実は日頃全く文字を書かない左手でも、その気になれば速度は遅いものの右と大してレベルの変わらない文字を書けるからです。というわけで、私が小学校の時の頭の硬い教師は、私の可能性をつぶしたと認識してます。
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