教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/25 NHK-E サイエンスZERO「ついに見えた!宇宙の夜明け ジェイムズ・ウェッブ最新報告」

宇宙の起源について観測するジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

 2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡について、以前にこの番組では打ち上げ直後の特集を組んでいるが、その後さらに観測の成果が上がってきたとのことで、それらについて報告するとのこと。

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 そもそもジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が目指しているのは、宇宙創生のビッグバン直後の星などを観測することで宇宙創生の謎に迫ろうというものである。最初に星が出来てくる時代はビッグバンから1億年後だが、その頃が宇宙の夜明けといわれており、その時代の星を狙っている。しかしそれにはもうすごく遠い星を見る必要があるが、遠すぎるせいで光が赤外線に波長が伸びてしまうので、大気内では吸収で観測不能なので宇宙望遠鏡の出番だという。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

 

 

従来の説が次々に書き換えられつつある

 東京大学宇宙研究所の播金優一助教は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像を観察して古い銀河を見つけ出すということを行ったという。その結果、宇宙創生から数億年以内に誕生したと思われる銀河を見つけたという。精密測定によって3.8億年のものと判断され、これ以外にも4億年のものも見つかったという。現在、全世界で4億年の銀河が10個見つかっているが、これは従来の想定を覆すほどに数が多いという。従来の予測では3つぐらいと予想されており、現在は20個以上見つかる可能性が浮上しており、今までの理論と全く合わないのだとか。宇宙の夜明け時代に星が生まれやすい何かのシステムがあったか、従来のガスの分布の予測が間違っていたのではと考えられているとのこと。

 さらに超巨大なブラックホールも見つかっている。東京大学宇宙進化研究センターの松岡良樹准教授は宇宙の夜明けのブラックホールを観測する国際チームのリーダーで、特に銀河の中心にある超巨大ブラックホールの観測を行っているという。超巨大ブラックホールは数が少ないことから、視野が広いすばる望遠鏡から超巨大ブラックホールを探し(10億の天体から5000に絞り、さらに1つ1つ調べて500まで絞り込んだ)、それらをさらにすばる望遠鏡で観察して確認作業を行ったのだという。その結果、200以上の超巨大ブラックホールが見つかった。しかしすばる望遠鏡の感度では判別不能のものがあるので、それらをジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測することで、その中からも超巨大ブラックホールが次々と見つかっているという。ただ超巨大ブラックホールが成長するのには10億年はかかるとみられていることから、宇宙の夜明けに超巨大ブラックホールが見つかるのは従来の理論ではおかしいのだとか。しかも海外の研究者から宇宙誕生から4億年の超巨大ブラックホールが見つかったとの報告もあったとか。そこで超巨大ブラックホール生成の新理論も求められているという。

 また酸素や炭素などの重元素の生成起源についても新たな事実が分かってきている。今までの観測では20億年以降は重元素が満ちていることが知られていた。国立天文台の中島王彦特任助教によると、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の分光観測でさらに古い時代を探ったところ、7億年の銀河では重元素の指標となる酸素の量は今とは変わらないが、5億年前のものでは少ないことが分かり、重元素の生成は7億年以降ぐらいであることが分かったという。

 

 

 どうやら宇宙生成に関する基礎理論がいろいろとひっくり返りそうになってきた。研究の進展によって新事実が判明し、今までの説が吹っ飛ぶというのは科学の世界では付き物だが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はそれだけのポテンシャルを持っているという話。特に重元素生成の起源が今までよりも早くなったとなったら、生命発生までの時間的余裕が長くなるということになるから、今までとは全く違う生命発生メカニズムの可能性なども考えられるのではとも思える。

 まあこれだけの新事実が判明したら、多額の費用をかけて打ち上げした価値があったというものであるが、基礎研究とかに全く価値を感じずに金につながる研究だけを行えとか言っている日本政府とかだったら、これにはなかなか価値を見出さんだろうな・・・。そもそも基礎科学的成果の価値を理解するのには高度な知性が必要だが、今の世襲の馬鹿ボン共にはその知性は無く、むしろ知性豊かな研究者に対する嫉妬ばかりがあって足を引っ張ろうとするから。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、宇宙生成の謎に迫るべく宇宙の夜明けと言われる時代の遠い銀河の観測に利用されている。
・その結果、宇宙の夜明けの時代に生成した銀河の数が、今までの説で予測されるよりも遥かに多かったことから、従来の説の見直しが必要となってきている。
・また星々の生成に影響を与える超巨大ブラックホールも、今までの説で予測されるよりも遥かに古いものが発見されており、超巨大ブラックホール生成に関する新理論も必要となってきている。
・さらに生命にもつながる重元素の生成について、今までは20億年以降には存在していることは分かっていたが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に観測の結果、その起源が7億年ぐらいまで遡ることが判明した。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ研究者としてはワクワクする成果でしょうね。これでまた人類の科学が進歩することになります。ただこの世界は、1つの謎が解けるとさらに新たな謎が出てくる世界なんで、現在がまさにそのようですね。もしかしたら全く新しい物理学理論の登場なんかにもつながるかも。

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