教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

8/31 NHK 新プロジェクトX~挑戦者たち~「祈りの塔1300年の時をつなぐ国宝薬師寺東塔 全解体修理」

薬師寺再建物語の後編

 どうも先のシリーズに比べてネタがしょぼいと言われている新シリーズですが、ここのところはオリンピックを意識してのスポーツネタという「どうでも良いネタ」が続いたのであえて無視しました。で、夏休みが明けての第1回は薬師寺東塔修理。確か西塔復元は前シリーズでネタになっていたと思うが。また金堂復元の物語はリストア版で扱っている。

 「鬼」の西岡が登場する金堂再建の物語

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 なお東塔再建に合わせて、かつての薬師寺再建の経緯もヒストリアに登場している

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1300年ぶりの大修理を託された西岡の弟子

 創建時から変わらぬ姿で1300年の間立ち続けてきたのが薬師寺の東塔。しかし長年の間に劣化が進み倒壊の危機を迎えていた。そこで初めて全解体修理が行われるが今回はそれがテーマ。

薬師寺東塔

 1990年代、薬師寺では「鬼」と呼ばれた宮大工・西岡の元で金堂、西塔などの復元が行われた。そこの現場に加わった新入りが石井浩司。工務店の家に生まれた29才で、仕事よりも矢沢永吉や競馬を愛する男で、「薬師寺の再建工事を勉強してこい」と送り込まれたが、半年もしたら帰るつもりでいた。しかし西岡に出会った途端に自分のやり方は通用しないと感じたという(西岡は笑顔ではあるが目の奥に鬼がいたと言っている)。西岡の元で鍛えられた集団は一流で、石井も自分も一流の宮大工になりたいと考えるようになったという。彼は岡山に戻らず修行を続ける。そして10年、亡くなった西岡の仕事を引き継いで再建工事の中心を担うようになり、もう技術では誰にも負けないという誇りを感じるようになっていた。ただし西岡の「創建当時の工人の心になって仕事をしなさい」という言葉が常に引っかかっていた。西岡はそれを知るには東塔の修復工事しかないと待ち続けていた。

 

 

難題である心柱修復を託された専門家

 2012年、ついに東塔の解体修理が始まることになる。国宝の修理でなるべく元の部材を残す必要がある。石井は解体した1万3千の部材を1つ1つ確認して補修する役割を担う。しかし部材の痛みは予想以上だった。部材は腐り歪んでいた。最大の問題は心柱であり、これは文化財修理のスペシャリストである松本全孝に託される。しかしその松本も根本からシロアリに食い荒らされて空洞が3メートルにも達する心柱の状態に驚く。

 石井は1つ1つの部材をチェックして、腐りを取り除いてそこに新しい部材をピッタリはめ込むという途方もない作業を行っていた。しかし工人の心の謎を解く手がかりを探していたがそれ見つからなかった。しかし作業が中盤にかかった時、屋根を支える部材が迷いなく一振りで切り落とされているのに気付く。なぜここまで迷いがないのか、謎は深まっていく。

 一方の松本は心柱の修復に悩んでいた。通常なら痛んでいる部分を切り落として継ぐものだが、松本はどうしても心柱を切りたくなかった。彼は修行時代に先輩から古い部材を削るなということを仕込まれており、それ以来古い部材を活かす技術を極めてきていた。そして半年考えた結果、心柱の腐食部分を削って段を付けて加工し、下から同じ形の木材をはめ込んでそのまま心柱の長さを残す方法を考え出す。この前代未聞の方法には実現が可能であるのかという疑問も湧いたが、松本は必ず成功させると答える。松本は狭い心柱の中に入って作業するために夕食を抜いたという。そして腐った心柱を大量の木くずを浴びながら削った。そして1年後、前代未聞の工法を成功させる。

 

 

困難な作業をやり遂げたプロ達

 こうして心柱は立ったが、まだ問題はあった心柱の頂上につけられた銅製の水煙がボロボロになっていて修理は不可能と判断され、以前と同じものを新たに作ることになった。1300年の間に歪んだりした水煙をそのまま再現するという難題に富山の高岡の鋳物職人達が取り組む。そして一発勝負の鋳造に成功する。

薬師寺東塔の水煙

 一方の石井は永らく自分を支えてくれた妻がステージ4のガンを患っているという報に接していた。それでも石井は仕事に挑み続けた日中は作業を行い、帰宅すると家事をしながら闘病する妻を支えた。そんな時、古代の工人達の作業には自分の身近な人達の安穏を祈る気持ちが入っていたのではないかと考えつく。それから彼は祈りを込めて作業を続ける。そして最後に高岡で作られた水煙が取り付けられる。2019年9月、ついに東塔が姿を現す。9割の部材をそのまま活かしての修復だった。石井は闘病中の妻に仕事が終わったことを伝える。

 

 

 以上、前回の金堂再建に続く後編のような雰囲気で進んだんだが、内容的には今ひとつピンとこないなってのが本音。石井と松本をメインに据えて、石井と妻(この後に亡くなっている)のエピソードから石井の悟りにつなげているが、「祈り」の気持ちと言われてもな・・・。それがどう技術と関係するねんというのが本音。何か無理くりに落涙エピソードを盛り込んだ感がある。

 まあ全く技術が絶えていて何もないところから再建に挑む必要があった「鬼」の西岡の物語に比べると、既にその現場で技術を磨いてきた弟子の石井の物語だったら、どうしても熱量がやや劣るのは仕方ないところか。また松本の心柱の話にしても、以前にやっていた姫路城再建の心柱丸ごと交換のために全国を木材を探して走り回ったエピソードよりも、やや熱量が落ちる感はあった。なお松本が取った工法、内部に新しい部材をはめ込んだのは良いが、年月が経つと周りに薄く被さった形になっている元々の心柱に亀裂が入ったりはないんだろうかということは少し気になったところ。まず十二分に乾燥させた材を使用したとは思うが、それでも年数の異なる部材を組み合わせることに将来的なサイズ変形による問題は起こらないんだろうかなんてことを考える。まあ私のような素人ではなくて、バリバリのプロなんだからその辺りはすべて考えてのことではあるんだろうが。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・順次再建が続けられた薬師寺だが、創建時から1300年経った東塔が劣化による倒壊の危機に瀕し、大規模な解体修理が成されることになる。
・工事を担当したのはかつて金堂修復に携わった「鬼」の宮大工・西岡の弟子であった石井浩司。彼は解体した1万3千の部材を1つずつチェックして修復する膨大な作業に従事する。
・一方、基部の内部がシロアリにやられて腐食していた心柱の修復が問題となる。こちらは文化財修復のプロである松本全孝が託される。彼は心柱の材を切断しないために、内部を段を付けて繰りぬいて、そこに新しい材をはめ込む前代未聞の工法を提案する。
・松本は狭い心柱の内部に入って木くずを浴びながら困難な仕事を成功させる。
・次に問題となったのは心柱の天辺に付けられた水煙。銅製の水煙は各所に亀裂が入ってこのまま修復は不可能と判断され、今の状態のものを新たに復元することに決定される。
・この困難な課題には高岡の鋳物職人達が取り組み、見事に成功させる。
・その頃、石井は部材の作業を行いながら工人達が作業に込めた祈りの心に気付く。
・そして2019年9月、ついに東塔の解体修理が終了する。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・基本的には前シリーズのパターンを踏襲しているが、それ故に二番煎じスケールダウン感がつきまとうんだよな。どうもこの新シリーズでは毎度それが問題。スカイツリーの話にしても、東京タワー後編みたいな感じだったがどうしても熱量は低いし、富嶽開発にしても最初のスパコン開発のエピソードには及ばなかったな。
・やっぱり昭和のドラマをそのまま平成・令和に持ってくるのに問題があるんじゃないかな。元々のエピソード自体があの頃に比べるショボいから、いくら熱い展開を狙っても無理がある。
・それにそもそも制作側自体にも、あの頃のスタッフほどの熱量がないんじゃないかと感じる。すべてにつきまとう「所詮は二番煎じ」。

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