コケの環境調整能力に注目
地球上のいたる場所に存在し、確認されているだけで2万4千種も存在するといわれるコケ。コケはその強力な吸収力や環境対応能力が注目されている。
そもそもコケは水中の藻類が進化して地上に進出した生物であるという。環境への影響力は大きく、尾瀬の絶景はコケと不可欠な関係にあると言う。尾瀬の湿原はミズゴケが大量の水を保持することで湿気を保っているのだという。自身の体重の10倍もの水を保持することが出来るのだとか。さらに湿原の植物が堆積されると分解されずに泥炭となるが、ミズゴケは酸を出すことで微生物を遠ざけ、泥炭の分解を阻止しているという。尾瀬では6メートルも泥炭が蓄積しているが、これらは大気中の炭素を貯蔵する働きを成している。世界中でミズゴケの働きで泥炭として貯蔵されている炭素は600ギガトン(大気中の二酸化炭素の量と等しい)に及ぶという。ミズゴケは環境調整機能を持つのである。
コケの水分保持能力を利用して金を回収する
一般にコケは水を保つ力が大きく、八ヶ岳での調査では1メートル四方のコケが、1回の降水で2.5リットルの水を吸収することが分かったという。コケは森のダムと言えるという。第二次大戦の時にはミズゴケをガーゼとして使用したという例もあるという。また植木に土の代わりに使用されることも一般的である。コケが迅速に大量に水を吸収出来るのは、身体の表面で直接吸収するからだという。コケは水分の蒸発を防ぐクチクラ層が薄いことで、そのようなことが出来るのだという(ということは、周囲が乾燥したら逆に乾燥するということか)。
この吸収力を利用して金を取り出そうという研究も成されている。井藤賀操氏は焼却灰から有害物質を浄化する研究の過程で、ヒョウタンゴケに金が吸着することを発見したのだという。ヒョウタンゴケの原糸体を金イオンを含む溶液に入れると、細胞内に金の結晶が析出するのだという。植物はマイナスを帯びているから金イオンを引き寄せるが、コケはクチクラ層が薄いので体内に取り込めるのだという。現在、金メッキ工場などでは排水中の金を化学物質による吸着で回収しているが、これをコケに変えることで環境負荷を低減出来るという(化学物質の28倍も吸着したそうな)。さらにはプラチナや鉛などの回収もコケで可能であることも分かっているという。
コケを使って火星に移住する
さらにこのコケの力を利用して宇宙開発に使用しようという計画もある。北海道大学の藤田知道教授は2019年に国際宇宙ステーションでヒメツリガネゴケの栽培に成功しており、このコケの遺伝子の研究をすることで、宇宙での作物などの遺伝子への影響などを解明出来るという。さらにはコケを火星に移植することでテラフォーミングに利用出来ると考えている。コケを移植することで土壌を作り出そうという計画である。目下、模擬デゴリス(火星表面の岩)上でのコケの発芽に成功しているという。
コケのパワーに注目する話。コケはあちこちに存在するが、それだけあちこちに存在出来るということは環境適応能力が高いと言うことになるので、火星などでも定着出来るのではということである。もっとも火星にいくらか水が存在することが前提ではあるが。
なおコケで金を吸収するという話、同じようなことを珪藻土のシートで行うという技術を聞いたことがある。海中の熱水噴出口の近くとかにこの珪藻土シートを敷いて置いたら、水中の金を吸着出来るのだとか。珪藻土は藻類の化石であるから、まあコケとは共通項もあるか。もっとも金の濃度がかなり高い金メッキの排水とかと違って、海水から吸着となると、採算性はまず合わないが。
ところで番組にコケの研究者がゲストとして登場していたが、彼がいかにもコケ愛に満ちたコケオタクという独特の雰囲気を醸し出していた。やっぱりどの世界でも入れ込んだ研究者ってこういう雰囲気になるんだろうなと妙なところで感心。
忙しい方のための今回の要点
・地球のあらゆるところに生息するコケの能力に注目。
・まずコケは環境調整能力があるという。尾瀬ではミズゴケが湿地の水分を保ち、さらに泥炭の分解を阻害することで空気中の炭素を固定する役割を果たしている。
・世界中でミズゴケの働きで泥炭として貯蔵されている炭素は600ギガトンもある。
・コケは瞬時に大量の水を吸収出来るが、それは体表のクチクラ層が薄いせいで、体表から直接に水分を吸収出来るからである。
・またヒョウタンゴケを使用すると金の吸着が可能であることが分かっており、これを利用してメッキの排水中から金を回収する技術の開発が進んでいる。
・さらにコケを火星に移植して土壌を作らせてテラフォーミングに利用しようという構想も存在する。
忙しくない方のためのどうでもよい点
・コケって植物の中ではかなり低級な存在ですが、やっぱりそういうものほど環境に対する適応力はかなり高い。そういう点でテラフォーミングっての興味深い。
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