教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/21 NHK 新プロジェクトX~挑戦者たち~「小惑星探査機はやぶさ 奇跡の地球帰還」

満を持してのはやぶさ登場

 今回ははやぶさ登場。まあ日本で平成以降のプロジェクトで華々しく成功したものと言えばこれぐらいだから、これが今シリーズの本命だろうことは想像がつく。

小惑星に着陸するはやぶさ

 1981年、アメリカがスペースシャトルを打ち上げていた時代、日本は無人の小型ロケットを打ち上げるのが限界だった。宇宙科学研究所(JAXAの前身)の川口淳一郎はそのような状況に悔しさを感じていた。日本が存在感を示すべく、川口はNASAに合同勉強会を申し入れて小惑星ランデブーの計画をプレゼンする。重力の小さい小惑星に接近して観測をするのは探査機のコントロールが難しい。技術を共に開発しようと持ち掛けたのだが、8回目の勉強会でNASAはこれを単独でやると言い出す。アイディアを盗られたと感じた川口は、「それなら我々はサンプルリターンをする」と啖呵を切る。

 

 

カギを握った新エンジン開発

 日本に帰った川口はメンバーを集めて検討を始める。一番の問題はエンジンだった。最低でも往復で4年はかかる行程を乗り切るには従来の化学エンジンとはことなる燃費の良いエンジンが必要だった。解決のキーマンとなったのは國中均。彼はイオンエンジンという新しいエンジンを研究していた。このエンジンは従来のエンジンよりも燃費が10倍良かったが、まだ宇宙空間で長時間運用出来る状態ではなかった。

 1996年、国から正式に予算が下りてプロジェクトがスタートした。民間企業を含めた500人以上が開発に携わった。リーダーの川口はエンジンに対して1万4000時間の耐久性を求めた。しかし國中達はまだ150時間しか達成していなかった。150時間を超えるとマイナスの電気を発生させる機器の内部が融け始めるのが問題だった。様々な構造を試作すること10回以上、なんとか融けない構造を達成し耐久テストを実施、ようやく1万8000時間の目標を達成する。そして2003年、日本の威信をかけた小惑星探査機が完成する。

イオンエンジンで飛ぶはやぶさ

 

 

着陸には成功したがトラブルが続出

 2003年5月、探査機は打ち上げられてはやぶさと名付けられる。30人からなる運用チームがはやぶさを遠隔コントロールをする。そして打ち上げから2年4ヶ月、ようやくはやぶさから目的のイトカワの写真が送られてくる。しかしここからが砂を持ち帰るという最大のミッションだった。イトカワに着陸すると弾丸を発射して砂をカプセルに回収することになっていた。そしていよいよ着陸が行われる。しかしそこで異常が起こる。高度計がマイナスになったのだった。川口は機体を上昇させる緊急指令を指示する。問題は二回目のチャレンジを行うかだった。失敗すると地球に戻って来れない可能性がある。しかしまだ弾丸を発射していない状況で川口にはそのまま帰ってくるという選択肢はなかった。

 二回目の着陸が行われ成功する。直ちに離陸するが、ここで弾丸が発射されていないという問題が発生した上に、はやぶさとの通信が途絶える。どうやら着陸の影響で姿勢制御の装置が破損し、太陽光パネルを太陽の方に向けられなくなって電力を喪失したことが考えられた。こうなった探査機が再び見つかった例は今までない。メンバーは絶望的な気持ちになる。

 通信が途絶えてから一ヶ月、運用チームはまだはやぶさを探し続けていた。川口は一瞬でも通信が回復する可能性をたどっていた。まだチャンスはあると考えていた。そして通信が途絶えて二ヶ月後、管制室のモニターの波形の中にピークが現れる。はやぶさに指令を送る。そしてはやぶさは徐々に機能を取り戻していき、一年後についにはやぶさは地球に向けて飛び立つ。

 しかし地球まで後半年のところでエンジンが不調になる。エンジンに寿命が来たとすぐに分かる。ここまでエンジンに過度な負担をかけていた。4つのイオンエンジンのほとんどが機能を失っていた。川口は絶望的な気持ちになるが、ここで國中には最後の一手があった。複数のエンジンの故障していない装置を組み合わせて使うクロス運転のための回路を國中は密かに仕込んでいたのだった。未だ宇宙空間での運転例はなかったが、これでエンジンが甦る。2010年6月、はやぶさは地球に帰ってくるとカプセルを切り離し、自身は大気圏に突入して燃え尽きる。その前にはやぶさは地球の写真を送ってきた。そしてカプセルはオーストラリアの砂漠に降下して無事に回収される。

 

 

 以上、まさに技術立国日本の面目躍如の大プロジェクトだったのだが、まさに研究者の用意周到さと大胆な決断で成功したという例である。それでなくても宇宙開発は本家のアメリカでさえ「金食い虫」という批判が強いのだから、日本なんかこれが失敗していたらいよいよ惑星探査なんてやめる可能性が高かったのだから、宇宙開発事業の命運をかけたプロジェクトだったとも言える。

 で、今回は明らかにこの新シリーズの本命とも言える内容だったはずなんだが、はやぶさの成功については今までNスペその他で散々扱われたせいもあって、今更新しいことは何もない・・・。そのせいかドラマの方も何となく熱さに欠けて表層的にスベりまくった感が強い。実のところを言うと、思いの外全く盛上がらなかったという感が強い。

 そして本命が終わった後のこの番組はどうなるのかだが、次回はいきなり再放送の模様。まだ引っ張るのか・・・。しかしこれからまともなネタがあるとは思えんのだが…前回のメルカリなんて「オイオイ」としか言いようがない内容だったし。せめてMRJでも成功していたらネタになったんだろうが、あれは見事にプロジェクト×(バツ)の方のネタになってしまったし。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・宇宙探査の技術でアメリカに圧倒的な遅れのあった日本、宇宙科学研究所(JAXAの前身)の川口淳一郎はNASAに小惑星ランデブーのための共同技術開発を持ち掛けるが、NASAは単独で開発することを決定、頭に来た彼は日本はサンプルリターンを実現すると啖呵を切る。
・一番の問題は往復で最低でも4年かかる中で運用出来る燃費の良いエンジンの開発だった。鍵となってのは國中均が研究していたイオンエンジンだが、まだその耐久性は目標にはほど遠かった。
・1996年に正式にプロジェクトが開始、國中達は必死にエンジンの改良に努め、何とか目標の耐久性に達する。そうして2003年にはやぶさが打ち上げられる。
・打ち上げから2年4ヶ月後、ようやくイトカワに到達、着陸が試みられるが一回目の着陸では異常が発生して再トライなる。二回目のトライで着陸に成功するが、その後にはやぶさからの通信が途絶する。
・運用チームは必死にはやぶさを探し続け、二ヶ月後にようやくはやぶさとの通信の回復に成功、徐々に機能を復活させて一年後にようやくはやぶさは地球に向けて旅立つ。
・しかし地球まで後半年のところでエンジンがトラブルを起こす。ここで國中は複数のエンジンの故障していない部品を組み合わせて運用するクロス運転を実行、再びはやぶさのエンジンが始動、はやぶさは地球にサンプルカプセルを届けることに成功する。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・はやぶさネタは私の記憶にあるだけでもNスペで複数回、サイエンスZEROなんかでも扱ったはず。結局は今更ネタもなかったか。

前回のプロジェクトX

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