教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

9/29 NHK-E サイエンスZERO「テクノロジーで新発見!"遺跡科学"最前線」

歴史研究に使用される最新科学技術

 今回は「歴史」の話。と言ってもこの番組は科学番組であるので、紹介するのは歴史研究の分野で適用されている最新技術の話。

 奈良のキトラ古墳の石室には四方を司る神獣の壁画が描かれているが、南の朱雀の下の泥を被った部分に何かが描かれているのではという謎があったのだという。井上咲楽氏などは「泥ならハケなどでさっさと取り除けば」と言っていたが、それは素人の考えそうなこと。実際は古い壁画だけにそういう雑なことをしたら、壁画諸共さっさと消えてしまう恐れがある。そこで最新テクノロジーのー出番となったとか。

キトラ古墳内の朱雀の壁画(出典:キトラ古墳壁画保存管理施設HP)

 奈良文化財研究所では全資料型蛍光X線分析装置を用いて、泥の下の元素を読み取るということが試みられた。昔の顔料は金属を含んでいるので、それらの元素を読み取ると絵具の種類(色が分かる)と絵を推測することが出来るのだという。この分析結果によると水銀を用いた赤い絵の具で蛇の獣人らしき像が描かれているのが分かったという。キトラ古墳には獣頭人身の十二支の像が見つかっていたので、その1つである蛇の獣人だろうと考えられるとのこと。

 

 

地上絵発見のAIと水中遺跡保護のための新手法

 次に登場するのはナスカの地上絵。現在も新しい地上絵が次々見つかっているが、それらは10メートルぐらいのサイズだという。しかしナスカ大地の広さはこの地上絵の400万倍を超えるので、その中から航空写真などで地上絵を見つけ出すのは非常に困難で、従来のやり方だと全域調査には10年以上かかるという。

コンドルを描いた地上絵

 そこで導入された技術がAIの利用である。ITエンジニアの頼伊汝氏によるとディープラーニングで地上絵のパターンを学習させ、それによって航空写真から地上絵を見つけ出すシステムを構成したのだという。自然にない人為性を写真から見つけ出すのだという。その結果、2019年に4つの地上絵を見つけ出したという。これを使うことで最終的に1000個ぐらいの地上絵を見つけることが出来るのではと期待しているとのこと。

 次は水中の遺跡の保存。元寇のモンゴル船の沈没船が見つかっているが、これをそのまま引き揚げたら乾燥と共に木材が縮んで崩壊してしまう。そこでそれをどう保存するかが問題なのだという。

 そのための画期的技術を紹介してくれるのが松浦市埋蔵文化財センターの伊藤幸司教授。ここで使用するのは砂糖の一種であるトレハロースだという。トレハロースは水温で溶解量が劇的に変わるので、高温にして大量に溶かしてから木造船に染み込ませ、冷却することで木材内部でトレハロースが結晶として析出するので、木材を支えて収縮を防ぐのだという。この方法を使用して元寇船のパーツの引き揚げを行うことで、当時の状況を解明しようという。なおトレハロースは元々かなり高級だったが、近年になって酵素を利用した大量生産法が確立したことで実用化された方法だという。

 

 

 以上、歴史研究のための最新技術。とは言うものの、最初の蛍光X線自体は随分昔から普通に科学分析に使用されている手法であって特に珍しいものではない。ただそれを平面にマッピングしたというのが新しいところ。言われてみたら「そりゃそういう使い方もあるわな」というのが本音。

 二つめのAIの利用についてはいかにも今日的。同様に医療の分野でX線などの画像などからガンを自動的に見つけ出そうという研究もなされているので、AIを使用した画像解析分野は急速に進歩していくだろう。そもそも専門家もそれまでの経験から目的物のパターンを把握して、それを適用して見つけるわけであるから、AIも基本的には同じ方法論が適用出来るはず。そうなれば疲労しないAIの方が自ずと有利になってくる。

 最後はトレハロースにそんな活用法があったかというもの。トレハロースと言えば虫歯にならない甘味料というイメージしかなかったが、まさか文化財保存に使えるとは。ただこれも砂糖の一種だけに、砂糖漬けにした文化財に虫が湧くことはないのだろうかなんてことを心配したりしてしまう。もし虫が湧くようなら、ホウ酸でも加えるんだろうか。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・考古学の分野に使用される最新テクノロジーを紹介。
・キトラ古墳では泥に覆われた部分の壁画の読み取りに全資料型蛍光X線分析装置が用いられ、顔料の金属成分から壁画に蛇の獣人が描かれていることが読み取られた。
・ナスカでは広大な大地から膨大な地上絵を探し出すためにAIによる画像解析が導入され、10年はかかると推測された作業の大幅な短縮が期待されている。
・水中の元寇沈没船などの遺跡の引き揚げの際に、乾燥による崩壊を防ぐ技術として、木材にトレハロースを染み込ませることで乾燥時の収縮を阻止する技術が開発されている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあ考古学って実際に科学の発展で一番影響を受けるんですよね。だから現状の技術で解析が困難な遺跡は、さっさと埋め戻して将来の技術進歩に託すってことが普通に行われるわけで。
・一番難儀なのは、江戸時代に辺りに中途半端な技術と知識で中途半端に復元されてしまった遺跡とか。そういうのの本来の姿を取り戻すための研究なんかもあったはず。

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