教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/16 NHK-E サイエンスZERO「未来を紡ぐ!"糸"研究最前線」

蜘蛛の糸を人工合成する

 毎回結構突然なテーマが出てくるこの番組だが、今回は「糸」とこれもまたかなり突然の物である。

 糸とは自然素材や合成素材などの繊維をより合わせた物だが、ここに様々な素材の物が登場しているのだという。最初に登場するのは丈夫な糸。試しに4キロの重りを綿の糸で吊り上げてみると簡単に切れる・・・となるはずが重りが浮いてしまってドッチラケで浅井アナが少し焦るという展開になるのだが、とりあえずその後に唐突に切れて目出度し目出度し。で、次に登場するのが今回の本命の糸。こちらは4キロの重りを軽々と持ち上げて余裕がある。この糸の正体が何かから始まる。

 この糸を作ったのは京都大学で高分子材料を研究している沼田圭司教授。実はこれの正体は蜘蛛の糸。蜘蛛の糸は鳥を捕らえることも出来るほど、自然界で非常に強靱な糸なのであるという。その材料はたんぱく質やリン酸と言うことは明らかになっているのだが、なぜか人工合成を試みるとボロボロになってしまって糸に出来なかったのだという。そこで沼田氏は蜘蛛が糸を作る器官である大瓶状腺に注目、ここで材料が送られて糸になる過程に倣って合成の順番などを再現したのだという。

www.riken.jp

 その方法だが、たんぱく質分子を含む液体にリン酸イオンを混ぜる。ここでたんぱく質の分子が粒状に固まるが、ここに弱酸性の水素イオンを加えるとたんぱく質が一斉に網目状にくっつくのだという。実は蜘蛛の糸は長い線維が絡むのではなく、網目状の構造が束められた物だったのだという。そのために一箇所が切れても糸全体には影響がないので、これが強度の高さの理由だったのだという。

 

 

子供の心臓手術用の広がる血管パッチ

 次に出るのは医療現場で活躍する糸だが、これは心臓病である肺動脈狭窄症の手術に使うパッチの話。子供の時に手術に使用すると心臓の成長に合わせて再手術で取り替える必要があったのを、伸びるパッチを開発したという話で、これは以前に新プロジェクトXで紹介された話。

広がる血管パッチの原理 (出典:帝人HP)

 根本慎太郎医師が開発したこのパッチは、要は体内で分解する糸を使用し、それによって残った糸の部分が広がることが出来るという仕掛け。また糸が消えることで細胞などが隙間に入り込む自己組織化も確認されたという。と言うわけで詳細は新プロジェクトXの記事の方が良いでしょう。こちらの番組でも「あの名曲が聞こえてくる」とか言ってプロジェクトXのことを匂わせていたので。

tv.ksagi.work

 

 

光コンピュータに使える金属ナノワイヤ

 最後は直径数百ナノという超極細糸。これを開発したのは九州大学の機械工学部門の木村康裕准教授。これは金属ナノワイヤと言って、金属板の表面に収束イオンビームを当てることで微少な金属の塊を融合させることで金属の原子が移動する原子拡散現象によって金属板表面から生えてくるのだとか。

www.nagoya-u.ac.jp

 上記記事では木村氏は名古屋大学の助教となっているので、この開発成功で九州大学の准教授に昇進したのか?

 なおこのナノワイヤは表面積が非常に大きいことによる特性が期待出来るという(私などがまず想像するのは化学反応の触媒だが)。また光を通すことで表面の電子を振動させることで光を通すことが出来るので、光コンピュータに応用可能だという。


 以上、糸の科学。取り留めのない話題のように思われたが、内容的には結構興味深い物もあった。

 なお蜘蛛の糸の研究をしている沼田氏。蜘蛛を手に這わせたりしているから蜘蛛が好きなのかと思っていたが、実はあまり得意ではないとか。これには驚いた。仕事だと割り切っているからとのことだが、私なら仕事でもあれは出来ん。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・今まで合成が困難だった蜘蛛の糸だが、京都大学の沼田圭司教授が蜘蛛の大瓶状腺の機能に着目して、その働きを再現することで強靱な蜘蛛の糸の合成に成功した。
・根本慎太郎医師が開発した子供の肺動脈狭窄症の手術用のパッチは、一部の糸が体内で分解することで広がることが出来、成長に伴う再手術の必要がなくなった。
・九州大学の木村康裕准教授の開発した金属ナノワイヤは、光ファイバーに代わる光輸送材料として光コンピュータへの応用などが期待されている。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・たかが糸、されど糸ってところか。金属ナノワイヤなんかは面白かったが、ただ配線材料として使用するにはもっと長いサイズの物を低コストで作れるようにならないと無理だろうな。
・血管パッチのネタは新プロジェクトXでは実用化直後ぐらいに発表されていたが、今回はようやくこちらの番組に登場か。多分NHKが以前から注目していたネタなんだろうが。