教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

5/25 NHK-E サイエンスZERO「先住民と探れ!気候変動の最前線 北極圏」

地球温暖化の最前線の極地

 地球規模での温暖化の影響が一番顕著に出ているのが極地である。グリーンランドで氷河が次々と溶けていくなど、その地域で暮らす先住民も不安を感じている。これらの現象は地球規模での異常気象にも関連している。そこで先住民の協力を得ながら北極圏のグリーンランドでの観測を続けている研究者について紹介する。

 研究チームのリーダーの北海道大学の杉山慎教授は氷河の厚さなどの測定を行っているが、氷河が後退することで現地のイヌイットの生活が大きな影響を受けているという。氷河が溶け出した水で道路や飛行場が使用不能になるなどの影響が出ており、彼らの生活の糧の中心である狩りも海に氷が張らなくなったことによって獲物が減少しているという。

 杉山氏の観測によれば、氷河の末端では氷河が海の中までせり出すことで、夏に氷河が溶けた水が氷河の下の海底から流れ出して、それが上昇することで海水をかき回すことでプランクトンが海面に浮き上がり、それが海洋生物の格好の餌場になっていたのだという。しかし今は氷河の後退によって氷河の先端が海から離れたことが、これらの餌場をなくして海洋生物の減少につながっているという。

 

 

先住民の協力を得て生態系の観察を行う

 研究チームメンバーの国立極地研究所の小川萌日香特任教授は、先住民が狩ったアザラシなどの胃をもらって、その食性を調べる研究を行っている。先住民は獲物を余すところなく利用するが、胃を食べる習慣はないことからその胃を買い取ることにしたのだという。その時にその獲物をどこで狩ったかを聞くことで、どの地域にどのような生物がいるかという生態系が明らかになるのだという。3年間で120の胃を集めて内容物を分析、この地域の生態が明らかになったという。また近年の調査で温暖化による生態系の変化が起き始めていることも分かったという。

 また彼らは先住民に対する研究発表の場なども持っている。参加者からは様々な質問も寄せられおり、彼らが環境問題に対する高い関心を持っていることも覗えるという。このような交流によって彼らからの情報提供や新たな研究の提案なども出て来ているという。現地には研究者と先住民との仲介をする日系の協力者もいるとのこと。

 なお極地の温暖化は日本の気象にも大きな影響を与えており、このような研究の重要性は増しているとのこと。


 以上、環境絡みの極地研究の話。温暖化には世界規模での対策が必要なのだが、アメリカ大統領が「俺が儲からなくなるから温暖化はフェイク」というアホトランプになったせいで先行きはかなり暗い。

 イヌイットも黄色人種であるので、そういう意味では日本人には欧米人よりも親近感を感じやすいかもしれない。先住民の協力を得てのこういう血道な研究は今後も続けてもらいたいものである。ただこういう地味で金につながらない研究は、今の拝金主義の日本ではなかなか評価されないのも問題。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・地球温暖化が極地の気象に大きな影響を与えているが、それらについてグリーンランドの先住民のイヌイットの協力を得て、日本の研究者が観測を続けている。
・先住民は海洋生物の減少を感じているというが、今まで氷河の先端が海までせり出すことで、溶けた水が海底をかき回してプランクトンを巻き上げていたのに、氷河が後退して海から離れたことでそのような海洋生物の餌場が生成しなくなったことが分かった。
・また先住民が狩った海洋哺乳類の胃を集めることで、地域の生態系の観察も続けている。温暖化による生物の変化なども見られているという。

 

忙しくない方のためのどうでもよい点

・こういう地味な研究って実は非常に大事なんですが、とにかく今の日本は「金にならない研究にしか予算をつけない」という方向に向かってるんですよね。これは科学技術全般を基礎を揺るがす由々しい事態で、数十年単位で亡国に向かう愚行なんですが、目の前の金のことしか考えない政治家ばかりなんで・・・。