教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/6 BS-TBS にっぽん!歴史鑑定「三億円事件はなぜ迷宮入りした」

迷宮入りした3億円事件

 伝説の迷宮入り事件だが、事件の経緯を振り返ってみると、捜査陣の不手際ばかりが目立つ事件であるという。

 事件自体は1968年12月10日、東芝府中工場のボーナスを輸送していた日本信託銀行の現金輸送車が、偽白バイ警官によって乗り逃げされて積まれていた約3億円が奪われたという事件である。輸送車には4人が乗っていたが、犯人は車に爆弾が仕掛けられていると言って彼らを車から降ろし、発煙筒を炊いて爆弾が爆発すると彼らを避難させた上で車を乗り逃げている。銀行員たちは最初は勇敢な警官が自ら車を移動させたと考えていて、現金が強奪されたと気付くのにしばし時間があったという。

 あまりにマヌケなように見えるのだが、そもそもこのような状態になったのは心理的には「白バイに乗っているのは警官に違いない」という確証バイアス。さらに多額の現金を輸送するというプレッシャーと当日の豪雨で不安感が煽られており、このような緊張が高まった時には人は極端に視野が狭くなるという正常性バイアスもあるという。

 その上に犯人は事前に日本信託銀行の国分寺支店の支店長に対して爆破の脅迫状を送っているという。この伏線があって偽警官に「支店長の自宅が爆破された。この車にも爆弾が仕掛けられている。」と言われると信じてしまう伏線を張っていたという。

 

 

事件解決を楽観視した挙げ句の多くの捜査ミス

 しかしこの事件では偽白バイを初めとして多くの物証が残っており、捜査陣は当初は年内にも解決できるだろうと非常に楽観視していたという。しかし実際にはあちこちに落とし穴があった。

 事件が報道されると共に目撃者の通報が相次ぎ、事件に使用されたと思われる車も判明したのであるが、既に事件発生から4時間が過ぎていて警察の検問が突破された後だったという。さらに事件に使用されたと思われる車も発見され、その近くにカバーを被せたバイクが置いてあったという目撃証言も多数出たことから、この車で現金輸送車を監視し、途中で白バイに乗り換えて犯行に及んだと推測された。さらに白バイがカバーを引きずった状態で走っており、そこには犯人のものと思われるハンチング帽も見つかっていた。この帽子を調べて犯人の汗や頭髪が見つかれば犯人につながる有力な情報だったのだが、あり得ないことに検査前に捜査員がふざけて被るということをしてしまったために、分析が不可能になってしまったという(バカか?)。

 さらに盗まれた現金は本来は帯封からナンバーが分かるはずだったのだが、この時の現金はその帯封が500円札の分しかなく、しかもそのナンバーを公開してしまったために犯人がそれに気付くことが出来、結局はこの500円札(全部で100万円程度だという)は犯人が処分したのか使われなかったのかは不明だが、未だに見つかっていないという。

 遺留品は150点以上に及んだが、それらの多くがいわゆる大量生産品であり、誰が購入したかなどは不明でいずれも犯人には結びつかなかったという。また犯人が逃走に使ったとされる車についても、多摩地域に土地勘がある犯人が車を捨てるとしたら多磨霊園だろうと思い込んだ見込み捜査の結果、完全に空振りとなり、車が団地の駐車場で見つかったのは4ヶ月後だったという。しかもこの車は衛星写真から事件の翌日からそこに放置されていたことも分かったという。住人が互いに無関心である団地もまた盲点であった。

 

 

捜査をさらに混乱させたモンタージュ写真

 また唯一の目撃者である銀行員の証言も4人一緒にとったために、互いに思い込みを補強し合うような形になってしまってその証言は実に曖昧なものになってしまったという。これも捜査陣の大失態であるが、事件解決を楽観視していたことから、とにかく手続きをさっさと済ませてしまおうというところがあったという。というのも、既にこの時に捜査線上に1人の容疑者が浮上しており、捜査陣はその容疑者の犯行を裏付けるという形で証言を取ろうとしていたのだという。さらにこの時にモンタージュも初めて導入されたが、そもそも犯人はマスクをしてヘルメットを被っていたので銀行員たちはほとんど顔を見ていないにもかかわらず、容疑者に似た顔を作ろうとしてしまったのだという。

 その容疑者は捜査陣が接触しようとする前に自殺してしまい、さらに彼の周辺からは現金は見つからなかった。しかしモンタージュ写真が一人歩きしてしまい、提供される情報も犯人がモンタージュ写真に似ているか否かでふるい分けされてしまうようになったことから、有用な情報を見逃した可能性もあると言う。

 

 

切り札投入も時既に遅し

 そうして捜査が行き詰まりだしたところで切り札として捜査の神様とも言われた平塚八兵衛が捜査に投入されることになる。平塚はまず最初の容疑者は脅迫状から判明した血液型と合致しないことからシロと断定し、モンタージュはなかったことにして一から捜査を開始することを指示する。そして白バイに搭載されてたメガホンを塗装した際に張り付いたと見られる新聞紙片を発見し、それが産経新聞のものであることまでを突き止めたが、既に時間が経ちすぎていて、新聞配達の順路超などが処分されてしまっていて、犯人にたどり着くことは出来なかったという。

 そして結局この事件は未解決のまま時効を迎えることとなってしまう。

 

 

 この事件の当時は私はまだ子供であったが、凄い事件が起こったらしいということは何となく聞いていた。また3億円と言えばとてつもない額という印象を持ったのだが、当時の3億円は現在なら20億ぐらいの価値はあったという。

 当時は犯人の手口が非常に鮮やかで、まさに怪盗ルパンのような手際の事件だったんだろうなと思っていたのだが、後に諸々で事件のその後の詳細を知るに従い、犯人の手際が見事だったと言うよりも、捜査陣があまりに無能に過ぎたのであるということが段々と分かってきた。

 番組中でも「それまでの刑事警察から近代警察に変化する途上の事件」と言っていたが、要はそれまでの容疑者を思い込みで引っ張ってきて、締め上げて自供させたら一件落着というやり方がまだ完全に抜けきっていなかったんだろうという印象が強い。この事件、今の時代なら科学捜査で一発解決だろう。もっとも思い込みや偏見による捜査ミスというのは今でもあるようである。また現代的要素としては、どこかで政治家関係者の影がちらついたら(例えば容疑者が与党の有力者の子弟とか)、意図的に事件が迷宮入りにされるなんてのもよくあるようである。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・三億円事件は遺留品なども多かったことから、当初は事件解決はすぐだろうと楽観視されていた。
・しかし遺留品の多くは大量生産品であり、販売ルートを辿ることが出来ず犯人に結びつかなかった。
・また思い込みで捜査が空振りしたり、物証を捜査員の不手際で使用不能にしてしまったりなどとにかく捜査上のミスが目立つ。
・さらには当初浮上した容疑者に合わせ込むためにモンタージュが作成されたことで、これがさらに捜査を混乱させることにもなった。
・事件捜査が迷走し始めたことから、警察は捜査の神様とも言われた平塚八兵衛を捜査に投入。彼の指示で捜査を一からやり直し、犯人につながる可能性のある新聞紙片の発見がされるが、如何せん時間が経ちすぎていて新聞が誰に配達されたものかを辿ることは出来なかった。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・まあお粗末至極です。警察なんて、その前の時代はとにかく誰でも良いから捕まえて、拷問でむりやりはかせて事件解決でしたからね。それどころか、まさに無実の者を拷問で殺すための特高警察みたいな連中もいたし。

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