教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

12/8 NHK 歴史探偵「写真で迫る真珠湾攻撃のリアル 若者たちは何を感じたのか?」

真珠湾出撃の直前のパイロットたちの姿

 今回は真珠湾攻撃に参加した若者たちはどういうことを考えていたのかに、当時の写真などから迫ろうというもの。そのために当時の白黒写真をカラー化するということを行っている。カラー化された真珠湾の写真からは、現地の人々の日常が突然に破壊されて不安の中に放り込まれた姿も写っていた。

 さらに当時パイロットとして真珠湾攻撃に参加していた島田清守氏の遺品からは、攻撃前の宴会の風景が写っていた。無礼講らしい宴席で楽しげに記念写真を撮っている面々。その宴会が行われたのは鹿児島の翠光園という高級料亭であり、軍関係者の結婚式なども行われたりする場であったという。海軍の費用で宴会が開催されており、参加した彼らは誰もが口にはしないがいよいよ出撃の時が来たことを悟っていたのではという。

 

 

なぜか1人だけ塗りつぶされた写真の意味

 次に登場するのは10人が並んだ記念写真だが、なぜか1人が塗りつぶされている。そこには何があったのか。

 この写真は真珠湾に小型潜水艦で攻撃をかけたメンバーの写真だという。彼らは敵の攻撃で戦死しているのであるが、塗りつぶされている人物だけは敵の捕虜となって生き延びたのだという。彼は日本軍で最初の捕虜だという。当時の日本軍は「生きて虜囚の辱めに合わず」と捕虜になるなら死ねと教えていたので、捕虜となった彼はずっと死ぬことを考えていたという。その彼は最終的にはアメリカ本土に送られた後に戦後に帰国したというが、彼が死ぬことばかり考えていたことから生きることを考えるように変化するのは、ハワイ出身のある僧侶との出会いがあったという。その僧侶は日露戦争に従軍して捕虜になったらしいが、帰国後も白い目で見られることからハワイに移住して僧侶になったのだという。その人物との出会いが彼に「死ぬことではなくて、生きて何をするか」を考えるように変化を与え、彼は後で捕虜になって送られてきた者達にも、何のために生きていくかということを説くようになったという。

 

 

 と言うわけで真珠湾攻撃に関する個人のドラマに焦点を当てているのだが、まあそういう切り口はありではあるが、番組自体は最初は白黒写真をカラーにすることで浮上してきた事実というようなスタンスから始まったのに、途中からその話は完全にどこかに飛んでしまっているし、その件にしても単にカラー化の技術を紹介したのみで、結局は白黒写真をカラーにしたらリアルさが増しますよねというレベルの話。だから番組全体を通して「何を言いたかったんだ」というところが極めて曖昧で印象の薄い物になってしまった。

 まあ「戦争はこんなに悲惨に普通の若者の生活を破壊したんだ」というスタンスで行けば一貫したのであるが、恐らくそういう作りはもう一度国民を戦場に駆り出したいと考えている政府からの「戦争の悲惨さを伝えるな」という指示に反するので忖度したってところだろう。

 それと基本的に前から感じていたこの番組に共通する「とにかく番組の内容自体に柱がない」という制作スタイル(と言うか、端的にいえば制作者のレベルの問題)とも直結しているような気もする。

 

 

忙しい方のための今回の要点

・真珠湾攻撃の頃の白黒写真をカラー化するという事業がなされている。
・そんな中で、真珠湾攻撃に出撃する前のパイロットが無礼講の宴会でくつろぐ姿の写真なども見つかった。
・また小型潜水艇で出撃したメンバーの写真で、1人だけ捕虜になって生き延びた人物が塗りつぶされている写真もあった。
・日本人で初めて捕虜となった彼は、最初は死ぬことばかりを考えていたのだが、日露戦争で捕虜になった経験のある僧侶と出会ったことで、どう生きていくかを考えるように変わり、後から来た捕虜たちにも生き方を説くようになったという。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・今回登場した人物たちの話は非常に重いんだが、それに反して番組自体はやはりとことん軽くて浅いなという印象を受けずにはいられなかった。やっぱり作り手の問題はNHKでもかなり生じているな。

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